穴の中
かっちゃんはまっ黒な穴の中を落ちていきました。下へとおりるエレベーターにのったときのような、おなかのあたりがふわふわとするような気持ち悪い感じがします。
いきなり明るくなりました。
急に落ちるスピードがはやくなって、かっちゃんはいきおいよく地面に投げ出されてしまいました。
「ここは?」
起き上がったかっちゃんの横で、たけちゃんがグラグラするあたまを押さえています。あたりを見回すと土の壁だらけです。トンネルのようです。
ここはどこなんだろう、とたけちゃんと顔を見合わせていると妙に高い声が聞こえてきました。大勢が歌っている声です。
極悪人を 捕まえろ
王様の前に 連れて行け
極悪人を 捕まえろ
目には目を 歯には歯を
極悪人を 捕まえろ
正義の名のもと 裁判を
「ひゃあっ! かっちゃん!」
たけちゃんが悲鳴をあげました。
土でできたトンネルの向こう側から、何かがぞろぞろやってきます。
よく見ると、それはアリなのでした。
整然と列を組んだ、女兵士たちの一軍です。
鉄錆色のそろったよろいを着て、同じ長さの槍を手に持っています。おそろしいことに、アリたちはかっちゃんたちと同じくらいの大きさでした。
「全隊ーっ、止まれいっ!」
合図の声に女兵士のアリたちはぴたりと静止しました。
「貴様か。とんでもない重犯罪人は」
前に出た一匹のアリがきりりとした美しい女の人の声で言いました。逆三角形の顔の大きな黒い瞳でかっちゃんとたけちゃんを見つめます。
「む? 二人いるな……どっちだ……まあ、いい」
さっ、とそのアリは片手を挙げました。
「王の御前に連れて行く! こやつらをひっとらえよ!」
わっ、とアリたちがかっちゃんたちをみるみるうちに取りかこみました。
「わわわわ」
たけちゃんが引きつった顔でわめきました。
たけちゃんはアリが死ぬほど嫌いなのです。
「さ、触らんといて! あんたらについていくから!」
近付くアリたちに、たけちゃんは降参して叫びました。
抵抗しようとしたかっちゃんはアリたちにかつぎ上げられてしまいました。
アリたちは、ガチャガチャと鎧の音を響かせながらトンネルの奥へと二人を連れていきました。