第9話:真価
すいません遅くなりました(_ _)
アスティが俺を庇って倒れた。
「アスティ…アスティ!しっかりしろ!」
ゆっくりと抱き抱えると、まだ脈はあるが返事はなく、腰の所から血が流れてくる。
「あ~あ。生きて捕まえないと意味ないのにお前が無駄に抵抗するから。どー落とし前つけんだよ。」
「まただ…また守れなかった…。こっちに来て、大切な人ができて、今度こそって思ってたのに…。また俺に力がないばっかりにアスティまで…。」
「なにブツブツ言ってんだよ。とりあえずエルフは無くなったけど、俺達の事を知られたんだからお前も当然口封じさせてもらうぜ。なーに、すぐにそいつと同じ所に連れてってやるよ。」
「…くい。」
「あぁ?」
「俺は自分の無力さが憎い…。こっちで魔法なんて便利な力を手に入れてもいつまでも自分の力を発揮出来ないせいで、トラウマを克服出来ないせいで、こんなに近くにいたのに1人の女の子さえ守れない。今度こそ守るって誓ったのに…。そんなことなら俺はもう過去のトラウマなんて飲み込んでやる。」
過去の事を捨ててしまったらこの先俺は成長出来ない気がした。だから俺はトラウマを飲み込み、目をそらさず直視し受け止める。その上で更に強くなってみせる。
俺は腰に差した木刀を見る。少々頼りないがこれしかない。
俺は木刀の柄を握り構える。もう震えたりなんかしない。
「そんな刀で何が出来る。さっさと諦めろ!うぜぇんだよ!」
俺は奴が袈裟斬りを繰り出すのに合わせて太刀筋をずらすように木刀を滑らせ、一気に反転。顎に向けて切り上げる。
「んなっ!?」
体をのけ反らしてかわされるが、そこから体を反転しのけ反って無防備になっている鳩尾を木刀の柄で突く。
「っぐはっ!」
腹を押さえて数歩さがる。そこを一気に攻める為前にでる。しかし
『ロック!』
奴が魔法を放ってくる。俺も前回の事を踏まえて警戒はしていたので飛んでくる石塊を木刀で破壊したが、勢いに耐えきれず木刀も柄から先が砕けてしまった。
「しまった。やっぱり木刀じゃキツかったか。」
「てめぇ、調子に乗ってんじゃねぇぞ!木刀1本使えたからって勝てると思うなよ!」
奴の言う通り例え木刀が無事だとしても、今から木刀を捨てて拳で戦ったとしてもあの刀がある限り勝機が見えない。
「なにか勝機は…?」
まだ俺は諦めない。アスティが助かる希望がある間は俺は諦められない。
その時俺の内から何かが込み上げてくる。
(これは…魔法…?いや、近いけど違う。今まで感じたことの無いような…けど、確かに俺の知る力…。これは…。)
俺は右手に握る無惨な木刀を見る。
「これに反応してるのか…?」
俺は感覚的に俺のこの力は折れた木刀に反応してると思った。
俺はこの不思議な力に賭けてみることにした。
柄のみとなった木刀を強く握りそこに意識を向けると、いつもエンチャントをかけた時にマナが体を纏うように折れた木刀の先を形成しようとマナが蠢くのを感じた。
(間に合え…!)
「この状況でまだ何か狙ってるみたいだがお前にもう勝機はねぇんだからさっさと諦めて死ねやオラァ!」
罵声と共に上段から剣が降り下ろされる。
それより一瞬早く日本刀のような形で光輝く剣が構成された。
「間に合った、攻式壱ノ型『疾風』!」
最近は全く剣術の練習をしてなかったが長年の成果は体が覚えていた。俺の剣筋は寸分の狂いなく逆袈裟に敵の剣諸とも切り上げた。
「んなっ!?」
突然の剣の出現と素早い返しに敵の表情が驚愕に染まる。
「テメェ何をしやがった!なんだその木刀は!」
俺にもわからない問いに答える気はなく、俺はただ無言で再び刀を構える。
「チッ!すかしやがって。さっきはビックリしたがもう次はねぇぞ!」
敵が切り込んで来るーーそう思った時
『アイス』
いつの間にか意識を取り戻したアスティが魔法を放った。
「チッ!小賢しい!俺に魔法は効かねぇって言ってんだろ!」
当然奴は魔法を切る。しかし奴の剣がアスティの魔法に当たった後も奴目掛けて飛んでいった。剣の効果が効かなかった。
「んなっ!?っぐっは!」
まともに喰らった奴はそのまま少し後退した。
「なぜだ!?なぜマジックキャンセルが発動しない。まさかそのおかしな剣の仕業か!?」
俺にも何が何だかわからないのだから答えようがない。
「くっ、こうなったら…『ブリザード!』」
奴は俺に魔法を浴びせ、その隙に未だに倒れているアスティに向かって切りかかろうと振りかぶる。
その光景は母さんの時と被って見えた。
同じ過ちは二度と繰り返さない!
