第12話:レベルの仕組み
「あ、あはは。思ってたよりも簡単に勝てましたね。」
俺はただの肉になってしまったロックリザードを見て少しの間固まっていたがアスティの声で我に返った。
「アスティ、そんなに水魔法の威力高かったか?」
「いえ、私の水の適正は2なんでそんなに強くないですよ。魔法適正はレベルアップでも変化は出ないですし。」
「さっきの魔法は?俺の知ってる水属性魔法はアイスだけだが。」
「今の魔法はアクアシュートといって、水属性魔法のアイスより1つ強い魔法と思ってくれたらいいと思います。アイスだと氷の球を飛ばすだけなのでロックリザードの体全体に作用させるには弱いかと思って使ってみたんです。」
「なるほど…。」
確かにアイスだと球が一直線に飛んでいって、効果範囲は球の当たった一点だ。その分アクアシュートならホースから勢いよく水を吐き出したような感じで、当たったところから拡散して全身に水を浴びせられる。
「次は試しにアイスを使って同じように奇襲してみよう。」
「わかりました、やってみます。」
簡単な作戦会議の後、俺達は次の標的を探す為にフィールドを探索した。
程なくして目的の敵を見つけ、同じように背後をとる。
「それじゃあ行くぞ。1、2の3!」
「『アイス』!」
アスティの魔法の発動と共にフォトンソードを発動、敵に向かってフィールドを駆ける。
俺が敵にたどり着くより一足早くアイスが敵に被弾し、俺も剣を振りかぶり上段からの袈裟切りを放つ。
「攻式壱ノ型『疾風』!」
しかし俺の剣筋は空を切った。
そこにはまた肉塊しかなかった…。
戦闘が終わってすぐエンチャントの効果が切れた。気になってることもあってここで一度休憩をとることにした。
「アスティ、ステータスを見せてくれないか?もしかしたら結構レベルアップしてるんじゃないか?」
「でも私はあまり戦ってないですよ?」
確かにアスティは今までビッグボアの時もドナヒュー達に襲われた時もメインで敵を倒してたのは俺だ。でも、ゲームとかならレベルアップは経験値の蓄積で行われ、レベルが高くなるほど獲得経験値が低くなり、低いほど高くなる。それと、メインで戦ってなくてもパーティーメンバーにも割り振られるものもあった。もし、それが適用されてるならアスティのレベルは2つ以上上がってることになる。
「それでもだ。頼む、今後役に立つ情報が手に入るかもしれないんだ。」
「ユーキがそう言うなら…。」
アスティは未だに訝しげにしながらもステータスパッドを取りだし更新を押す
アスタリア・エアロ:24 精霊族
体力:176
攻撃:198
防御:193
俊敏:164
魔法適性
火:5
水:2
風:3
土:1
光:5
闇:1
スキル
『火神の加護』
「ええっ!?4つも上がってますよ!?」
「やっぱりか、レベルアップに必要な条件って言うか、大まかな仕組みが分かったよ。」
「仕組み?」
「ああ、レベルアップは戦闘経験によって蓄えられる経験値という値が一定量貯まって起きる。そしてそれは倒した敵とのレベル差が大きいほどたくさん入るんだ。」
「で、でも私が倒したのって今のロックリザード2体とビッグボアくらいで、そんなにたくさん経験値が入るような強い敵と戦ってないですよ?」
「そうなんだ、だからここでもう1つ。どうやらパーティーで戦った場合そのパーティーメンバー全員に経験値が分配されるようだ。」
「それじゃあもしかしてユーキがあの人と戦った時の経験値が私にも入ったってことですか?」
「そうだ。だからアスティも大きく成長したんだと思う。」
「なるほど…。」
「後はそうだな…もしかしたらここら辺の敵はエンチャントなしでもアスティ1人で勝てるかもしれないな。1回エンチャントなしでさっきみたいに奇襲を仕掛けてみよう。」
「わかりました。」
そこから再びロックリザードを探して歩き、道中真っ赤に燃えている草を見つけた。
「これが火炎草っぽいな。確かに実もなってるし。でもこんなのどうやって取るんだ?」
「実は火炎草は見た目に反してそんなに熱くなくて、触っても暖かいくらいですよ。」
そう言うとアスティは素手で葉の部分を掴むと実をプチプチと取っていく。
俺も恐る恐る手を伸ばして掴んでみると確かに熱くなく、それはカイロを持ってるような温度だった。
「紛らわしいな…。どういう原理で燃えてるんだよ。」
「それはまだ分かってないんですけど、中に含まれる火のマナがなんらかの影響を及ぼしてるんじゃないかって言われてます。」
俺はあまり納得出来る内容ではなかったがこれ以上膨らませてもアスティが困るだけだからこの話はここで切り上げた。
「よし、充分採取出来ただろ。」
「そうですね。依頼された量は取れました。」
「そしたらロックリザードを探しに行こう。」
再び歩き出すと少し奥の方に2体のロックリザードを見つけた。どうやら食事中らしい。
「そしたら今まで通り背後を取って奇襲をするが俺は右を、アスティは左を担当して一撃で倒せるかをみよう。もしも倒し損ねたらお互いにカバーし合おう。」
「わかりました。気をつけてくださいね。」
「ありがとう。それじゃあ1、2の3!」
「『アイス』!」
俺は三度剣を構え突撃する。左の敵に魔法が被弾、俺も右の敵に迫り
「攻式壱ノ型『疾風』」
下段からの袈裟切りはロックリザードの身体にあまり抵抗を感じずに吸い込まれ、通過し一撃で肉塊に変えた。
