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ワルキューレ シリーズ  作者: ヒルナギ
第四章 冥界のワルキューレ

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第十五話 機械仕掛けの楽園

 夜の空が私たちを優しく包み込む。

 私たちは夜に属するもの。

 闇に生きるもの。

 漆黒のピロードとなった夜空が私たちを静かに愛撫する。

 翼が空気を受け、私たちの体を上昇させた。

 私たちは、背に竜の翼を持つ。水晶の破片を散りばめたような、天空に広がる漆黒の星空。そこを竜の翼で風にのり、私たちは滑空する。

 私の前を飛ぶのはヴァンパイア・アルケーにして、魔族の女王であるヴェリンダ様だ。私たちのゆく先には、石で出来た巨大な塔がある。

 ここに棲む人間どもがグランドゼロと呼ぶ場所。

 そして、そこはヴァルラ様の捕らわれている場所でもあった。

 ブラックソウルは、既にそこへ侵入している。自ら囮となり、グランドゼロの警護をしている兵たちを撹乱していた。

 私たちは、漆黒の天空高く舞い上がる。そして、巨大な石の塔へ降り立った。私たちの背中の翼は、折りたたまれ身体の中へ取り込まれてゆく。

 私たちを運んでいた風の精霊たちも、同時にどこかへ去っていった。ヴェリンダ様は黄金に輝く髪を闇の中で靡かせ、あたりを見まわす。その姿は、野性の獣だけが持つ高貴さを備えている。


「美しいな」


 グランドゼロの周りの地表は闇に覆われているが、少し離れた街全体は色とりどりの光に満ちている。ヴェリンダ様は、宝石箱の中を撒き散らしたような煌きを持つ地上を見渡していった。


「面白いとはおもわないか。あんな無様で惨めな生き物である人間たちが、このように美しい世界をつくり出すとは」


 私は無言で頷く。

 私は腰のホルスターから、巨大な拳銃をとりだした。砂漠の猛禽という名を持つその武器を手にする。ヴェリンダ様にとって家畜にすぎない人間たちを、恐れる必要は無い。しかし、ここは伝説の地デルファイだ。魔道の通じない存在が支配する場所がある。

 グランドゼロ・アンダーランド。

 その地にこそ、ヴァルラ様が捕らわれている。


「そして、人間たちは魔道の必要がない世界を造りあげた。結局のところあの醜悪な存在どもは、神に愛されていないことをよく理解しているのだろうな。だから全て自分たちの手によって造りあげてゆく。天上の美を地上へ。天上の楽園を地下へと」


 ヴェリンダ様は侮蔑をこめた笑みを浮かべる。


「では行こうか、ヌバーク。家畜のつくりあげた機械仕掛けの楽園へ」


 私はヴェリンダ様の先に立って、歩きだす。私たちは地下へと向かう。生あるものでもなく、死せるものでもない、奇妙な存在によって支配されている場所アンダーランド。そこが私たちの向かう場所。

 私たちは塔の中に入り、鉄の箱に乗った。鉄の箱はゆっくりと沈んで行く。アンダーランドに向かって。


◆     ◆     ◆


 そこは青い光に満たされていた。

 青い空間。

 静かで儚げな色に満たされている。

 薄暗く、そして透明な世界。

 満たされているのは、水だった。巨大な水槽が壁面のひとつに嵌め込まれている。

その巨大な水槽の中に白い影があった。

 まるで湖の底であるかのような、静寂に満ちた空間だ。私は自分の頭の中が、青い波動に埋め尽くされていくのを感じる。

 これはいつもの白昼夢だった。私は自分が幻覚の中にいるのか、現実にいるのか区別がつかなくなっている。全てはこの瞬間のために用意されていたことのようだ。

 青い光。

 それは無数の微粒子となり、あたりを漂う。

 きらきらと。

 私の心の中もそれで満たされていく。

 白い影。それは巨大だった。およそ、4メートルくらいはあるだろうか。何か大きな海獣を思わせる。

 しかし、それは違った。青い闇の中から浮き上がってくるその白いもの。それはまぎれもなく、人間の形をしている。

 青い空間を遊弋する白い人影。その巨人は、黄金の髪を持ち、金色の瞳を持つ。その青い瞳、仄暗い空間の中でサファイアの輝きを放つその瞳がゆっくりと、私のほうを、向く。

 私がその瞳に映る。

 そして、その巨人の顔は、私だった。

 私が私を見つめている。

 私は青い闇を漂う。

 浮遊。

 無数の青い微粒子が轟音となって私の体を覆ってゆく。世界が揺らいでいた。私は私を見つめる。バーレットを構え水槽を凝視している私を見つめていた。

 青い。

 轟音が。

 世界を覆い尽くす。


「ここは、一体なんや」


 唐突に発せられた莫邪の声が私を現実に引き戻す。私たちが兎の耳を持つロボットによって導かれたその部屋には巨大な水槽がある。そして、そこに漂うのは全長4メートルの巨人。

 私たちのいる部屋は、ちょっとしたホールくらいの広さはある。水槽の大きさは、奥行きはよく判らないが、私たちに見えている部分は映画館のスクリーンくらいはあるだろうか。

 巨人は生きているのだろうか。ここから見ただけでは、判らない。ただ死体の持つ淀んだ雰囲気は無い。むしろ眠っているように見えた。瞳を開いたまま、白昼夢の虜となっているかのように思える。

 莫邪はブラックソウルを見ていった。


「おまえは、これを知っていてここへきたんやな。どういうことか説明してくれ」


 ブラックソウルは薄く笑っている。その笑みを頬に貼り付けたまま、呟いた。


「それはおれの仕事じゃない」


 ブラックソウルの眼差しの先には、兎の耳をしたロボットがある。ロボットは方向を転換し、私たちのほうを向いた。突然、そのロボットの前面装甲が開く。

 中から小さな人間が姿を現す。身長は1メートル以下だろうか。6歳子程度の大きさだ。

 ただ、いわゆる小人や子供と大きく違うのは、その身体を構成する比率だった。普通、小さな人間は頭の大きさが身体に対して大きくなるものだ。しかし、その小さな人間は、普通のサイズの人間をそのまま縮小したような比率の身体を持っている。

 いうなれば、人間を縮小コピーしたような身体とでもいえばいいだろうか。

 その縮小された人間は笑みを浮かべていった。


「ようこそ、グランドゼロ・アンダーワールドの中心へ。私が、クライン・ユーベルシュタインだ」


 ロボットから離れたユーベルシュタインは、ゆっくりと歩き水槽の前に立つ。背後から青い光を受けているためその顔は影となり、表情は読めない。しかし、微笑んでいるようだ。


「あんたが、一体ここがなんなのか説明してくれるという訳か?」


 莫邪の言葉に、ユーベルシュタインはゆっくりと頷く。


「それは半世紀近く前からの物語になる」


 ユーベルシュタインは学者のようにゆっくり落ちついた声で語り始める。


「人類はかつて月へ行った。その時見出したものが、君たちが今目の当たりにしている巨人なのだ」




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