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白い花
季節はやってきて
また季節はやってきて
いつのまにか季節は
瑞々しいままの
おおぶりの花弁を
しおらしく うつむかせて
いや もっと
頭を押さえつけるように
地面に顔をこすりつけるように
こずえの枝をぐいっと不自然に
下へ向けて撓めたままで
知らん顔をして
季節は去って行く
入れ違いに来た季節は
誰の季節でもなく
引き継ぎもないままで
こんどは思いがけない山の中で
白い大きな花を咲かせる
まもなく北風は
冷たくなった頬をつれて
赤く腫上がった足の小指を目がけて
やってくるというのに
そうして寒波の空は
全てを支配するべく
雪と氷の城を築いてしまうのに
白い花は咲く
只咲くために咲く
叶えず
夢見ず
祈らず
只届けるために咲く
このようなものがあるのだと
ひたむきさは忘れ去られていないのだと
こころの瑞々しさは失われていないのだと
天に向かって
堂々と
その顔を上げているのだ