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第10話:内緒の準備



森での一悶着があった後、俺とアスティは道中で残っていたビックボア1体を見つけて討伐し町まで戻った。

既に陽が暮れて空も暗くなっており、町の至るところから晩御飯の良い匂いが漂ってくる。

俺達は帰りの道すがらこの後の行動を話し合い、まずギルドでさっと報告を済ましてその後は真っ直ぐ宿に帰ることにした。

たったこれだけのこと、ギルドに登録をしてからは毎日のようにしていた半ばルーチンと化したことだが、それさえも2人の変わってしまった関係の前では新鮮でこそばゆいものだった。

告白し、キスをして、ここまでの道中ずっと手を繋いで歩いてきた2人だがそれが嘘であるかのように会話が続かない。お互いに照れてまともに顔も見れない状態が続いていた。

話しかけたと思ってもー

「きょ、今日の晩飯はなんだろうな?」

「え、あ、な、なんでしょうね?」

ーー沈黙。

その光景を端から見ていたある種の魔法使いやその予備軍達はそろって心の中で思っただろう。

『爆発しろ!』とーー



話は戻って、なんとかギルドの前までたどり着いた悠希達はギルド内の喧騒に足を止めていた。

「なんでしょう?中が騒がしいですね。」

「ちょっと俺が見てくるよ。」

さっきまでの初な態度からお互いに警戒心を高めて会話を交わした。

宣言通り悠希がギルドに入ろうとすると中の会話が漏れて聞こえてきた。



「本当なんだって!森で俺の仲間たちがあのエルフを連れた新人に切り殺されてかく言う俺も利き手がこの様だ!命からがら逃げ延びたが奴は危険過ぎる!皆で団結して糾弾すべきだ!」

中の喧騒の主要人物はどうやらあの森で戦った先輩らしかった。アスティの方も聞こえたらしく、今にもため息をつきそうな顔だ。

そうしているとその男に意見する者も現れた。

「でもよぉ、連れのエルフが珍しくて皆知ってると思うけどあいつらはそんなことをしそうな感じはしなかったぜ?真っ当に冒険者やって外で鍛えてたって感じで、男の方は朝早くから走り込みとかしてたのも見たぜ?そんなやつがお前らみたいなのに急に喧嘩吹っ掛けるか?」

周りの冒険者達もその意見に同意していく。

「でも現に俺は襲われてこの様だ。こっちはただ森で会って少し挨拶しただけなのによ。あいつらイカれてやがる。」

俺はあいつの発言にイラッとした。全く反省の色が見られない、むしろ自分の行動を正当化し、俺達被害者を悪にしようとしている。これはもう少し仕置きが必要なようだ。

俺は入り口の扉を開けようと少し前にでた。すると、アスティが俺の服の袖を少しつまんで訴えかけてきた。

「ユーキ…。」

「大丈夫。少し脅かしてこれ以上悪さしないように言うだけだ。荒事はしない。」

説明するとアスティは袖を離して俺の横に並んだ。俺達は2人で扉を開けて中にいる男に話しかけた。

「あれ?先輩また会いましたね。奇遇です。」

直後、男の背筋がビクンと跳ねた。

「お、お前らなんでここに…。」

「いや、なんでってクエストの報告ですよ。僕らもクエスト完了の報告しないと稼げないんで。」

「そ、そーだな。なら先に行くといい。」

奴はビビりながら道を譲る。俺はそれにお礼を行って通りすぎようとして

「そうだ」

と、再び声をかける。

「先輩の名前教えてくださいよ。」

「え、エリアード・ドナヒュー」

「へー、ドナヒューさん。じゃあドナヒューさん、また今度外で稽古つけてくださいよ。あ、でも今度は手加減無しでお願いしますね。じゃないとーー」

ドナヒューは悠希を見て汗を流す。悠希はそれに近づき耳元で

「次はその程度の怪我じゃ済まさない。2度と俺達に関わるな。」

俺は顔を離して

「じゃ、先輩。お先に失礼します。」

青ざめ、小刻みに震えているドナヒューを残して受付で報告を済ませギルドを後にした。

後ろでは俺に何を言われたのかなどと質問がされていたがドナヒューがそれに答える余裕はなかった。



「もう、ユーキったらやり過ぎですよ。」

ギルドからの帰り道、俺達の宿『福々亭』までもうあと少しってところでアスティが話しかけてきた。先ほどの事もあってか2人は自然と話が出来るようになっていた。

「でもあんだけやればもう俺達に変な気を起こさないだろ。」

「でもあの人震えてましたよ?」

「さっき森で懲らしめてやったのに未だにあの態度なんだ。またアスティに危害が加わるかもしれないし、あれくらいの脅しは必要だろう。」

「もぅ…。私の為にってのは嬉しいですけど、それでユーキが怪我をする様な事になったら私が悲しいですよ?まぁ、今のユーキは前までと違って強いしそう簡単に怪我もしないと思いますけどね。」

