表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワルキューレ シリーズ  作者: ヒルナギ
第三章 天空のワルキューレ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

65/82

第十七話 アルケミアへ

 突然、それは出現した。

 それは降りてきたというべきか。いきなり交響楽のクライマックスが始まったような。あるいは、霧に覆われた向こう側より、突然巨大な建造物が出現したかのごとく。

 フレヤは自身を知った。

 そこは、天空城の、空中庭園である。あらゆるノイズが音へと編成され、光の洪水に過ぎなかったものが形態を備えた。

 手には剣がある。フレヤはその剣を、腰に戻す。その美しい花々に彩られた夢幻的庭園を見渡す。

 ブラックソウルが、ヴェリンダが、そしてバクヤとヌバークが沈黙したまま、自分を見つめているのを知る。


「私は」


 フレヤは呟く。


「私はここでは無い、どこか別の世界から来た。それが今、判った」


 水鏡の中から、エリウスが出てくる。美しい王子は、全身から水を滴らせて庭園に降り立った。


「やれやれだなあ」


 ずぶぬれのエリウスはぼやく。相変わらず、のんきそうな瞳であたりを見る。


「黄金の林檎はどうした?」


 ブラックソウルの問いかけに、エリウスはぼんやりと答えた。


「さあ、どうしたんでしょ」


 突然、水鏡が黄金の光を放つ。あたかも昏い深淵から太陽が昇ってくるように。

 光は無限の高みを持つ紺碧の空を貫く。天空城は、光の柱に串刺しにされたようだ。

 そして、その黄金の輝きを放つ物体は、ゆっくりと姿を顕わした。

 死せる女神の心臓である、黄金の林檎。

 そこにいるものたちは、フレヤをも含め息を呑んだ。それが啓示するのがまさに宇宙の外であることを、本能的に理解したためだ。無限の宇宙よりさらに果てしない、宇宙の外。そこからその暴力的な黄金の光は到来し、あたりを覆ってゆく。

 まさに、世界を終焉に導くであろう力を秘めた光。

 それが黄金の林檎。

 全くコントロールされぬ、野生の姿を人前に晒したのは、おそらく地上に持ち込まれてから始めてであろう。

 ブラックソウルでさえ、身体を震わせた。自分の求めるものが放つ、あまりに凶暴であまりに陶酔的な美しさに酔わされている。

 誰もが思った。

 フレヤでさえ。

 ここまでのものとは。

 世界の果てを超えたものを啓示するということが、どれほどのことかということを。

 今、始めてそこにいる者たちは理解した。

 最初に冷静さを取り戻したのは、ブラックソウルである。


「できるか、ヴェリンダ」


 ヴェリンダは頷き、両手を動かし呪術文様を空中に描く。手の動きに沿って、異質な空間が宙に出現した。

 ヴェリンダが、トラウスを訪れた際に学んだ黄金の林檎の封印の魔法。

 その封印空間は、中空を横断し黄金の林檎へと向かう。そして、黄金の林檎と重なり、光を封じ込める。そこにいる者たちは、ため息をもらした。

 その時。

 漆黒の鳥が、水鏡から出現し封印空間を掴んだ。


「ガルンか」


 ヴェリンダが呻く。


「ザンネンダッタナ、ヴェリンダ。オレハ、シナナカッタ」


 黒い鳥は、そう言い残すと封印空間を掴んだまま紺碧の空へと舞い上がる。凄みを秘めて昏く青い空の彼方へと、漆黒の鳥は飛び去っていった。


「しぶといやつだ」


 ブラックソウルは苦笑する。


「全部終わったようやが、どうするんや、ブラックソウル」


 バクヤが凶暴な視線を、ブラックソウルに投げかける。ブラックソウルは肩を竦めた。


「とりあえず、ガルンを追わなきゃな。また会おう、嬢ちゃん」

「また会おう、て」


 ブラックソウルの背後から、音もなく飛行機械が出現した。その卵形の飛行機械を操縦するのは、シャオパイフォウである。ブラックソウルとヴェリンダは飛行機械に飛び乗った。

 エリウスたちが見守る中、飛行機械は軽やかに空へと舞い上がってゆく。バクヤがため息をつく間に、飛行機械は天空城から去っていった。漆黒の鳥を追って。

 そこにようやく黒衣に身を包んだロキが、城の地下へと続く階段から現れる。


「残念だったな、ロキ」


 フレヤは皮肉な笑みをロキに投げかける。


「黄金の林檎はガルンに持ち去られたぞ」


 ロキは冷静な声でいった。


「やつの行き先は判るさ。アルケミアしか無い。とりあえず、地上へ降りよう。トラウスの神殿への通路は閉鎖したが、サフィアスのフライア神の神殿への通路が残っている」


 ヌバークがロキに言った。


「アルケミアへは私が船でお連れしよう、ロキ殿」


 ロキは黙って頷いた。


◆     ◆     ◆


「全くえらい目に会いましたよ」


 シャオパイフォウは飛行機械の中でぼやく。ブラックソウルとヴェリンダは放心状態で、飛行機械の座席に身を投げ出している。


「私以外は全滅でした。天空城の中に天使どもが大勢残ってました」


 ブラックソウルはうんざりした口調で言い放った。


「そんなことは見れば判る。それより、天空城のシステムは把握したのか?」


 シャオパイフォウは肩を竦める。


「頭の中にちゃんと詰め込みましたよ」


 シャオパイフォウはとんとんと指先で額をつつく。


「この私にしても、えらく手こずりましたがね。それはそれとして、少し気になることがあるんですけど」


 ブラックソウルはじろりとシャオパイフォウを見た。


「なんだ」

「本当にブラックソウル様、あなたはヌース神とグーヌ神を滅ぼすためにだけにあの黄金の林檎のエネルギーを利用するシステムをお使いになるんでしょうね?」


 ブラックソウルはあからさまに、不機嫌な声を出す。


「あたり前だ。昔説明した通りだよ。神々の約定から人間を解き放ち、全ての人々を王国より解放する。それがおれの目的だ」

「だといいんですがね」


 シャオパイフォウは首を振る。そして呟いた。


「まさかそこまで、おれは自分の上司が狂っているとは思いたくない」

「何くだらないこと言ってやがる」


 ブラックソウルはやれやれと首を振る。


「何か疲れてません?ブラックソウル様」

「あたりまえだ」


 ブラックソウルはそういうと、口を閉ざす。


「まあ、元気だしてくださいよ。いいこともきっとありますから。で、次はどこへ行くのでしたっけ」


 ブラックソウルは遠くを見つめる。そして一言だけいった。


「アルケミアだ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