かっちゃん
私が大好きな児童文学「ぽっぺん先生」の作者、舟崎克彦先生の死を悼んで
かっちゃんは生きものが脱皮した後の、脱けがらを集めるのが好きです。
いろいろなセミ、へびの脱けがらを見つけては、黄色い大きな缶の中に入れています。
鎌倉のおばあちゃんがいつも送ってくれるサブレの缶です。
学校からとぶように帰ったかっちゃんは、制服から着がえると、その缶をさがしました。
近所に住む武道くんが、土手で大きなへびのかわを見つけたと、かっちゃんに教えてくれたからです。
「缶、缶。おかあさん、缶、知らない?」
押いれのすみっこにいつも缶を入れてあるのですが、その場所にはありません。
「勝也しかさわらないでしょう!?」
おかあさんは赤ちゃんをだっこしながらイライラしています。
赤ちゃんを産んでから、おかあさんはダイエットをしているのであまり機嫌がよくありません。
「だって、ここに入れておいたのに無いんだもん」
押いれに頭をつっこんでいたかっちゃんは、まさか、と思って頭を押いれの中から出しました。
妹の麻美を、学校から帰って見ていません。
かっちゃんより先に幼稚園から家に帰っているマミは、かっちゃんが帰ってくると「お兄ちゃん」と言っていつも飛んでくるのにです。
「マミ!」
子供べやを開けると、マミがこっちを振り返りました。
座りこんだ脚の間に黄色い缶がありました。
「お前、何してんだよ!」
かっちゃんはあわててマミのところへ行って缶の中を見下ろしました。
「あっ」
ひどい。めちゃくちゃです。
かっちゃんの宝物のかわとマミの宝物のビーズのネックレスがごちゃ混ぜになっています。
レアものの、一番大事にしているカマキリの脱けがらがネックレスとからまっているのを見て、かっちゃんはカッとなりました。
「マミのバカ!」
かっちゃんはマミのかみの毛をつかんで引っぱりました。
とたんにマミは火がついたように泣き出しました。
「勝也!」
おかあさんがとんできました。
「マミが悪いんだよう!」
かっちゃんは真っ赤になって大きな声でさけびました。そして、缶をかかえると部屋をとび出しました。
おかあさんはマミの味方をするに決まっています。いつもそうなのです。マミの方が小さいんだからがまんしなさい、とかっちゃんに言うのです。
かっちゃんはそのまま玄関に行くとくつをはいて家を出ました。近所の武道くんの家にむかって走りました。