「いや、俺はまだ強くないよ。あの剣もどうやって出したのかわからないし、次に襲われたらどうなるかわからない…。まだまだ修行しないと。」

「でもユーキは強敵を相手に体を張って私を守ってくれました。少なくともその心はとても強いですよ。」

「アスティ…。」

「それに、その…」

アスティは急にうつむき、モジモジしだした。

「戦ってるユーキは…その、とってもかっこよかったです…よ?」

上目遣いでそう言うアスティの頬は陽が暮れて暗くなってる夜道でもハッキリとわかるくらいに赤く染まっていた。

「そ、そうか…。ありがと。」

俺の心臓が跳ねる。今までも可愛いとは思っていたが、お互いの気持ちを確認し、晴れて恋人同士となってからはアスティの照れた顔とかが多くなり前以上に可愛さが増している。

(俺はよくこれまで耐えれたな…。)

自分の欲望を押さえつけていた理性に多大な尊敬の念を讃えると同時にーー実際はそんなことにかまける暇もなく一日中歩き回っていたから毎日疲れ果てていてそこまで体力が無かったからなのだがーーこれからは恋人同士そうなったりもするよな?とも考えていた。

「そういえば…。」

「え?」

そこで俺はある重要なことを思い出した。これからの旅に必要になってくるだろう重要な事だ。アスティの身に何か起こってからでは間に合わない。無くなってからでは遅いのだ。

