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第6話:先輩



『ロック』はダメだとわかり、その後も火の球を作る『ファイア』、氷の球を作る『アイス』、風の球を作る『ウインド』と基本属性魔法を試したがどれも『ロック』と同じように木に当たって砕け散った。とくに『ファイア』はアスティの話を聞く感じだとカイロほどの熱しかなく、1番威力に期待していただけにショックだった。

同じように光と闇の魔法でも球を作ろうとしたがこれは何度やっても出来なかった。というかそもそも光と闇の魔法には基本魔法のような定型的な魔法の形がなく、それぞれの人にあった魔法が使えるらしい。ちなみにアスティの光魔法は『ヒール』でパーティーを回復させる魔法だ。アスティの優しさが現れたような魔法だと思っていたら、実際にその人の人となりが反映されやすいそうだ。だから俺もアスティと同じく光の適性は5だが、『ヒール』は使えず、初めの魔法名を言わなかった時のように全く反応が無かった。

「う~ん…ユーキはどうありたいと思ってるんですか?」

「どうありたい…。」

「例えば最強とか、皆を守るとか、お金持ちとか、モテモテとか。」

「それなら俺は力を付けて俺の大切な人達を今度こそ守りたい。もう誰も失いたくない。」

「それならユーキなりにそれを実現出来そうだと思う言葉が魔法になると思いますよ。」

「俺なりの実現する言葉…。」

皆を守るってことはそれだけ自分が強くないといけない、そしてそれは俺1人では難しいだろうからやっぱり今だとアスティも一緒に強くならないと皆を守りきれないだろう。そうすると俺の今求める魔法は皆を強くする魔法、皆を倒れなくする魔法、皆の危機に速く駆けつける魔法。つまりゲームとかでいう『エンチャント』だ。ドラ○エでいうス○ルトみたいな全体に付与できるタイプがいい。

「そしたら…『シールド』」

俺は俺とアスティが光の結界のようなもので覆われるイメージをして唱えた。すると実際になにかが俺とアスティの周りを包んだのが視えた(・・・)

「アスティ、今!」

「ええ、なんだか力強い何かに包まれているような不思議な感じです。」

どうやら俺の光魔法はエンチャント系であってるようだ。

俺は続けてステータスに表示されていた攻撃と俊敏をあげるように魔法を唱える。

「『アタック』、『クイック』」

すると俺達の体が薄くオーラと風を纏った。

「アスティ、ステータスパットを見てみよう。」

アスティはさっき自分に使ったステータスパットの上についていた更新のところをタップした。



アスタリア・エアロ:20 精霊族

体力:154

攻撃:364

防御:354

俊敏:286


魔法適性

火:5

水:2

風:3

土:1

光:5

闇:1


スキル

『火神の加護』



俺はステータスパットが更新して繰り返し使える事の驚きよりもエンチャント魔法によるステータスの成長率に驚愕した。だって2倍だぞ?俺のステータスも確認したがやっぱり2倍になっていた。

「ユーキすごいです!今までこんな魔法見たことないですよ。」

「そ、そうかな?あ、でも俺強くなっても肝心の攻撃手段が…。」

俺は魔法を誉められて嬉しかったが、どのみち攻撃手段がないことに気付き落胆した。

「大丈夫ですよ。まだ闇魔法の適性もありますしスキルも見てないんですから。スキルで技を使う人もいますし、ユーキもそのタイプじゃないですか?」

アスティに励まされ俺はアスティに闇魔法はどんなものがあるのか聞いてみたが

「すいません、闇魔法は私も適性が低くて使ったことがないですし、使う人も見たことがないんです。」

とのこと。これはしばらく保留しよう。

だから俺はもう1つ気になっていたことを聞いてみる。

「それでスキルってどんなのなんだ?」

「スキルっていうのは私みたいに常に発動しているパッシブスキルと自分の意思で使用を制御できるアクティブスキルがあります。自分のスキルがどういったものなのかはさっきのステータスパットに表示されていたスキルの名前のところをタッチしたら説明がでますよ。」

アスティは、ほらねとばかりに自分のパットを操作して見せた。


『火神の加護』:火属性魔法の威力を増加させる。火属性魔法に対して防御の値が2倍となる。(パッシブ)


なるほど、俺も自分の1つ目のスキル『気新流』をタッチする。


『気新流』:剣術スキル。自身の成長に合わせて発展していく。現在使用不可(アクティブ)


これはまあ予想通りの内容ではあるが「自身の成長に合わせて発展する」ってのは気になった。まあ発展したところで「使用不可」だがな。それで俺は最後の希望である『無属性魔法』をタッチする。


『無属性魔法』:他のどの魔法よりも精霊体に優位に働き、どの魔法とも合わさる万能魔法。(アクティブ)


何度か読み返したが意味がわからない。アスティにも聞いてみたがアスティにもわからないらしく使い方もわからない。通常のアクティブスキルなら使いたいときにそうイメージすることで発動するらしいが、俺のスキルはかたや使えない、かたや使い方がわからないとあってはもはや死にスキルと言っても過言ではない。

「アスティ、一緒にパーティー組んで冒険者をやろうなんて言っておきながらこんなのでごめん。まさかこんな役立たずだとは思わなくて…。もし途中で邪魔だったら見捨ててもらって構わないから。」

「もぅ。今度はユーキがいじける番ですか?さっき私に私がいいって言ってくれたじゃないですか。そんな嬉しいこと言われて見捨てられませんよ。それに私の秘密を教えたのもユーキと一緒に冒険者をやる覚悟を決めたからです。ユーキは私を裏切るんですか?」

