プロローグ~新たな人生へ~
俺はその光景を見てしばらく何が起きたのか理解出来ず、固まってしまった。
ハッとなり母さんに気付き駆け寄った。
「母さん!しっかりしてくれよ、母さん!」
呼びかけるも返事はない。腕をとっても脈を感じなかった。
俺はさっきの男に殺意を覚えた。俺は犯人を追いかけて殺す為に鞄から剣を取ろうとした。もちろん真剣ではなく、剣術用に刃を潰してあるものだ。だが剣を掴んだ瞬間腕に力が入らない。
こんな感覚は初めてでこの時はなんなのかまだ理解出来なかったが、何度やっても持つ手を変えても手に力が入らず、ただ震えるだけだった。
「…そうだ、まずは救急車だ。」
俺は思いたちすぐに剣を置き電話した。
「あと、警察。」
警察にも電話して犯人の特徴。後ろ姿くらいしか見てないが父さんの剣をもっていたのだからそれを伝える。あとは大体の身長と男という情報くらいしかない。
この時の俺は冷静に考え、話も出来ていた。まるで未だにこれが現実として受けとめきれず、夢であると信じているかのように。
結果としては母さんは救急車が到着した時点で既に死んでいた。そして犯人もすぐに捕まった。家を出たあとすぐに警察に見つかり、真剣をまだ持っていた為その場で逮捕されたそうで、その後で母さんを切った事がわかったらしい。因みにその人は近所のおじさんで、俺も何度も挨拶を交わしたりしてる人だった。
目的は母さんだった。父さんを亡くした母さんに詰めより断られ、その結果喧嘩になり逆上し切り殺した。なんともありがちな展開だった。
その後俺は事情聴取などを受けたが記憶にない。この辺りから意識が曖昧で、気がついたら3日が経過していた。母さんの葬儀などは親戚の人たちがしてくれたのを朧気ながら覚えているがはっきりしない。ただ家の中には母さんの姿がなく、そこで初めて涙を流した…。
しかし、ここで挫けて泣いていては父さんに合わせる顔がない。俺は少しでも無心になれるように素振りをすることにした。あとのことはそのスッキリした頭で考えればいい。その方がいい考えも浮かぶだろうと思ったからだ。しかし剣を握った瞬間リビングで倒れている母さんが頭に写った。その時俺は理解してしまった。
何年も剣術の腕を磨いてきて大切な人1人守れやしない。
それが真相心理に働きあのとき剣を持てなかったのだと…。俺は自分の中で剣術に費やしてきた人生が崩れる音を聞いた気がした。こうなってしまったらもぅ駄目だった。剣を持つと震えだし、頭痛と吐き気がしてまともに立てやしない。俺はこの日2度目の涙を流した。
1日泣いていたのか辺りが暗くなっていて、腹が鳴った。
こんな状態でも腹は減る。俺は料理なんて出来ないので仕方なく近くのコンビニに向かった。
コンビニで水とおにぎり、パンなどを買っての帰り道脇道から声が聞こえてきた。
何かと思ったら不良が3人がかりで女の子に絡んでいた。女の子は「やめてください。はなして!」と叫んでいたが不良達はお構いなしだ。俺にも関係のないことだと帰ろうとした時だった、ふと女の子の顔がこちらを見ているのが目に入った。何もなければ無視して帰ったんだろう、だけどその子が母さんに重なって見えてしまった。よく見れば全く似てないのはすぐにわかったのになぜか見えてしまった。気がついたら「その人から手をはなせ!」と叫んでいた。不良達が不機嫌そうにこちらをみて
「兄ちゃん邪魔すんなや!引っ込んどけ!」
「お前には関係ないだろ!」
と言っていたが俺は聞く耳持たずそいつら2人を殴り倒していた。
残った1人もさっさと倒そうとしたところでそいつの手にカッターが握られていた。
「クソガキが!なめんなよ!」
不良がカッターを振りかぶった。僕は避けようとしたがしばらく何も口にしていなかったからだろう、体がふらつきうまく動けなかった。しまった!と思った時には遅かった。俺の胸にはカッターの刃が突き刺さっていた。
不良も避けると思っていたのか単に考えなしに行動したのかはわからないが俺に刺さったカッターを見てすぐ残りの2人と逃げ出した。
「クソッ、こんなあっけないのかよ俺の人生は…。父さんを目指して剣術に励んだのは所詮無駄だったのか…。」そんな俺の独り言はこの場でただ1人逃げ遅れた女の子に聞こえてしまっていた。
「お兄さんは剣をしていたの?」
俺は女の子を見た。まだ幼い…中学生になるかならないかあたりか
「あぁ、これでも剣術で3段なんだよ。でも何も守れやしない。俺の剣術は意味がない。どうせこのまま死んでいくんだろう、さっきから血が止まらないしな…。ごめんよ、こんな場面見せてしまって…。」
女の子は首を横に振ると少し考えるような素振りをみせ、小声で「…この人になら」と呟いたあと俺に寄ってきた。
「お兄さん。第二の人生をやりたくないですか?その剣を使って大切な人を守っていく。そんな人生を」
この子はなにを言っているんだろうか
「ハハッ、そういうのは…」
「いいから答えて!やりたい?やりたくない?」
「よくわかんないけど、そんな幸せな人生があるならやってみたいね」
半ばどうでもいいと思いながらも答える。どうせそんなことできるわけがないのだから。
「それなら」と女の子が俺の胸に手をあて、なにかブツブツと呟きだした。
「何をして…!」何をしてるのかと聞こうとしたら急に女の子が光りだした。
「お兄さんの望む通り、第二の人生を授けます。ただしそれはこの世界ではなく、もっと困難の待ち構える世界です。それでもお兄さんはやり直しますか?」
「俺は…」剣術をやっていた時の俺を思いだし、あの時の俺にまたなれるなら、大切な人を今度こそ守れるなら、どうせこのまま死んでいくなら…と考えて
「…やりたい」
俺は無意識に呟いていた。
「では、お兄さんに新しい人生を授けます。向こうに行ったらまず近くの町に行ってアスタリスという人に会って、共に行動して世界を救ってください。勝手なお願いですがよろしくお願いします。」
血が不足し意識が遠のいていく中、彼女の声が通っていく。よくわからないが頼られているのだろう。薄れていく意識の中で俺はやっぱ母さんには全然似てなかったなと思っていた………。
次に気がついたら草原の真ん中に俺は立っていた。




