第13話:旅立ち
マシューさんから新しい武器を貰った俺達はギルドに向かっていた。
「今日のクエストはどうしようか?」
昨日の戦闘の結果だともっと数を増やしたり、フレアコンドルのクエストも受けて大丈夫だと思ったがアスティの意見も聞きたい。
「そうですね。やっぱりユーキの実力だともっと数もこなせるでしょうし、ロックリザードもフレアコンドルも両方水が弱点なので私の魔法でも充分対処出来ると思います。」
「なら今日はもう少し頑張ってみるか。」
「はい、がんばりましょう。」
こうして今日の方針を決めた俺達は受付に少し多めにクエストをお願いした。
「こんなに出来るの?まだEランクになって2日目でしょ?」
受付のお姉さんに心配される。Eランクになって調子に乗って無茶をして怪我して帰ってくる冒険者も多いらしい。
「大丈夫です。無茶はしてないですから。これもアスティと話し合って決めたことです。」
「そう?じゃあ気をつけて。」
「いってきます。」
俺達はお姉さんに別れを告げて岩場に向かった。
昨日よりも寄り道が少なかった為、俺達は昼前には岩場に着いて討伐を行っていた。
ロックリザードの単体は俺が剣で、剣の届かない上空から攻撃してくるフレアコンドルはアスティが魔法で対応という役割分担にした。
フレアコンドルはエンチャントなしのアイスで倒せる相手だったので今日は万が一の時の為に『シールド』だけをかけて戦っていた。
そうして何体かのモンスターを討伐した頃
「そろそろお昼にしましょうか?」
アスティからそう提案があった。昼前から開始して2時間程が経過しただろうか、確かにそろそろいい時間だ。
「そうしようか。この辺にどっか落ち着ける場所あるかな?」
「さっきフレアコンドルと戦った所はあんまりゴツゴツしてなくて座りやすい感じでしたよ。」
「ならそこにしようか。」
俺達は来た道を少し戻り腰を落ち着けた。
アスティの地元の郷土料理はどれもあっさりしていて相変わらずの美味しさだった。
今は食後のティータイムだ。
「アスティいつもありがとう。毎朝大変じゃないか?」
「いえ、私も好きでやってるから大丈夫ですよ。それにユーキが美味しいって言ってくれるから作るのも楽しいです。」
「そう言って貰えるならありがたい。さて、そろそろ続きを始めるか?」
「はい、午前中はあまり出番がなかったんで午後からはもっと頑張りますよ。」
「頼りにしてるぞ。それじゃあ午後からはもう少し奥の方まで行ってみるか。」
「はい。何があるか見に行きましょう。」
奥まで行ってもあるのは岩で、出てくるモンスターも一緒なのだがそれを言うのは無粋だ。正直ここら辺のモンスターも一撃で倒せてしまう為、そんなに怖さはなくどこかピクニック気分もあった。だからといって油断はしないが。
フィールドの奥まで行って山に突き当たり先に進めなくなり引き返す(案の定奥にも何もなかった)。
「最後まで行ってみても結局何も面白いものはなかったですね。」
「強いて言うならそれに落胆したアスティは面白かったぞ?」
アスティは最後まで到達して露骨に溜め息をつきそうな顔をしていた。こんな顔もするんだなと見ていたら面白かったのだ。
「あー!ユーキ酷いです。」
「はは、冗談だって。ごめん。」
「許してあげません。明日はお弁当無しです。」
「そ、そんな。ごめんアスティ。この通りだ。」
すっかりアスティの料理に魅了されているのだ。お預けはツラい。俺は必死に謝った。
「ふふっ、冗談です。これでおあいこです。」
「か、勘弁してくれ…。」
俺はこの時もうアスティの機嫌を損ねさせないと誓った。
その帰り道、俺はアスティと話し合いながら帰った。その内容は今後のことだ。
