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第5話:素質



俺達はクエストに出る為に門を出るところで兵士に呼び止められた。

「おい、外出許可証をみせろ。って、お前昨日の魔法使えないやつじゃないか?」

声をかけてきたのは昨日ゴブリンから助けてくれた兵士だった。

「はい、そうです。昨日はありがとうございました。あ、これ僕らの冒険者カードとクエスト受注書です。」

「お前冒険者になったのか?ゴブリンからすら逃げてたのに大丈夫か?」

「大丈夫です。アスティもいますし。」

兵士はそこで初めて気づいたように

「なるほどな、エルフの嬢ちゃんが一緒ならこの辺のモンスターくらいはどうとでもなるか。でもまあ念のためこれ持ってけ。」

そう言って兵士は俺にポーションを2つ渡すと

「知り合ったのも何かの縁だ。死なれたら夢見が悪いからな。」

「ありがとうございます。薬草採ってくるだけなんでそんな危なくないけど気を付けます。そしたらアスティ、行こうか。」

「はい。」

そうして俺達は広大なフィールドに再び足を運んだ。



薬草の採取は初めてのフィールド散策だけどかなり順調にすすみ、依頼分をすぐに達成。今は自分達で使う用の採取をしていた。というのもアスティはエルフの森の出身なので植物に詳しく、薬草の生えそうな場所がすぐにわかった。だから俺達はフィールドに出てから1時間足らずで依頼分の薬草を集め終わり、今は小遣い稼ぎの採取をしていた。

「ユーキ、そっちはどう?こっちは薬草大分集まったからそろそろいいかなって思うんだけど。」

「こっちも結構集まったよ。」

「そしたら薬草の採取はこの辺にしてお昼にしましょうか。」

「了解。」

俺達は近くの木陰に座って俺が持って来ていたコンビニの袋からお握りを取り出して食べた。いつまでも置いておく訳にもいかないし、アスティが初めて見るものに興味を持っていたこともある。