アスティの方を見ると一撃で仕留めきれなかったロックリザードに二撃目を打ち出した所だった。
一撃目で動きの遅くなった敵はそれを避けきれず被弾し、今度こそ止めをさした。
「アスティのアイスじゃあ威力が足りないみたいだな。でもあの様子だとアクアシュートなら一撃で倒せると思う。一撃目の段階で敵は瀕死の様子だったからな。」
「そうですね。次はそっちで試してみます。」
「それと、俺のフォトンソードだけど、ロックリザードを切った時に普通なら物理攻撃は弾かれるはずなのにスッと抵抗なく入ったんだ。だからもしかしたらロックリザードってのは体の表面に土のマナを巡らせて固さを作ってて、本体自体は固くないのかもしれないな。」
「なんだかもう私の立場がないです…。ユーキは1人でなんでも出来てしまいますし…。」
「いやいや、そんなことないよ。アスティが後ろに居てくれるから安心して目の前の敵に集中出来るし、さっきの火炎草の時みたいに俺の知らないこともアスティに教えてもらってる。アスティが居なかったら俺は火炎草のクエストをクリア出来なかったよ。今までもこれからもすごく頼りにしてる。」
「ゆ、ユーキがそう言うならこれからも頑張ります。」
アスティも機嫌を直してくれたし、もう陽も暮れてきた。
「足場も悪いし暗くなると危ない。そろそろ帰ろうか。」
「そうですね。」
俺が先行して歩き出すとアスティが俺の左手を取ってきた。
「どうしたんだアスティ?」
「わ、私はおっちょこちょいなので転んだら危ないからユーキに手を掴んでいて欲しくって。ダメ…ですか?」
アスティが上目使いで俺を見てくる。
「いや、ダメじゃないよ。」
俺はそう言ってアスティの手を握り返した。
アスティは帰り道ずっとニコニコしていたが、俺は平静を装っているのがやっとで緊張して手汗をかいてないかとかをずっと考えていた。
どうにか町まで帰って来てギルドまでやって来た俺達は(町に入る手前で手は離した)早速受付の列に並びクエストの報告をする。
「お疲れ様です。おっ、ロックリザード4体か。怪我は無かった?」
「はい、ロックリザードくらいなら何ともないです。」
「私ももう少しレベルが上がったら余裕を持って戦えると思います。」
「言うわね~。これからも期待してるわ。はい、今回の報酬よ。」
俺はEcを受けとる。
「ありがとうございます。」
「ありがとうございました。」
俺達は礼を言ってギルドを後にした。
「いやぁ~地面が不安定だったからか今日はすごい疲れたな。」
俺達は宿に戻ると晩飯の用意を頼み、まずそれぞれのベッドに座り込んで話をしていた。
「そうですね、今日はもう足がパンパンで痛いです。」
「よし、アスティ、ベッドにうつ伏せに寝てくれ。あまり上手に出来ないかもしれないがマッサージするよ。」
「そんな、悪いですよ。」
「いいからほら寝て。俺がアスティにマッサージしてあげたいんだよ。」
「そうですか。それじゃあお願いします。」
アスティがベッドに横になる。
俺はアスティの足元に立つと、両手でアスティのふくらはぎを軽く握りそのままゆっくりと揉みほぐしていく。
「んっ……んっ……。」
「どうだ?痛くないか?」
「んっ…とっても…んっ…気持ちいいです。」
「そうか?よし。」
俺はそのままアスティの足全体をマッサージした。
「ありがとうございました。次は私がユーキにしてあげます。」
「そうか?じゃあお願いしようかな。」
俺もベッドに横になりアスティに足を揉んでもらった。アスティのぎこちないマッサージだったがとても気持ちよかった。
マッサージの後は丁度良いタイミングで届いた晩飯を食べてから順番に風呂に入った。
その後も特に何もなく、今日はお互いに歩き疲れていたからかすぐに眠りについた。
今日もお互いに手を繋いで眠った。
翌朝、いつもの日課をこなし朝飯を食べる。
「今日はギルドに行く前に先ずはマシューさんの所に剣を取りに行かないとな。」
昨日依頼した時に具体的な時間の指定が無かったが遅く行くよりは早い方がいい。
「そうですね。待たせてしまったら悪いですもんね。」
俺達は朝飯を食べ終えて少し休憩してからマシューさんの工房に出かけた。
工房に着くと中からカンカンと金属を打つ音が響いていた。
「少し早かったかな?」
「そうらしいですね。昨日みたいに中で待たせてもらいますか?」
「そうするか。」
俺達は聞こえないとは思うが一応ノックをしてから工房に入った。
「おはようございます。昨日刀の持ち手部分を注文した者です。」
「おう。すまねぇけど一段落つくまでちょっとだけ待っててくれ。」
「はい、ここで待たせてもらいます。」
俺達は昨日と同じように入り口の辺りで待たせてもらったが、今回は5分もたたずに作業が終わったようだ。
「悪い、待たせたな。」
「いえいえ、こちらこそ少し早い時間に来てしまったみたいで。」
「いや、時間の指定はしてなかったから構わねえよ。それよりほら、これが注文された品だ。具合を確かめてみてくれ。」
俺は渡された剣を握って軽く振ってみる。
重すぎず軽すぎず、握りやすい太さと長さだ。
「うん、すごいいい感じです。ありがとうございます。」
「おう。初めての注文だったから重さとか重心とかを見直さないといけなかったが、俺自身もいい感じに仕上がったと思ってる。」
「わざわざすいません。そしたらお代を。」
「おし、まいど。またなんかあったらうちに顔出してくれ。」
「はい、是非に。」
こうして俺は新しい相棒を手に入れた。