俺は魔法をかわし、奴の攻撃を阻止する為に再び慣れ親しんだ技を叫ぶ。
「攻式弐ノ型『閃牙』!」
アスティに降り下ろされる剣に向かって突進からの突きを繰り出す。
壱ノ型、弐ノ型は現役時代によく使っていたからその分馴染み、今でも狂いなく狙い通りに相手の剣の横っ腹に命中し、奴の剣を弾いた。そこから油断なく追撃を仕掛ける。
「攻式壱ノ型『疾風』!」
俺の逆袈裟の攻撃は突牙によってバランスを崩した奴へと迫りー
「なっ!っぐぁっ!!」
ー奴の右手首を切り落とした。
奴は自分の右手を見てその場に崩れポツリポツリと呟き出す。
「そんな…そんなバカな…この俺が…Fランクのひよっこ一人にこんな…あり得ない…。」
「俺のアスティに二度と手を出すな!!俺の理性が残ってる内に俺達の前から消えろ!」
「ヒッ!」
奴は俺の声に体をビクッとさせ、俺の顔を見るなり
「ぅあぁぁぁぁ!」
と叫びながら森の出口に向かって走って行った。
俺は殺人鬼じゃない。母さんを殺したあいつのようにはならないと、理性で制御しているが次にアスティが危機に瀕したらどうなるかわからなかった。
だから俺は奴を逃がしたんだが、俺の顔を見るなり逃げてったから余程のショックだったんだろう。まぁ自業自得だけどな。
奴が走り去ってから少し周りを警戒し、もうなにもないのを確認してからアスティに声をかける。
「アスティ、大丈夫か?」
さっき魔法を使っていたから意識があるのは分かっていたが、腰の辺りを切られていたからそっちの方が心配だった。
「え、えぇ、大丈夫です…。倒れたときに頭を打ったみたいで…少しだけ意識を失ってたかもしれないですけど…。そ、それでですね…」
「アスティ、腰の怪我は?そっちの方はだいじょう…」
「あ、あの!」
アスティの突然の大声で俺は言葉を止めた。そこで初めてアスティの様子がおかしいことに気づいた。アスティはずっと下を向いたままだった。
「…アスティ?」
「そ、それでですね、さっきのは…その…どういう意味ですか?」
アスティの言ってる意味が分からなかった。さっきの?なんのことだ?
「さっきのって?」
「ユーキがさっき俺のアスティって。」
「え?俺のアスティ?」
俺は先の戦闘を思い出してみる。
アスティが倒れて、剣が出来て、アスティが魔法を使って、あいつがアスティに斬りかろうとして、その時俺は…
『俺のアスティに二度と手を出すな!!』
あ、あー…言ってるな…。俺の欲望願望が駄々漏れだった。
ヤバい、今俺の顔絶対赤くなってる…。アスティを直視出来ない。
「あ、あん時は俺も必死だったから俺の希望とかそういうのがつい漏れたというか…。」
「それはつまり、ユーキは本心から私を欲してるってことですか?」
アスティがやっと顔を上げた。その顔は真っ赤に染まっていた。
ヤバい、墓穴掘った。
確かにアスティとそんな風に慣れたらいいなとは思ったりしたけど、ここでもし振られたら今後の旅に支障が出る。
「……ユーキ?」
アスティが不安そうに俺を見上げる。
ここは俺がハッキリしないとダメだな。俺は頬を叩いて気合いを入れてからアスティをしっかり見つめ
「俺はアスティが好きだ。初めて見たときから綺麗だとは思ってたけど、これまで暮らしてきて更に好きになった。よければこれからは冒険者仲間としてだけでなく、お互い大切な存在として横に並びたい。俺と付き合ってください。」
俺は頭を下げて目をつむり右手をアスティに向かって伸ばす。
(言った…。告白とか初めてだから良いのか悪いのかわからないけどすごい恥ずかしい。)
俺はしばらくそうしていたがアスティから一切アクションがない。
「アスティ…?」
俺が不安になってアスティの方を見ると、アスティは顔を押さえてまた下を向いてしまっていた。
「アスティ!どうした?やっぱり切られた所がひどいんじゃ…」
「ユーキ…。」
そういって顔を上げたアスティ両目に大粒の涙を浮かべ
「私もユーキが大好きです。これからもずっとよろしくお願いしますね。ユーキ。」
そういってアスティは今まででとびきりの笑顔を見せた。
「じゃ、じゃあオッケーなのか…?」
「はい。」
「ありがとうアスティ!」
「きゃっ。もぅユーキ。急に甘えないでください。びっくりするじゃないですか。」
俺は嬉しくてアスティに抱きついていた。
だって初めての彼女がこんなに綺麗な子なんて嬉しくてつい。
しかし抱きついたことで地面の赤いシミが目に入った。
突然の告白で忘れてたがアスティは切られたのだ
「アスティ、こんなことをしてる場合じゃない。切られた所は大丈夫なのか?」
「えぇ、私は大丈夫ですよ。」
そう言うとアスティは腰の赤い液体を指ですくうと
「ほら。」
俺の口に当ててきた。
「んむっ!?…ん?」
突然でびっくりしたがそれ以上にその味にびっくりした。
「あ、甘い?ってかこれって…」
「えぇ、甘露の実です。ポケットに入れてた分が切られてこぼれたんですよ。」
「な、なんだよ心配するじゃんか。」
俺は安心感から一気に脱力した。
「ふふっ。ごめんなさい。でも…心配してくれてありがとうございます。これは頑張ってくれたお礼です。」
「えっ?」
俺が顔をあげるとすぐ前にアスティの顔があってー
チュッ
ーとても柔らかい衝撃が俺の唇を襲った。
「え、あ、アスティ?」
「…私、初めてだったんですよ?」
アスティが照れながらそんな報告をしてくる
「お、俺も初めてだ。」
「そ、そーなんですか…。私達、キス…しちゃいましたね。」
「そ、そーだな。キスしたな。」
お互い気まずい雰囲気になり無言で過ごしていると空が茜色に染まりだした。
「そ、そろそろ帰るか。空も暗くなってきたし。」
「え、えぇ。そうですね。」
俺達はどちらともなく手を取り街に帰った。
ーー初めてのキスはとても甘かった。