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第3話:アスタリア・エアロ



部屋に入って荷物(といってもコンビニの袋くらいだが)をおろし、部屋を見てまわった。安い割に部屋は広く、風呂とトイレも別でついている。ベッドも座ってみるとふかふかで寝心地が良さそうだ。と、そこで椅子に座ったままうつむいてじっとしてる彼女をみつけ

「なあ、なにをして…」

俺が声をかけようとしたら彼女はびっくりしたのか急に背筋を伸ばし

「あああ、あのあのあの!私その前にお、お風呂入ってきていいですか。」

「え、あどうぞ」

「お先に失礼します!」

そう言うと彼女は風呂に駆けていった。

「そんなに風呂が好きなんだろうか、まぁ女の子ならそうなのかもしれないが」

ただボーッと待っとくのもなんなので、俺はこれからのことを考えることにした。


~悠希~


まずはこの先この世界で生きていく術を身に付けないといけない。そこで思い浮かぶのは、今朝遭遇したゴブリンとそれを魔法で一撃で葬った兵士のことだ。

この世界では魔法が使えて当たり前だというのはその兵士さんの話でもわかっている。

だからこそまずは魔法をどうにか使えるようにしなければならない。

だが、幸いこれは彼女が魔法でどんな敵でも消してみせると言っていたから、彼女にもし予定がないなら魔法を習うことが出来るかもしれない。

後は今後の(エレメント)の問題だ。この世界でのバイトとかの稼ぎ方も彼女に聞いてみた方がいいだろう。まあ、彼女も金がないからああやって物乞いをしてた訳だからこれはそこまであてにしないようにしよう。

「あとは…そうだな…。」

と、そこで俺達はまだお互いに名前を知らないことを思い出した。

「まずはお互いの自己紹介からだな。」

そのあとでいきなり魔法を教えてくれってのは話が急すぎるから話の順番としては

1、自己紹介

2、お金の稼ぎ方

3、魔法の使い方

かな。考えがまとまり、ふと時間をみると彼女が風呂に入ってもう1時間がたつ。

流石にそろそろあがってくる頃だろうと思って、俺は店主に料理を持ってきて貰うよう頼んだ。

自己紹介とか今後のことは飯でも食べながらの方がいいと思ったからだ。

けど遅いな、けど女の子ならこんなものなのか?母さんはもっとさっと入ってたけど。と思って風呂のドアを見ていたらそのドアがゆっくりと開いていった。


~女の子~


まさかあの場でいきなり告白されるとは思ってなかった。しかもその後すぐ宿に行くなんて!あの年代の人はそういうものなの?

宿に入ってからも全然落ち着かず、むしろ緊張は増すばかり。で、でもここに2人で1部屋とってってことはそ、そういうことだよね?あの人には恩もあるから嫌だって言いにくいし、でも私そんな経験ないからやっぱ怖いし、でも、あの人なら一緒にクエスト受けてくれるかもしれないし…う、うん…決めた。もしそうなったら今後のこと聞いて私とクエストを受けてくれるならそのときはそ、その…しよう。あ、でも前回宿を出てからまだお風呂に入ってない!やだ、このままは恥ずかしいけど言い出しにくいしどうしよう…と考えていたら

「なあ、なにして…」

急に声をかけられて私はテンパって

「あああ、あのあのあの!私その前にお、お風呂はいってきていいですか。」

と、つい今考えていたことを言ってしまった。言っちゃった!と考えていたら向こうも

「え、あどうぞ。」

といってきたので

「お先に失礼します!」

私は急いでお風呂に逃げた。

お風呂でしっかりと体を洗い、湯船に浸かった私はここから出たらすぐそうなるんだろうか、やっぱり怖いなと思い出るに出られなくなっていた。けど、もうお風呂に入って1時間くらいたつしあまり待たせて怒られたりとかも嫌だし……よ、よし。

