相談、相談
「なんだって?」
山田抽斗はとても驚いた表情でのけぞった。その拍子にカフェテリアの椅子が彼の大きな体に悲鳴を上げ、山田は一瞬カフェテリアの注目を集めてしまったのではないかと心配になった。しかしその心配は無用だった。皆それぞれの選んだコーヒーを一つ自分の前に置き、あるいは手で持ち、自分の問題に没頭していた。それは会社の同僚との付き合い方だったり、目の前の人間を慰めることだったり、逆に余計なことを言ってくる相手への怒りをいかに抑えるかだったり、この次の一瞬に何をしようかという幸福なものだったりした。あるいは当然、信頼していた昔の友達が、無理矢理に目の前の今の友達を犯したという悩み(というか告発)を打ち明けられるということも、含まれるかもしれない。実際に今の山田抽斗はそういった状況にいた。
「信じられないかもしれないけれど、本当なのよ」
山田抽斗の目の前にいる倉科水木は真剣な顔をした。右手に握ったカプチーノのカップが震えている。
「場所は私の家よ。近くまで来たから遊びに来たって言って入ってきて、泊めてほしいっていったから変なことしないって約束させてソファで眠ってもらったんだけど、夜中に……」
山田抽斗は混乱していた。水木が言っている本間日々は、抽斗が知っている限り、そんなことをする男ではない。バドミントンが強くて、運動万能で、学校の成績もよかった。塾に通いながら苦労して勉強して今の大学に入った抽斗とは違う。大学こそ抽斗と同じだが、抽斗は史学科、日々は最も難易度の高い数学科だった。
抽斗は卓球部でその体が示すとおり、あまり強くなかった。運がよければ二回戦まで勝ちあがれたが、三回戦では必ず負けた。日々はいつも関東大会まで勝ちあがって、二、三回は全国大会に出ていた。そんな二人の接点は高校一年生のとき、最初の席で隣同士で、音楽の話をしたことだった。AKB48の中では抽斗は板野友美のファンで、日々は小嶋陽菜推しだった。推しとはいっても抽斗がAKB48メンバー全員の名前を言えるのに対して、日々はせいぜいベスト16の中の何人かをニュースとかテレビ番組とかで見て知っているだけだった。日々は基本的に聞き役で、抽斗がAKBについて話すのを黙って聞き、時々質問をした。
二人は卒業するまで親密な関係を続け、大学では少し疎遠になってしまっていたが、それでもあの日々が水木をレイプしたなんて到底信じられなかった。