第十八話 ジゼルの戦い
青灰色に輝く五体の鋼の巨人に囲まれたフレヤは、猛々しく叫んだ。
「死を畏れよ、愚かな小人ども」
機動甲冑はその叫びに促されたように、槍をフレヤに向かって突き出す。しかし、槍は総て宙を突いた。フレヤは高く、自らの背後に向かって跳躍している。真白き風となったフレヤは、自分の背後に立っていた機動甲冑の背後におり立った。
機動甲冑の兵が事態に気づく前に、フレヤの剣の柄が機動甲冑の背中へ叩きつけられていた。鋼の巨人は、地面へ沈む。その様を見届けたフレヤは、剣を腰のスリングへ戻す。
フレヤは倒れた甲冑の足を掴み、棒きれを持つように振り上げた。青ざめた颶風と化した甲冑は、手近な鋼の巨人を薙ぎ倒す。フレヤは凶暴な笑みを、天使のような美貌に浮かべる。
「私はお前たちの死だ、愚かな虫たち」
残った機動甲冑は、槍を繰り出す。その槍は、フレヤの手にした甲冑を貫いた。
白い巨人は再び棍棒のように、甲冑を残りの鋼の巨人達へ向かって振り回す。
それは、風の神が自らの力を顕現させたかのようであった。三体の機動甲冑は、暴風に晒された草花のように、根こそぎ宙へ舞う。
巨大な甲冑はガラクタのように跳ね飛ばされ、礼拝堂の柱に、壁に激突し、動きを止めた。フレヤは息を乱す様子も無く、大地の女神のように微笑んで立ち尽くしている。
ジゼルの乗る黒い機動甲冑が、剣を青眼に構えフレヤに迫った。フレヤは手にしたままの甲冑を、黒い鋼の巨人に向かって投げつける。青灰色に輝く鉄の塊は、素早く動いた黒い機動甲冑の傍らを飛び去っていった。激しい音を立て、壁にぶちあたる。
その音を背中に浴びながら、黒い巨人が動いた。礼拝堂の清浄な青ざめた光の中で、動く闇のような鋼の巨人が巨大な剣を振り上げる。
風を巻き起こし、巨大な剣がフレヤの目の前を走った。フレヤは上体を僅かに後ろへ反らし、その剣をかわす。風が、黄金色に輝くフレヤの髪を揺らせた。冬の青空のような青い瞳を悽愴に輝かせながら、フレヤは再び剣を抜く。凍り付くように冷たく輝く鋼の剣を、高々と掲げ、美貌の巨人は闇色の機動甲冑と対峙した。
動きだした暗黒のような鋼の巨人は、フレヤと同じように上段に剣を構えようとする。しかし、上段の構えをとる前に、フレヤは無造作にジゼルの間合いの中へと踏み込んでいた。
冬の日差しのように冷たく輝く鋼の刃が、風を起こし振り降ろされる。ジゼルは躱しきれぬと知り、自らの剣でフレヤの剣を受けようとした。
キン、と甲高い音を立て、ジゼルの剣はへし折れる。そのままフレヤの剣は闇を切り裂く光のように、漆黒の甲冑を縦に切った。
前面を二つに断ち割られた黒い甲冑は、背後に倒れる。ジゼルは機動甲冑の中で絶命した。フレヤは優しく微笑む。
裁きを下し終えた大天使のように、白衣の巨人は漆黒の鋼の巨人の上に立ち尽くす。礼拝堂の蒼ざめた光は、サファイアのようにフレヤの瞳を輝かせた。復讐を終えた巨人は、そっとその瞳を閉ざし、瞑目する。死者の魂を冥界へ送る戦場乙女ワルキューレのように。