私は決心してお風呂をあがり、さっきの格好でそうなるのは変だった(大きなローブで頭からすっぽり覆われている)のでローブだけ外し、その後しっかりと髪をとかし、ドアの前で1度大きく深呼吸してからゆっくりとドアを開けた。


~悠希~


ドアからゆっくりと出てくる彼女をみて俺は一瞬止まってしまった。

「……綺麗だ…。」

思わず口からそう漏れてしまったのも仕方ない。彼女は今までローブで頭からすっぽり覆っていて、顔を見たのは初めてだった。それが薄く碧がかった髪を背中に流し、その種族ゆえの特徴的な長い耳と整った顔をもつエルフだったのだから。

「えっ!?」

俺は彼女の声で俺がつい口に出していたことに気づいて

「あ、いや違う!いや違わないけど…ってあぁっ!と、とりあえずそこに座って。食事をしながら話たいことがあるんだ。」

「え?は、はい。」

彼女は空振りしたような顔をしてゆっくりと対面の椅子に腰かけた。

2人が席についてすぐに料理は運ばれてきたので

「まずは食べようか。話は食べながらでいいかな。」

「はい。」

彼女はこちらの様子をチラチラ見ながら食べ始めた。


「どう?落ち着いた?」

「はい。」

ある程度食事もすんでお互いリラックスでき

てきたところで俺は話を切り出した。

「そしたらお互い素性も知らないもの同士だと落ち着けないからまずは自己紹介から。」

「はい。」

「俺の名前は一ノ瀬悠希です。よろしくお願いします。」

「私はアスタリア・エアロといいます。こちらこそ助けていただきありがとうございます。」

「えっと、それはエアロというのが名前でよかったですかね?」

俺はこの世界の名前の並びがわからず、いきなり名前で呼んでしまったりとかならないようにあらかじめ聞いておいた。

「おかしなことを聞かれますね?エアロというのは家の名前です。私の名前はアスタリアです。」

案の定アメリカとかみたいに名前と名字が逆になっていた。聞いといて良かった…。

「そうですか、すいません。そしたら俺の名前は悠希一ノ瀬です。」

「おかしな方ですね。」

「ははっ。」

俺はこの世界の人間でないと話すかどうか迷ったが、これから頼み事をするのに隠し事は良くないと思い話すことにした。

「エアロさん、実は俺は…」

「アスティです。」

「えっ?」

急に話を遮られ変な声が出てしまった。

「私のことはアスティと呼んでください。家族や仲の良い友人はみなそう呼びますので。」

「そうですか、なら俺のことも悠希と呼んでください。」

「わかりました。ユーキ」

「はい。それでアスティ、俺のことなんだが…」

俺はこの世界の人間でなく、前の世界で死にかけたところ女の子に助けられ、光に包まれたと思ったら、町の外の草原にいたことなどを話、違う世界から来た証拠としてコンビニのパンを見せたり、魔法が使えないこと、さっきの質問もどっちが名前かわからなかったからだということなどを話した。

「うーん…、にわかに信じられないですがユーキの態度とかを見てると本当なんでしょう。でもそんなことできる術なんて…。」

と、アスティもいろいろ考えてくれてるが、話を進める

「この事に関しては今考えても仕方がないから後回しにして、今俺が困ってるのは金の事だ。俺はこっちでどうやったら稼げるかわからなくて…なあ、アスティはどっか稼げるとこ知らないか?」

「稼ぎですか…実は私があんなところで物乞いのようなことをしていたのもそれに関わるのですが、各町にはそれぞれギルドというのがあって、そこで依頼されるクエストを受けて稼ぐ人達を冒険者と呼ぶんですが、実は冒険者になるには規則があってどうしても私1人ではダメなんです。」