「俺達が今いるパラシーの町の回りのフィールドはあの岩場とこの草原、あとは森だけだ。俺達はそのどれも簡単に制覇していけてるからそろそろ次の町に行ってみようかと思うんだ。」
「次の町ですか…。」
「何か不安要素があるのか?」
アスティが考えこんだので俺は聞いてみた。
「いえ、実力的には充分でしょうけど、次の町までどのくらい時間がかかってどこに向かったらいいのかがわからないんです。だから何を準備したらいいのか考えてたんですよ。私もエルフの森から出てきてこっちに来てすぐなのであまり地理が分からなくて。」
「なるほど…なら一回コダールに聞いてみるか。あいつは行商だからいろいろ詳しいんじゃないか?」
「なるほど、そうしましょうか。」
話が決まり、俺達はそのまま真っ直ぐギルドに向かい換金した(受付のお姉さんに、まさか本当にやり遂げてさらに無傷とは…。とびっくりされた)。
俺達はそのままコダールの所へ向かった。
「よおコダール。はかどってるか?」
「おお、ユーキ。ボチボチだな。で、どうだったよ?」
「どうだった?何がだ?」
コダールの主語のない話が分からない。
「おいおいお前、何がってナニがに決まってるだろ?この前買っていっただろ。」
その言葉で俺は例のゴムを思い出して焦った。アスティにはその話をしていないからだ。
「ちょっ!お前やめろその話はいいんだ。」
「なんだよ。もしかしてまだ使ってないのか?なんだよとんだチキン野郎だな。」
チキン野郎って…こいつ好き放題いいやがって…。
「いや、待てよ…。もしかしてお前それが必要なかった方か?」
「は?」
「いや、だから初めからいきなり仕込みにいったのかってこはぶっ!」
俺は思わずコダールの頭を叩いていた。
「お前止めろって言ってるだろ!それにアスティにその事は言ってないし2人で話し合ってまだそういうことはしないって決めたんだよ。」
後半部分は後ろのアスティに聞こえないように(後ろであたふたしてるのが見えるから今更かもしれないが)しつつもキチンと『まだ』を強調させる。
「な、なんだよいきなり叩くなよ…。下噛むだろ…。まぁそういう事情なら俺が悪かった。暫くは聞かねえよ。」
「暫くっていうかそんなこと聞くなよ。」
「だって気になるじゃねえかよ。あんな綺麗な娘が夜どうなるかとかよ。」
「…お前それ以上やったら容赦しないぞ…。」
アスティに邪な目を向けるコダールに俺は殺気をとばす。いくらコダールでもそれ以上は容赦出来ない。
「じょ、冗談だよ。悪かった。で、今日は何の用だ?」
俺は殺気を納めて本題に入る。
「実は俺達近々この町から出ようと思ってさ。それで2人とも地理に疎いからどんな準備をしてどこに向かったらいいか分からなくてな。お前なら行商だしなんかアドバイスくれるかなと思ってな。」
「なんだ、もう出ていくのか?お前らそんなに強かったのか?」
「一応ロックリザードとフレアコンドルは一撃で倒せるくらいだ。」
「あ~、なら余裕だな。なんだよ、もっと早く言えよな全く、無駄に叩かれたぜ。」
「お前が話し出したんだろうが。それでどうなんだ?」
「そうだな、こっから次の町ならこのままウンデナム大陸の町を回るなら一番近いところまで歩いて3日くらい、ノムレス大陸に移るなら歩いて2日ってとこだな。」
「アスティ、ノムレス大陸ってどんなところだ?」
ここがウンデナム大陸だということは初めて町に来たときの話で聞いているがノムレス大陸は初めて聞いた名前だ。
「ノムレス大陸は獣人族が住んでる大陸で精霊ノームの加護を受ける場所です。」
獣人族か…。一度見てみたいな。
