アンベール・ノーリッジ#01
「ちっ!」
完全な隙を付いての攻撃を避けられたことに対して、明らかな苛立ちを見せる。
突き出した剣の柄を手元で直角に回し、さらに薙ぎ払う。
だがそれも身を引いて最小限の距離をとり避ける。
「やめとけって。お前の剣は俺には届かない」
「黙れ!」
「ようやく喋ったと思ったら、それかよ」
男は連続して隼人に攻撃を仕掛けるが、そのどれもが避けられてしまう。
決して太刀筋が悪いわけでも、速度が遅いわけでもない。
ただ単純に隼人と男の実力に差がある。
「やめるつもりがないなら、力ずくで止めるぞ?」
隼人は左手に付けているベネスリングから魔力を引き出し、短剣を形成しそれを男にめがけて投擲する。
しかし、それに気付きギリギリのタイミングで防ぎ、すぐに攻撃に転じる。
「何をやっているのですか!」
だが、大きな声でその攻撃は止まった。
声のほうを振り返ると、そこには慌てた様子のアンジェリークがいた。
駆け寄ってくるアンジェリークを見て、剣を鞘に納める男。
「姫様、お身体は」
そう声をかけた男の頬に、鋭い平手打ちが一発。
驚く隼人を尻目にアンジェリークはさらに言葉を放つ。
「王国の騎士が一般人に剣を振るうとは何事ですか! その剣は民や国を守るためものであって、傷つけ奪うものではありません! あの人から一体何を学んだのですか!」
男は叩かれた頬を庇うこともなく、真っすぐアンジェリークの叱責を受ける。
「ハヤトさん、大変なご無礼をお許しください!」
深々と頭を下げるアンジェリークを止める。
「いや、俺も少し焚きつけるようなことを言っちゃったからさ」
「いえ、こちらに非があります。救っていただいた恩人に対して、こんな愚行を…」
「とりあえず、気にしてないからさ」
「アンベール、この件はお父様に報告させていただきます。部屋に戻っていなさい」
「わかりました」
アンベールと呼ばれる男は歩き去っていった。
小さなため息をつく隼人にアンジェリークは再度謝罪を行う。
「申し訳ありませんでした。お怪我はないですか?」
「怪我はないけどな。あいつは何なんだ? 騎士だよな?」
「彼はアンベール・ノーリッジといいます。知っての通り騎士で間違いありません。現在は特殊な任に就いていて、その報告に城へ戻ってきたところです」
「(クレムが言っていたのはあいつの事か)」
「少し前まではこんなことをするような人物ではなかったのですが、やはりあの人がいなくなったのが影響しているのでしょうか…」
表情を曇らせる。
その表情からはどこか寂しさも感じ取ることが出来た。
「もし差支えがないなら、少し話を聞かせてもらえるか?」
「わかりました。それでは場所を変えましょう」