「その規則って?」

「それは大きく3つあって、

『冒険者と国の兵士意外は外で緊急時を除きモンスターの討伐、捕獲を行ってはならない。』

『素材の採取もギルドで管理され、勝手に採取してはならない。ただし、自身の土地ではこれは適用されない。』

『冒険者登録の際、最低でも剣士と魔術師が1人づつ必要である。』というもので、私は1人だから稼ぎようがなかったの。」

「それなら俺が一緒に登録すれば解決できるな。お互い問題がなくなって一石二鳥だ。」

「い、いいんですか?」

「むしろこっちがお願いしたいくらいだ。」

「あ、ありがとうございます!」

「そしたらこれからよろしく。一緒に頑張ろう。」

「はい!」



そのあと少し間をおいてから俺はもう1つの話を聞いた

「えーっと…俺の方はもう1つあって…」

「…ゴクッ」

なぜかアスティがすごい緊張してこっちを見ている…。

「ギルドの事にも関係あるんだけど、実はちょっとトラウマになってて今は剣が使えないんだ。だから俺が剣士として登録するのはいいんだが、このままだと俺は戦力になれない。だから…俺に魔法を教えてくれないか?」

俺はアスティの目をじっと見つめてお願いした。

「……え、それだけですか?」

「え?そ、そうだけど、やっぱり魔法なんて教えられないか?」

「い、いえ!それは全然構わないんです。あ、あれ?そしたら私はとんだ勘違いを?ああ~っ!恥ずかしいです…。」

なぜかアスティが真っ赤になってうつむいてしまった。

「あ、アスティ?大丈夫か?」

「大丈夫じゃないですけど…もぅ…ユーキのせいですよ!」

「お、俺がなんか言ったか?」

「あなたが俺に付き合えなんて告白みたいに言って宿につれてきたから私はてっきりその…べ、ベッドでそうなるのかと…私覚悟決めてついてきたのに……。」

え?要は俺がそれ目的でここに連れてきたと思ってたのか?

「いや、ご、ごめん!俺そんなつもり全然なくて、ただ放っておくことも出来なくて、その時は顔も見てないからまさかこんなに可愛いとは…ってあぁーー!」

俺は何を自分から地雷を踏んでいってるんだ。

アスティがさらに真っ赤になっていく

「と、とにかくごめん!すごい勘違いを。」

「もういいですよ。テンパってるユーキを見てたらもうおさまってきました。」

アスティはそう言ってニッコリ微笑んだ。

「あ、ありがとう。」

ここでその笑顔は反則だろ…。

「と、とにかく俺に魔法を教えてくれるってことでいいのか?」

「はい。明日ギルドで申請を済ませてから外の草原で練習しましょう。」

「ありがとうアスティ!アスティに出会えて良かったよ。」

俺は嬉しくてついアスティの手をとっていた

「いえ、そんな…。で、では今日はいろいろ疲れてるでしょうから明日に備えて早く寝ましょうか。」

「ああ、わかった。そしたら俺は風呂に入ってから寝るよ。アスティは先に休んでて。」

「はい。おやすみなさい。」

そうして俺は風呂に入った後アスティが既に寝てるのを確認して

「やっぱり可愛いな…。こんな子と同じ部屋でとかなかなか寝れそうにないな…。」

といいつつもベッドに入ると慣れないことの連続で疲れていたのかすぐに意識が沈んでいった…。


~アスティ~


ユーキがお風呂に入ってからも自分の勘違いの恥ずかしさからかなかなか寝れなくてもぞもぞしていると、ユーキがお風呂から出てくる気配がしたので寝たふりをすることにした。ユーキはお風呂の後で私のベッドに近づいて私の顔を覗いて

「やっぱり可愛いな…。こんな子と同じ部屋でとかなかなか寝れそうにないな…。」

と言ってベッドに入りすぐに寝息をたてだした。

私は、すぐ寝るの!?なんてツッコミを入れる余裕もなくバクバク鳴る心臓を抑えるのに手こずり、やっと寝たのは深夜4時になろうかという時間だった…。

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