勇者?魔王?誕生する#01
「…っ………! ……!!」
「(ん…騒がしいな…)」
まだ瞼も開けることもできず、はっきりしない意識の中で何か大勢の喧騒だけがきこえる。
「……った! ………ぞ!」
「こ…………っ! ……っ!」
「(俺の周りに大人数が集まってるのか…?)」
次第に意識もはっきりし始め、ゆっくりと瞼を開く。
光が差し込み眩しく、再び瞼を閉じてしまいそうになる。
なんてことはなく、薄暗くひんやりとした空気が漂っている。
「(なんだここ… やけに暗いな…)」
天井は高く、一部は光が届かず暗闇が広がっている。
その一点を見つめていると、こちらの顔を覗き込んで来た人物と目が合う。
全体的に緑色で耳が尖っており、目がつり上がっている人物。
「目が覚められましたか?」
「…………」
「う〜ん」
少し困ったような表情を見せた。
「まだ意識がはっきりされていないようだぞ」
周りにいる誰かに話しをしている。
「それもそうだろう。長い間眠りに就かれていたのだ。無理もない」
首だけを動かし周りを見渡すと、奇妙な光景が広がっていた。
まず1番に分かったことは、村などではなく建物の中に居ること。
そして次に分かったことは、人間が1人もいないことだ。
骨が鎧を着ていたり、兜を手に持っている鎧や緑色の小さいやつ。
そんな奴らが周りを囲んでいる。
「………は?」
遅れながら思考が今の状況に追いつき始める。
上半身を起こして改めて周りを見渡す。
「おぉ…! 無理をなさらずに!」
初めに顔を覗き込んできた、緑色が心配そうにしている。
「……魔物!?」
思考が追いついた精一杯の第一声。
「お目覚めになられましたか」
足音と共に一つの若い男の声が近付いてくる。
それまで気付かなかったが、どうやら正面の暗闇は道になっているようだ。
音が反響しながらこちらへ少しずつ向かって来ている。
「ベル様…!」
近くにいた緑色がそう口にする。
「おはようございます」
暗闇から声の人物が姿を現わす。
黒衣装に身を包んだ爽やかな男で、この中では1番人間の姿に近いが、金色の髪から角らしき物が見えるあたり、また人間ではないのだろう。
「この時をずっと心待ちにしておりました。あの戦いから今まで、貴方様の事を忘れた事などありません」
目の前まで来て膝をつき目線を合わせる。
「さぁ、世界を手にするために狼煙をあげましょう。魔王様」
周りから耳が痛くなるほどの歓声が上がる。
「え? 魔王…?」
「このベルザ、再び魔王様に身を捧げましょう」
イケメンスマイルでそう誓うベルザという男。
勇者だと言われ異世界へ転生したが、蓋を開いてみれば魔王になってしまっていた。
どうしてこうなってしまったのだろうか。
状況も分からないまま異世界生活が始まろうとしていた、魔王として。