「初めて食べましたけど、このおにぎり?って言うの美味しいですね。」

「そうか?元いた世界にはもっと旨いものがいっぱいあるぞ。それにこっちの飯も結構旨いしな。」

「こっちのご飯は油が多くて少しはいいですけどあんまり多いと苦しいです。」

「こっちのってことはアスティの地元はまた違うのか?」

「はい。野菜とお肉を一緒に煮込んだりしてさっぱりしたものが多かったです。」

「へぇ~、和食みたいなのかな?食べてみたいな。」

「だ、だったら今度私が作りましょうか?」

「え!アスティが!?いいのか?」

「はい、あんまり上手くないかもしれないですけど一応家では作ったりしてたので…。」

「そしたら今度お願いするよ。楽しみにしとく。」

「わかりました。お金に余裕が出てきたら作りますね。」

アスティは何を作ろうか、あれは今の時期売ってるのかな?とか今から考えを巡らした。

「アスティ。」

「は、はい。」

アスティは考え事をしてるところを急に呼ばれて振り返るとユーキが真剣な顔をしてこっちを見ている。

「アスティ、薬草集めも終わって、昼も食べたし、この辺にはモンスターや人の気配もない。だからそろそろ…いいか?」

アスティは一瞬なんのことかわからなかったが、理解した瞬間顔を真っ赤にして

「ゆ、ユーキ?だ、ダメです。まだお昼ですし私達はまだお互いそんな関係ではないですし。せ、せめて帰ってからがいいです…。」

今度はユーキの方が何を言ってるんだ?って顔になり、同じように理解し真っ赤になり

「い、いやいやアスティ!違うって。紛らわしかったかも知れないけど俺はただそろそろ魔法を教えてもらおうかなと思っただけだって。」

「え?」

アスティはポカーンとした表情で少し固まり再起動すると

「あぁ~っ!また私はこんな!ユーキ、違うんですよ?私はこんな破廉恥じゃないんです。ただユーキが紛らわしいこと言うからなんです。」

「ああ、わかってる。紛らわしいこと言ってごめん。そ、それでアスティ、さっき帰ってからって……?」

アスティは先程よりさらに赤みを増し

「忘れてください!」

ユーキは左頬に強い衝撃を受け目の前が真っ暗になり、地に伏した。



ご飯の後、少し予期せぬ休憩・・を挟んだ後

「そしたら魔法を教えていく前にまずはユーキの魔法の適性をこのステータスパットで見ていきます。」

「はい。」

2人ともなぜか(・・・)話方が硬いが魔法講座はマンツーマンで順調に進んでいく。

「そしたらこのパットに手を触れて『ステータス』と唱えてくたさい。」

「はい。『ステータス』」

するとパットに次々と文字が浮かんでいく。



一ノ瀬悠希:30 人間族

体力:278

攻撃:214

防御:213

俊敏:186


魔法適性

火:1

水:1

風:1

土:1

光:5

闇:5


スキル

『気新流』『無属性魔法』



「………。」

「え、アスティ?何かいってくれないと怖いんだけど、俺のステータスってなんかおかしいのか?」

いつまでもステータスパットを覗いていて何も言わないアスティにさっきまでの気まずい雰囲気も忘れ、無言に耐えきれなくなった俺は話かけると

「…れ…せん…。」

「え?」

「信じられません。レベルが30って事も、体力とかが高いのも普段からトレーニングとかやってるみたいなのでそれだけ頑張ってきてたんだなって感心しますけど、基本属性魔法が全部1で光と闇が5でしかもスキルが2つもあるなんておかしいです。」

と急に早口でそう言ったアスティにびっくりした俺は

「そ、そんなにおかしいのか?」

となんとか口から出すと

「だってユーキは人族だから水神ウンディーネの加護を受けて水の魔法の恩恵を受けるはずなんです。なのに1だなんて…おかしいです…。でも、ユーキもそうなんですね…。」

「俺も?」

アスティは小さな声でユーキになら…と呟いてステータスパットを手に取り『ステータス』と唱えた



アスタリア・エアロ:20 精霊族

体力:154

攻撃:182

防御:177

俊敏:143


魔法適性

火:5

水:2

風:3

土:1

光:5

闇:1


スキル

『火神の加護』



「アスティも結構すごいじゃないか。魔法も全体的に適性あるし、さすがエルフだな。」

俺は素直に称賛したが、アスティの気分は落ち込んでいるようで

「それはユーキが魔法のことを知らないからですよ。」

「アスティ?」

俺はなぜアスティがこんなに沈んでるのかわからず心配になったが、アスティの方から少しずつ話てくれた

「魔法というのは火、水、風、土、光、闇の6属性があって、その中でも火、水、風、土は基本属性魔法と呼ばれていて、各大陸の守護神の恩恵を受けて魔神族は火、人間族は水、精霊族は風、獣人族は土の魔法の適性が高くて、どんな人でも加護を受ければその適性は3以上になるんです。」

「え、でも俺は人間族だから水が高いはずなのに水は1しかないぞ?」

「そうなんです。私もそれに驚いたんです。ユーキもそうなんだって。」

「そういえばアスティも精霊族なのに火が一番高かったな。アスティが落ち込んでいるのはこれが原因か?」

「エルフは魔神族と仲が悪く、今はないですけど昔はよく戦争をしていたんです。そのせいか精霊族は魔神族を忌避していて、その守護神であるイフリートも忌避しているんです。だから私が『火神の加護』なんてスキルを持っていて、火属性の適性が高いことが分かって、特に魔神族を忌避してる人達からよくいじめを受けてました。親も私より弟達によくかまってましたし。」

「アスティ…。」

俺はアスティの話を聞いて顔をうつむけた。

「ユーキも嫌ですよね?こんな魔法にコンプレックスを持ってる半端なエルフなんかに魔法を教えてもらいたくないですよね…。」

「アスティ…ごめん。」

「なんでユーキが謝るんですか?黙ってたのは私です。」

「いや、俺は悔しいんだよ。」

「悔しい…?」

「俺にはアスティのその悩みを解決する力がない。恩人の頼みを叶えられないんだ、悔しいよ。それにアスティはこんなにいい人なのにただスキルが気にくわないってだけでいじめられるなんて間違ってる。」

