ウシ編 第9階層
今週も頑張ってます。ご声援のほどよろしくお願いいたします。
ダンジョン攻略が本格的に始まって一週間が経過していた。
少しずつ慣れてきた、アメリカの荒野。
常に照り付ける日差し、乾燥した空気。
日本の風土とは違う雰囲気だが、ここもれっきとしたダンジョン。
ただ、連日の牛型モンスターの群れとの戦闘で俺以外皆が疲弊していた。
俺は魔法やスキルがないのと、呪われている以外は最高の装備の影響かあまり疲れていない。
モンスターに攻撃してダメージを与えたり倒したりすると、装備した者への回復効果があるようだ。
体力も回復するなんてこの防具チートだろ・・・。
出来れば邪悪な見た目と呪いのセットは勘弁して欲しかったが・・・。
さてと、今回の戦闘も殆ど俺と鬼軍曹でモンスターを倒した。
鬼軍曹も今日は珍しく額に汗をかいていて息も少し上がっているようだ。
毎回、島野さんがササっと魔石を拾ってくれるので、ダンジョン攻略に無駄な時間が無い。
無駄がない分、休憩する時間があまりないのが逆に大変なようだ。
と、ここで雰囲気を察したのか、鬼軍曹が今日は帰還すると指示が出た。
今日は昼からダンジョンを抜けてレベルアップの儀式を行うんだとか。
もう一つのチームである、各国の勇者たちはほぼ毎日レベルアップの儀式を受けれるような環境らしいが、俺らは二軍らしく週に一回だけの環境だ。
まあ、平等ではないけど、勇者の実力やこれからの期待を考えると、仕方ないのかもしれない
国の対応もなんとなくだが納得しつつゲートへ向かった。
ゲートを通り、簡易的に建てた祭壇へと向かう。
「へんたいさんだーー。」
ん?巫女姿の幼女が俺を指差して何か言っている。
「へんたいだ、へんたいさんだーー♪またへんたいになってる。」
とかなり盛り上がっているようだ。
俺の事を指差す幼女。そう、研修の時に俺を鑑定してくれた巫女幼女がそこには居た。
「へ、へんたいなんですか?」
島野さんが引き気味にこちらを見ながら聞いてくる。
「特性に露出があって、それで「へんたい」って言われているんです・・・。」
自分で説明しつつも、なんでこんな事言っているのだろうと自分でも分からなくなってくる。
「そ、そうでしたか・・・。その、ごめんなさい。」
申し訳なさそうな島野さんに、逆にこちらが申し訳なくなってきた。
「いえ、いいんです。もとよりこんな格好ですからね、あっはっはっは。」
明るく返したが何とも言えない雰囲気のまま、皆の道場の視線を受けながら一番最初に祭壇へと通された。
「江崎さんですね、レベルアップは一気に5上げさせて頂きます。その後、ステータスの鑑定となりますので、結果は明日部屋へ送付いたしますので、そこに座れ汚物。」
心の声が漏れている狐巫女さんに命令されるまま座るしかない俺。
きっと俺ではない誰かには需要があるのだろな・・・。
狐の仮面をつけた巫女さん二人と巫女幼女で儀式が始まる。
特に何事もなく終った。
だが、いつもより身体が怠い・・・。
よろよろと祭壇から離れ、皆の元へ戻る。
「終わりました・・・。次の方入っても良いそうですよ。」
「そうか、なら江崎そのまま自室で休んで良いぞ。それと明日は休みだからしっかり疲れをとるんだぞ。」
休みと聞いて嬉しかったのだが、はいとしか言えず、
鬼軍曹に言われるまま自室へ戻り、ベットへ倒れると意識を手放すのであった。
江崎が自室へと戻っていく後ろ姿を見ていたメンバーたち
「珍しく江崎さんも疲れていたんでしょうかね。」
「私も彼が付かれているのを初めて見たんだけどね。彼も同じ人間で、同じ冒険者ってところかしら。」
島野と、蓮池がそんな話をしている。
「まあ、そんなところだ。」
濁すしかない渡辺だった。
その後各自、祭壇でのレベルアップと鑑定を終えて自室へと戻っていった。
島野と蓮池は観光と買い物へ行くようだ。
花山は口数は少ないが休むよりか強くなりたいとの事で訓練の要望が出た。
明日は休みとしていたが、自己鍛錬をしたいと申し出があり、明日の午後に渡辺との戦闘訓練をすることになった。
誘いを受けた渡辺は、報告書などの作成で忙しかったが、下から誘われ嬉しく思い、快く承諾した。
各自、アメリカでの初めての休暇を想像しながら期待を胸に自室へと戻っていく。
皆が解散して、移動するのを見送り最後に残った渡辺。
流石にレベルを一気に5も上げるのは無理だろうがっ!
上層部は一体何を考えているんだ。結局、我々冒険者は消耗品ってことなのか。
これに江崎が耐えれるか不安だ。
ただでさえ不安定な爆弾(特性)を抱えている冒険者になんて事を・・・。
今までの履歴を調べて見てもレベルアップを極力避けているような意図が見えていた。
誰だか知らないがなかなか優秀な上司だったのだろう・・・。
冒険者にとって1回のレベルアップは精神・肉体的にも負担がかかる。特に精神への負担が大きい。だから、現状の冒険者はレベルアップは1で固定されている。
たとえ、1ずつしかあげていなくとも個人差もあり短期間で何度もレベルアップを行えば精神が耐えられなくなり、狂っていくことがある。
だから今回、他のメンバーは1ずつで固定しているのはそのためだ。
そんな冒険者を渡辺自身も何度か見た事があった。
元同僚、元部下、何人かは自分の見知った人たちが急に暴れだしたり、一人でぼそぼそ話ながらどこかへ消えて帰ってくることが無かったりしていた。
毎回、渡辺は上層部へ苦情を出しては直訴していた。
結局こんな性格だから組織に煙たがれて、結局こんな場所にいるのだが、自分の信念を曲げる事はしない。と決めているので今の待遇でもまったく後悔はなかった。
しかし今回は、軍人でもない冒険者が部下だ。
それぐらいはを守ってやりたかったが。自分の不甲斐なさを感じつつも、できる事を出来る限りするしかないと気持ちを切り替える。
その自室へと戻る足取りは軽くはなかった。