最終話 西方への旅立ち
ロキとフレヤは、古の神殿の廃虚に立っていた。東の空は朝焼けで、薄い紫色に染められている。その空の下に、ノースブレイド山が黒く聳えていた。
ノースブレイドの南側、ジゼルの城があったところは、崩れ落ち廃虚と化している。ナイトフレイム宮殿が崩壊した衝撃で、ジゼルの城も破壊されたようだ。
フレヤは、朝日をうけ燃え上がるように輝く金色の髪を靡かせ、静かに言った。
「クラウスが死に、封印を強引に破壊した今、私の記憶はもう戻らないはずだ。お前との契約は無効だな、ロキよ」
フレヤの背後に立ち、未だに昏い西の空を背負った黒衣のロキは、答えた。
「方法はあるぞ、フレヤよ」
「ほう…」
「星船へゆけば、記憶を取り戻す術がある。それを俺は知っている」
フレヤは苦笑した。
「いいだろう、ロキ。ではどこへ向かう?」
「西だ」
フレヤは、消えつつある夜の闇が留まった西の空を見る。その青い瞳が、冬の海のように深みのある輝きを見せた。
「西か」
◆ ◆
ナイトフレイムから脱出して二ヶ月後、ケインとジークはオーラにある高級娼館で豪遊していた。ジークは喰っては、女を抱くを繰り返す毎日である。
ナイトフレイムで手にいれたゴラースの神像は、一銭にもならなかった。ゴラースの呪いがかかっていたためであり、処分する為に多大な費用を費やすはめになった。
やけくそになった二人は、強引に山賊のアジトを襲った。山賊を皆殺しにして手にいれた財宝は、かなりの金になった。おかげで、こうして遊べているわけである。
しかし、ナイトフレイムでの苦労はなんだったのかと思わずにはいられない。
女の子といちゃつきながら、東方のエキゾチックな料理を喰っているジークを見ているうちに、ケインは思わずため息をついた。
「なんだよ、ケイン」
ジークの問にケインは首を振る。
「何でもない」
(ナイトフレイムの地下でした約束は、なんだったんだ。てめぇあの時より、一回り太ったぞ)と心の中で思ったが、口に出しても意味が無いため言わなかった。
「ケイン」
「なんだ」
ジークは東方の果物をほうばりながら、言った。
「これ旨いぜ、ケイン。喰ってみろよ」