「ユーキ…。」

「それに俺はアスティがコンプレックスを持っているとしてもこの世界で一番頼れるのはアスティだから、やっぱりアスティに魔法を教えて欲しい。」

「私のコンプレックスやいじめの事でユーキが悔しがる必要はありません。実際今は楽しくすごせてますし、感謝してます。でも、私みたいな半端が教えていいんですか?」

「ありがとう。俺はアスティがいいんだ。それに俺達パーティーだろ?組んだばっかでもう解消とか嫌だしな。」

「ユーキ…ありがとうございます。」

アスティは目に涙を浮かべて微笑んだ。

「そしたら魔法の授業の続きをよろしくお願いします先生。」

「もう…からかわないでくださいよ。それじゃあ続きですけど、まずは数値ですけど、これはその人の身体能力を分かりやすくしたものでこんなものだとしか言えません。」

「これは俺の世界にも似たようなものがあったから大丈夫だよ。」

おそらくゲームとかのステータスと同じように思って間違いないだろう。わからないのはこの先だ。

「次に魔法の属性の横の数字ですけど、これは適性で、これが高いほど使える魔法の種類や威力が上がります。」

「そしたら俺は基本は全部1だからかなり弱いな…。」

「そうですね…。私も土は1ですけど、一番初級の土魔法のロックしか使えませんし、威力も初級の火魔法のファイアの半分あるかな?くらいです。」

「はぁ~…。」

「そんなに気を落とさないでください。光と闇は5あるんですから。普通ならそれは1か2くらいしかないんです。それに人によって使える魔法が全然違うんで使い方によっては基本魔法より強くなります。」

「そ、そうなのか、ごめん。」

アスティが俺に気を使ってくれたのが分かってまた少し後悔した。

「それで、それはどうやって使うんだ?」

「えっと、大気中にあるそれぞれの属性の精霊体マナから使う魔法の属性のマナを集めて、魔法が起こるように祈るんです。」

「集めるって?」

「私もうまく説明できないんですけど、例えば手に火の球を作って飛ばそうとイメージしたら実際できるみたいな感じです。ユーキはまずそんなに危なくない土の球を作るイメージでやってみたらどうですか?」

説明がすごく抽象的で分かりにくいけど、どうやらこの世界の人は魔法が使えるのが当たり前で使い方を教える事自体ないらしい。アスティの説明だとなんとなくイメージしたらできる。みたいなのだったが…。とりあえず俺は土の球を作る感じで掌に集中する。

しかし5分待っても何も起こる気がしない。

「アスティ、何も起こる気配がないんだけど…。」

「う~ん…。おかしいですね。」

「そういえばさっきの兵士は魔法の名前を言ってたけどあれはいいのか?」

「あ…。」

「アスティ…。」

「あはは、すいません。土の球を作るなら『ロック』です。さ、さあもう1回ですよユーキ。」

アスティは雑に誤魔化したが俺はそれをジーッと見てから仕切り直した。

『ロック』

と唱えて掌に大気中から砂が集まるようイメージする。

すると掌にサッカーボール大の球が現れた。

「おぉ!できた!」

「やりましたね。そしたらこれをあっちの木に向かって撃ってみてください。これも飛んでいくイメージです。」

俺はすぐに掌に土の球をのせたまま近くの木に掌を向け、それが高速で撃ち出されるようイメージをする。するとそれは野球で言えばスローボールのような軌道と速さで木に飛んでいき、木に当たって砕けた。

「………。」

「できましたね。ユー…キ?」

俺達は対称的な反応をとっていた。それも仕方がない。俺は高速・・で球を撃った。しかし実際はヘロヘロの軌道を描いて木に当たり、しかも撃ち負けて砕け散った。

魔法を武器に戦おうとしてるのにこれではまともに戦える訳がない。がっかりして当然だろう。アスティは素直に魔法の成功を喜んでくれたようだが、俺には素直に喜ぶ元気は無かった。


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