「ははっ、手厳しいな。ありがとうアスティ、俺もできるだけ迷惑かけないから一緒にいてくれ。」

「『一緒にやっていこう』ですよ。私達はお互いに必要としている対等の立場なんですから。」

「そうだな。アスティ、迷惑をかけると思うけど改めてこれからよろしく。」

「よろしくお願いします。そしたら残りの夕方までの時間は私達の今後の戦闘の仕方とかを考えましょうか。」

「と言っても悔しいけどアスティにメインの攻撃を担当してもらって、さっきの俺の魔法を援護でかけるくらいじゃないか?」

「それでもこの辺なら大丈夫ですけど、強いフィールドでは通用しないかもしれないですね。ユーキは剣はダメって言ってましたけど、格闘とかはどうなんですか?」

「格闘か、一応やってできないことはないと思う。」

「そしたら一回それでゴブリン相手に試してみましょうか。」

それから場所を移すとゴブリンはすぐに見つかった。今回はゴブリンはこのフィールドで一番弱くて、俺のステータスではやられることはないという事前情報をアスティからもらってるから初めのように逃げまわることもないが、一応エンチャントを一通りかけ、アスティに今回は1人で戦うと言ってゴブリンと対峙する。

まずゴブリンが動いた。棍棒を頭上に掲げ降り下ろす。

俺は難なく横に避けながらおもいっきりゴブリンの横顔を殴った。

するとゴブリンの頭は消し飛びそれに遅れて体も粒子となって消えた。

後には最後の姿勢で固まる俺とドロップアイテムのゴブリンの牙だけが残った。



「なんだよゴブリンってこんなに弱かったのかよ。」

「はい。だからこの辺ならユーキはただの格闘でも戦えます。しばらくはこの辺で戦闘の経験を積んだ方がいいと思います。」

「そうだな。そしたら今日はもう何体かゴブリンを倒して終わるか。」

そして俺達は日が暮れるまでにゴブリンを7体倒して町に帰った。



ギルドに行き、受付に寄る前に掲示板をみると、ちょうど『ゴブリンの牙5本の納品 ランクF 報酬:200E』というクエストを見つけたのでそれをもって受付に向かう。

「お帰りなさいませ。クエストの報告ですか?」

「その前にこれを受注したいんですけど。」

「承りました。こちらを受理致します。続けて達成報告なさいますか?」

「お願いします。」

「そうしましたら、薬草を10本、ゴブリンの牙を5本提出してください。」

俺は言われた通り薬草とゴブリンの牙を受付に渡した。

「クエストの達成を確認しました。報酬をお渡ししますので、Ecをお願いします。」

「アスティ、君のEcは?」

「ここにありますよ。」

そう言ってアスティがEcを取り出す。俺はそれを指差して

「これに全部お願いします。」

「ええっ!?」

「承りました。」

「ちょ、ちょっと待ってください。ユーキと半分ずつにしてください。」

「アスティ、これは安いけど今日の授業料ってことでとっといてくれ。それにあんなことしてたくらいだしアスティも手持ちがないだろ?」

実際にアスティは物乞いのようなことをしてたくらいだからEcの中はほぼ空だろう。俺の懐はスマホを売った時の蓄えがまだあるからしばらくはなんとかなる。

でもアスティは女の子だしいろいろと金はいるだろう。いちいち俺が買い物に付き合ってたらプライベートもないだろうし。だから財布は個人個人で管理するってのはパーティーを組んだ時から俺が勝手に決めてたことだった。

「でもユーキは昨日の宿のお金とかも出してもらってますし。今日のお昼だって…。」

と、アスティがまだぶつぶつと不満を言っていると

「おいおい、後ろつっかえてんだから痴話喧嘩は後でやってろや。」

いつの間にか俺達の後ろに数人の冒険者が並んでいた。

俺はこれ以上絡まれるならアスティに後で宿に帰ってから小言を言われてる方がましかなと思いアスティのEcを隙を見て取って受付に渡した。

「というわけでこれに全部入れといてください。」

「承りました。」

「ああっ…。」

アスティがまだ納得してないのにとあわあわしていたが、その間に受付のお姉さんが入金を済ませEcをアスティに返した。

アスティは「うー」と唸っていたが怒ってるというより拗ねてる感じで全く怖くなかった。むしろ小動物的な可愛さだった。

「すいませんお待たせしまし…。」

お金も貰ったし後ろの人に謝罪して帰ってさっさとアスティからお小言を貰おうとしたが

「あ?誰かと思ったらお前この前クズを助けてたバカなガキじゃねぇか。」

俺はそこで初めて後ろの人達の正体に気がついた。よく見ればあの時の残りの2人も控えている。

「お前も冒険者になったのかよ。しかもパーティーメンバーはキレイなエルフじゃねぇか。エルフは他種族との馴れ合いを避けて話すどころか見るのも珍しいってのにどこで知り合ったんだよ。」

俺はエルフに関する初めての情報に少しびっくりしながらも相手に「いろいろとありまして。はははっ。それではお先に失礼します先輩。」と適当に誤魔化し、未だにぶつぶつ言って今の状況を全く理解出来てないアスティを引っ張って宿に帰った。


~先輩冒険者~


悠希達が去った後しばらくしてギルドのロビーにて

「おいお前ら、あいつらの今後の動きを見張っとけ。エルフの女は使える。」

「了解です。」

そういって仲間達は町のなかに消えていった。1人残ったリーダー各の男はギルドの中の椅子に腰かけ不気味に笑っていた…。

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