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ワルキューレ シリーズ  作者: ヒルナギ
第一章 雪原のワルキューレ

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第十七話 ゴラースの封印

 ジゼル達の動きを無視し、ブラックソウルはドルーズへ近づく。その後ろには、影のようにヴェリンダが従っている。


「ゴラースを、物質転送装置として操るか。見事だな、ドルーズ殿。あんたは確かにラフレール以来の天才だよ」


 黒衣の魔導師は、白い美貌を満足げに歪め、優雅に一礼した。


「この物質転送装置を使えば、オーラの水晶塔に武装兵団を転送することも可能。王国を再び混乱の時代へ逆行させることも、たやすい。あんたとジゼルの望みはそういうことだろう、ドルーズ殿」


 ドルーズは無言である。ブラックソウルは、困ったように笑う。


「余計な仕事が、増えてしまったな。おれは、あんたを見くびっていたよ。しかし、あんたは殺さなくてはならないようだ」

「あなたの闇水晶の剣は、私の体に届きませんよ」


 ドルーズは、優しく言った。


「おれ達を、どこかへ転送してしまうこともできるわけだな。おれが、あんたを殺す前に。だがな」


 ブラックソウルは、仄昏い笑みを見せた。


「本当にできると思うか?」


 言い終えると同時に、目映い光がブラックソウル達を包む。光は、目に見えぬ鏡に反射したように、弾け飛んだ。

 魔族の女王、ヴェリンダ・ヴェックが一歩踏み出す。その漆黒の美貌には、古の宮廷画家が描いた肖像画の美女のような、気高く穏やかな笑みが浮かべられている。


「そなたごときにできることが、魔族の主にできぬと思っているのか、家畜の魔導師」

「そこまで慢心してはいませんよ、魔族の支配者」


 ドルーズは、楽しげに言った。


「どうやら、あなた方を殺す理由ができたようだ」


 そして、黒い竜の翼が、ドルーズの背に出現した。夜明けの太陽を覆う暗雲のように、黒い翼がドルーズの背後に広がる。巨大な蛇のような尾が、床で身を捩らた。

 最後に、黒衣の下から銀色の髪の女の頭部が、姿を現わす。堂々たる威厳を持った竜族の主がドルーズの体内から出現した。

 ドルーズが眠りに落ちる乙女のようにそっと瞳を閉じた時、神々を相手にする高級娼婦のような美貌のエキドナが目を見開く。


「久しぶりだな、ヴェリンダ嬢や」


 竜族の女王が魔族の女王に、挨拶を送った。闇の波動が、礼拝堂の空気を揺らす。

 天使達が死に絶えた夜に地上へ降り注いだ月の光のように、銀色に輝く髪をゆらせ、エキドナは笑った。


「可愛い旦那を見つけたようだな、嬢ちゃん」

「そしてあなたは、家畜の使い魔?お互い変わったものね、老いたる竜よ」


 エキドナは、艶かしく笑った。


「まず、あんたの愛しい旦那を味あわせてもらうよ。とっても旨そうだね、あんたの旦那は」


 夜明けの太陽が夜の闇を引き裂くように、ヴェリンダの黄金の瞳が輝いた。


「竜よ、おまえが本来属していた世界へ帰るがいい!」


 エキドナの足元に、光の渦が出現した。光年の彼方に横たわる真白き銀河の渦のように、異次元への扉が礼拝堂の床に広がる。

 エキドナは巨大な翼を羽ばたかせ、足元に広がった宇宙の上を飛ぶ。エキドナはしたたかな街娼のように、笑った。


「嬢ちゃんにできるかい?私を消し去るなど」


 聖なる乙女のように神々しい笑みを浮かべた、黒い膚の女王が答えた。


「魔族が呼びだした竜を、呼びだした元へ返すだけ。たやすい話よ」


 目に見えぬ力が、二人を包む。その戦いは、互角に見えた。


◆             ◆


 ケインは、右手でエルフの絹糸を操っている。ケインとその胴につかまったジークは、ゆっくりとナイトフレイム宮殿の吹き抜けの底へと向かっていた。

 あたかも魔界の海底へと沈んでいくように、邪悪な瘴気は力を増していく。二人は邪神の住処と言われる、吹き抜けの底へと辿りついた。

 そこは巨大な縦穴の底であり、二人は大きな砲身の底へ入り込んだように感じる。

 足元には幾重にも、なんらかの魔法に関係していると思われる、巨大な円形の模様が描かれていた。


「ねえ、」


 ジークは、その円の中心を指さした。そこには、黄金に輝く像が置かれている。


「あれじゃないの、この宮殿のお宝っていうのは」


 二人はそのゴラースの神像らしい、半神半獣の金の像へと近づく。黄金の像は人間の頭くらいの大きさで、台の上に置かれている。その緻密な細工で造られた彫像は、本当に動きだしそうに見えるほどリアルであった。


「高く売れそうだな」


 ケインは、にっこり笑った。苦労した甲斐も、あったというものだ。その神像であれば、城をひとつ買えるくらいの値段で、売れそうな気がした。


「どれ」


 ケインが慌てて止める前に、無造作にジークが手を伸ばして神像を手に取った。


「馬鹿、この手のものには、大抵罠がしかけてあって」

「でも、大丈夫だったじゃん」


 ジークは晴れた青空のような瞳を輝かせ、にこにこ笑った。子供を抱くように、黄金の神像を手に持つ。


「おれの野生の勘が、平気だっていったんだよ」

「しかし、」


 ケインが窘めようとした時、地鳴りが起こった。


「なんだ?」


 それは、地球の中心が震えていると感じさせるような、奥深い地下で起こった地鳴りのようだ。


「あれ!」


 ジークの指した所に、闇が凝縮しつつあった。それは、丁度黄金の神像の置かれていた真上である。

 それは、闇というよりは物理的な漆黒の物質のようであった。暗黒のエクトプラズムとでもいうべきその物体は、蠢きながら姿を整えつつある。

 そして、その姿はゴラースそのものの形態をとった。

 ケインもジークも、言葉を失った。気高く凶暴な狼の頭を持ち、破壊の凶天使のような黒い翼を背負い、立ち上がった野獣のようなしなやかな筋肉を纏った肉体を持つその神は、ケインとジークの頭上に浮いている。

 それは、やたらとリアルな夢の光景のようであった。ゴラースの姿は凶暴なまでの存在感を持ちながら、麻薬の幻覚のように現実感が希薄である。

 それはあまりに想像を越えた自体の発生に、二人の脳が思考を停止してしまい、正常な感覚を失った為にそう感じられているらしい。ケインは強烈な目眩を感じていた。


「お前たちか、我が封印を取り除いたのは」


 ゴラースが厳かに言った。天から降り注ぐ雷のように、その言葉は二人を打ち据える。ケインは膝をついた。


「礼を言っておこう。私は自由の身となった」


 ゴラースはかき消すように、消滅した。ケインは、動く気力も無くしている。ジークも同じ状態のようだ。


「どうなると思う、ケイン?」


 ジークの問いかけに、ケインは力無く首を振った。


「判らないよ、おれには」


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