レア職業文字師
世界は不公平の上に成り立っている。身分や容姿様々な不公平はこの世界に生まれ落ちた瞬間に始まっているのだから……
「うぅっ……また就職出来なかった。不公平だ。俺はなんで何も役に立たない文字師なんて職業で生まれたんだよっ!俺……文字師なのに字汚いし、せめて鑑定士とか、鍛冶師とかで生を受けたかった……」
今日もまた肩を落として歩く俺は、現在就職活動中の19歳、名前はアルト。親がアルト神のご加護がありますようにと付けてくれた、俺には勿体無くとても似合わない名前だ。
アルト神ってのは、この世界で崇められている偉い神様の1人で、創生の神様らしい。同じ名前の俺にもう少し、石ころぐらいは優しくしてくれたっていいかと思うんだよね。
俺達はこの世に生を授かった瞬間に、職業と言う恩恵を神様から授かるのだが、理不尽な事に自分で職業を選ぶことができないのだ!まあ、仮に選ぶ事が出来たら、この世界には勇者や大賢者と言う職業の村人が溢れかえるだろう。それはそれで見たい気もするが……
「ようアルト!また今日もダメだったんだろ?まあ、いつか心優しい人がお前を雇ってくれるさっ!はははっ!」
「うるせぇっ!!勝手に決めんなよ!ま、まあ確かにダメだったが……ラグナは俺なんかに構ってないで剣でも振ってろよ!」
ライトグリーンの髪をなびかせ同色の瞳で俺を見下すコイツは、ラグナ.アシュレイ金持ちのボンボンでもあり、容姿端麗でもある……極め付けは職業の聖騎士。
この世界でも数十人程しか聖騎士の職業は存在していないらしく。聖騎士の職業の者は皆、王都でロイヤルガードと言う最強騎士団に配属されるのを定められていた。現ロイヤルガードの隊長は聖騎士らしいが、俺は性格の悪いラグナにだけは絶対隊長などと言う偉大な存在になって欲しくはないと思う。
要するに俺が言いたいのは、ラグナは生まれ持っての勝組だって事だ。対する俺はと言うと、聖騎士のレア職業よりも希少価値だけは高い文字師……この世界で唯一俺だけが与えられた超絶レアな職業だ!ふははは……
「なにニヤついてるんだアルト。もっと危機感をもて!このままだとお前は働かずして生涯を終えてしまうのだぞ。そんなお前に俺からのささやかな贈り物だ、受け取れ……」
高級そうなローブをわざとらしく翻し、ラグナは俺へと魔法書を差し出してくる。魔法書に書かれている文字は、【子供でもわかる生活魔法⑴〜⑸巻】というモノだった。
俺は体を震わせる……コイツ……
「お前……実は良いヤツだな!?俺⑷巻の風おこし覚えてなかったんだよ!!マジでありがと……風おこしってそよ風だろ?暑い日には最高の魔法だよな!」
「アルトお前……いや、悪かった……俺の遥か上を行っていたんだな……が、がんばれよ……」
ラグナはそう言い残し立ち去るのだった。なんか応援されたんだけど?まあ、アイツも中々捨てたもんじゃないって事だろう。学園時代にもう少し話しとけば良かったかな……そうすりゃタダでもっと魔法書貰えたかもしれなかったのに。
「案外魔法書って高いんだよ。なんで生活魔法の書が1000リルもするんだ……ニートの俺には大金だよな」
リルとはこの世界の通過であり、一般人が一日働いて得る所得は大体7000〜10000リルとなるのだった。俺の所得は0リルだから大金だろ?
「よし!念願の生活魔法⑷巻をタダで手に入れたんだ!さっそく覚えるぞっ!」
俺はラグナから貰った魔法書⑷を開くと何度も読み返していく、魔法の習得には魔法書内に書かれた意味や効果などを理解しなくてはならないのだ。生活魔法とは7歳ぐらいの子供であれば、20分もあれば習得可能な便利魔法だ。俺は30分程何度も魔法書を読みなおし、10周目に入った時だった。突然魔法書が光を放ったのだった。
「ふぅ……。やっと習得できたみたいだな!」
光は俺の体内へと吸い込まれる様に消えていた。魔法書⑷のページは白紙となり、俺は念願でもある生活魔法、風おこしを習得した瞬間だった。
【風おこし】
指定した場所へ微風を起こす。
※消費MP 1
スキルを確認しながら俺は満面の笑みを浮かべていた。スキルや職業とはこの世界の理を神託文字と言う神様だけが扱える文字で、この世界の人々は全員ステータスとして確認できるのだ。詳しいシステムは俺にはわからないが、神様が定めたシステムらしい。
そして、神様が定めたシステムは俺を幼い頃から苦しめているモノでもあるんだ。文字師の俺が唯一専用スキルとして持っているスキル……【変換】
職業には専用スキルと言うモノが存在している。例えば戦士、一般的な職業だが専用スキルは凡庸性があり私生活や仕事に活かす事ができる【身体強化】だ。
文字通り体を強化する事ができる、俺にとっては憧れのスキル。これがあれば俺は今頃就活なんてしていないだろう……
そしてこれが俺の専用スキル。
【変換】
一文字は真理の下で真実へと変換される。
※消費MP1
まあ少し見せてやるぜ!俺は郵送にて送られて来た採用の合否通知の封を手際よく開けていく、そこには何度も見て飽き飽きしてしまう内容が書かれていた……ちょっ!この会社ヤバイ!
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この度は残念でございますが、×とさせて頂きます。
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×ってなんだよ!酷すぎるだろ……てかっ、普通は不採用とさせて頂きますだよね。。結果は分かっていたが思わず涙が溢れてしまう……
いいだろう。俺の手にかかれば結果を変える事など容易いのだからな!
「【変換】メタモルフぉ〜〜ゼェェ!!」
手の平を紙の上へと置いた俺はそう叫びながら想いを込めるのだ。勿論叫び声や手をかざす必要は無くスキルは発動する……え、形は大事だろ?
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この度は残念でございますが、◯とさせて頂きます。
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「ふ……ふはははっ!は、はは……」
俺の【変換】は一文字だけ強く願った文字や数字、認識できる記号などを好きに変更する事が出来るのだった……
「残念ですが◯ってなんだよっ!ち、ちくしょう。こんな専用スキルなんの役にたつってんだよ……アルト神め舐めやがって……ぐすっ……」
…………
……