「アスティ。」

「はい。どうしたんですか?急に真面目な顔になって。」

自分でも今どんな顔をしてるのか分からなかったがそんな顔だったのか。しかしそれだけ大事な用であるということだ。

「俺は少し用事を思い出した。だから宿には先に帰って店主に晩飯の準備をしてもらっといてくれ。時間はかからないからすぐに戻る。」

「ええ、分かりました。…早く戻ってきて下さいね?」

「もちろんだ。」

俺はそう言うと目的地に向かって走り出した。



俺は目的の場所に着くとすぐにそいつを呼んだ。

「おい、開けてくれ。店の中にいるんだろう?コダール。」

そう、俺はコダールの移動車を訪れていた。

少しして移動車の扉が開かれる。

「どうしたんだよユーキ、こんな遅くに。」

「いや、遅いのはすまないが、ちょいと急ぎで必要になってな。急いで買いに来たんたけどまだアレは残ってるか?」

「アレってなんだよ?」

「あ、アレだよ。俺がアスティと一緒に買い物に来たときにこっそりお前が勧めてきたやつだよ。」

「アスタリアさんと一緒に来たときに俺がお前に勧めた…あぁ、なんだゴムか。」

「ちょっ、声がでかいって!」

「なんだよ、しばらくは必要ないとか言っておきながら割と早かったじゃねーか。」

「そこはいろいろあったんだよ。で、まだあるのか?」

「あぁ、10個ほど残ってるぜ。何個いるんだ?」

「じゃあとりあえず全部くれ。あ、あとステータスパットもあるか?」

「それもまだ残ってるぜ。つっても少しだけだけどな。」

「それでいい。ならそれも全部くれ。」

「あいよ。ちょいと待ってな。」

コダールは奥に引っ込むと少しして戻ってきた。

「これがゴムで8個あった。そんでステータスパットが3個だ。ゴムが1つ20E、パットが3個で10E、合わせて170Eでいいぜ。」

「…ゴムって以外と高いんだな。」

「まぁな、この素材は貴重な方だからな。」

「分かった。ほら。」

「まいど。あの姉ちゃん逃がすなよ?」

「言われなくても。それじゃあありがとな。」

そう言うと悠希は宿に向かって走って行った。

残されたコダールは大きな欠伸を1つしてユーキから徴収した170Eの入ったEcを眺め

「まさか本当にくっつくとはな…。ゴムも本当は1つ10Eくらいでそんな高くないし。まぁ夜間営業料と俺の僻み賃だと思って勘弁してくれよユーキ。」

コダールはそう言うと店の奥に引っ込んだ。



「ただいま。遅くなってごめん。」

「おかえりなさい。どこに行ってたの?」

「あぁ、ちょっとコダールのとこでステータスパットを買ってきた。」

嘘はついていない、嘘は。

「明日でもよかったのに。」

「忘れそうだったから覚えてる内にってな。」

「ふーん。じゃあご飯にしよっか?」

「あ、ああ。冷めない内に食べようか。」

俺達は晩飯を食べ終えると交代で風呂に入った。先ずは俺からだ。

体を隅々まで念入りに洗い、鏡で髪を整えてから部屋に戻る。

「アスティお待たせ。風呂に行ってきなよ。」

「うん。それじゃ行ってきますね。」

ーーアスティが風呂に入って数分後、俺はベッドの周りの用意を始める。

「ティッシュよし。ゴムは一応ティッシュの奥に置いといて…と。よし、準備オッケーだ。後はアスティが出てくるのを待つだけだな。」

ーー万全の準備を整えて待つこと数分。

「いいお湯でした~。」

頬を上気させたアスティが出てきた。

俺はアスティをベッドの縁、隣に座るように促して話を始める。

「今日はあんなことがあって忙しかったけど、疲れてないか?」

「ちょっぴり疲れました。でも、ユーキの方が接近戦でずっと戦ってたから疲れてるんじゃないですか?」

「俺もちょっとはな。普段から鍛えてるし、昔は道場で練習試合をそれこそバテて倒れそうになるまで何セットもしてたし。」

「へぇ~。そんなにたくさん練習してたんですか。もっとその話聞きたいです。」

アスティが俺の昔の話に食いついて続きをせがむが、俺の今日の目的はそこじゃない。

「その話はまた今度な。そ、それよりもさ、俺達恋人同士になったんだよな?」

「そうですよ?……あっ!は、はい…。そうですね…。」

アスティは初め質問の意図が分からず首を傾げていたがこの状況ー風呂上がり恋人同士の2人、ベッドに並んで座ってるーを理解して上気した頬を更に染めて俯く。

俺はアスティの方に向き直り、肩に手を置くとアスティはゆっくりと顔を上げ、俺と目が合うとゆっくりと瞳を閉じた。

俺はゆっくりと顔を近づけてキスをした。

ーー何度かのキスをする内にアスティのアスティの瞳がトロンとなり、吐息も熱をおびてきた。

(そろそろかな?)

俺はゆっくりと肩に置いた手をアスティの双丘に向けて動かす。

「…んっ!」

俺の手がそこに到達した時、アスティから吐息が漏れる。

「ごめんアスティ。痛かった?俺こういうの初めてだから。」

「い、いえ、痛くはなかったんですけど、その…私もこういうのは初めてで、キスだけでこんなに幸せなのにこれ以上になると初めてのと幸せすぎるのとで怖いんです。」

ーー俺は焦りすぎたのかもしれない。アスティの言葉から拒絶が感じられない事からも俺を受け入れようとしてくれてはいる。俺達はこれからもずっと一緒なんだ。

「だから、今日はキスだけで私は幸せなんです。でも、ユーキがどうしても我慢出来ないなら私は…」

「いや、ありがとうアスティ。俺も焦りすぎた。こういうのはもっと仲良くなってからだな。俺もキスで充分幸せを感じてるよ。」

「ユーキ…ありがとうございます。」

「それじゃあ今日はもう寝ようか。」

「そうですね。明日からもやることはたくさんありますもんね。」

「そうだな。…アスティ、ごめん。やっぱり1つだけいいか?」

「なんですか?」

「…寝るときに手を繋いで欲しい。」

「うん。いいですよ。ふふっ、ユーキも可愛いところがあるんですね。」

「からかうなよ。別にいいだろ。」

「じゃあベッドをくっつけて……よし。」

アスティは自分のベッドと俺のベッドをぴったりくっつけてベッドに潜る。

俺も続けてベッドに潜り、どちらともなく手を取り合った。

「それじゃあ、おやすみアスティ。」

「おやすみなさい、ユーキ。」

そのまま俺達はお互いの体温をその手に感じて朝までしっかり眠った。

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