「コダール、そのノムレス大陸の初めの町とこの大陸の次の町ならどっちの方が敵が強くてどんな敵がでるか分かるか?」
ノムレスに行ったら敵がメチャクチャ強くて負けるなんてことがあってはいけない。
「う~ん…どっちも同じくらいかな?どっちの町も受けられるクエストのランクはE~Cくらいだったはずだ。」
「なるほど…アスティ、ノムレス大陸に行ってみないか?」
「向こうに行ったら人間があまりいないですよ?」
「それでも言葉は通じるんだろ?」
「そうですね、言葉はどこでも同じなので。ユーキのいた所では場所によって言葉が違ったりしたんですか?」
「あぁ、大陸によって違ったな。」
正確には国単位で違ったがこの世界での国のくくりと向こうの世界でのくくりは意味が違うからこの説明で大体合ってるはずだ。
「そうなんですか、なんかややこしいですね。」
「そうだな、おっと、話が脱線したな。俺がノムレスに行きたいのは単なる好奇心だ。獣人族をただ見てみたいだけだ。だからいつでもいいぞ。」
「そんな理由ですか、なんだか子どもみたいで可愛いです。」
そう言ってアスティがクスッと笑う。
「笑うなよ。こっちの世界は向こうに無いものがたくさんあって新鮮で、色々なものを見てみたいんだよ。」
実際アスティのエルフにもびっくりしたし、初戦闘のゴブリンにも驚かされた。
ある程度余裕が出てきたらこっちの世界に楽しみが尽きない。
「だからノムレスに行きたいのはただの興味だからアスティの行きたい方を選んでくれ。」
「私もどちらでもいいですよ。ユーキが行きたいならノムレスまで行きましょうか。」
「じゃあノムレス行きに決定か?」
存在を忘れかけていたコダールが俺達の話に割って入って話を進める。
ノムレスにいくならパラシーの普段使ってる門じゃなくてもう1つその反対の門からでて道なりに進んで関所を越えたらすぐだ。それで、いつ出発するんだ?」
「そうだな準備が出来次第出発してもいいかなとは考えているが。」
「なら大丈夫だ。俺が荷物は持ってるからな。」
「え?お前も着いてくるのか?」
「おう、俺もそろそろ次の町に行こうかと思ってな。だからギルドで行商の護衛依頼をお前ら指名で出しとくから一緒に行こうぜ。」
「ありがとう助かる。」
「一応今日中に依頼は出しとくから好きなときに受けて声かけてくれ。初めに言っとくけど報酬はそんなに出せねぇぞ。」
「いや、道案内と旅支度だけで充分な報酬だ。それじゃあ世話になった人に挨拶にいって、今日は遅くなるから明日の朝にでもいいか?」
「了解だ。それじゃあ準備しとくぜ。」
「頼んだ。」
俺達はそう言って別れた。
俺達はそのまま武具屋のおじさんやマシューさんに別れを告げて、最後に宿に戻って飯を頼んだ時に明日出ていくことを告げた。
宿のおじさんにもエールをもらって、明日に備えてその日は早めに眠った。
翌朝、いつもの日課は欠かさず行い、最後のご飯を食べて宿を出る。
ギルドに行くとお姉さんが声をかけてきた。
「あ、あんた逹。あんた逹宛に護衛依頼がきてるわよ。」
「はい、それを受けに来ました。」
「そうか、次はノムレスに行くんだな。」
「はい、今まで色々お世話になりました。」
「実際頑張ったのはあなた逹、私はなにもしてないわよ。それよりこれ、受けていくんでしょ?」
「はい、お願いします。」
俺達は手続きを済ませお姉さんにお礼を言ってギルドを後にした。
言われていた裏口の門に行くと、コダールがすでに待っていた。
「別れは済んだのか?」
「ああ、大丈夫だ。行こうか。」
「よし、それじゃあしっかりと護衛頼むぜ?冒険者さんよ。」
「任せろ。」「任せてください。」
俺達は並んで門をくぐった。