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金牛宮 第2の試練


例のあの兄神様、フライング気味に登場。

「待たせたなッ!!」

待ってない。




 金牛宮、奥の間にて。

 2柱の神が見守る巨大スクリーンには、1人の偉丈夫……ハーキュリーズが映し出されていた。

「いよいよね」

「大丈夫でしょうか……」

「やあね、大丈夫よ」

 不安そうな幼い女神ユウェンタースを、隣に立つバックス神がまるで姉のごとく慈愛に満ちた表情で落ち着かせる。

「そんなに心配しないのよ。貴方の(・・・)英雄を信じなさい」


 うっそうとした森を抜けて辿り着いた地は、周囲が急峻な崖に囲まれており、荒れ果てたむき出しの岩が転がる場所。

 先導役を務めたアポロ神はすでにおらず、目の前には禍々しい色をした毒沼がこぽりと時折泡を吹くのみ。

 ……逃げ場は、無い。

 沼を前にした金色の鎧を纏う男……ハーキュリーズは状況を確認し、ふう、と余分な力を逃がすように1つ息を吐く。

 獅子との戦闘の時も逃げ場などなかったが、ここはもっと厄介だと思える。

 すでに解毒剤は服用しているが、それとていつまで()つか分からない。

 神の作りたもうた妙薬であるのならそんな心配など無用であるのだろうが、しかしこの見るもおぞましいどろりと濁る沼の水を見ていると、やはり不用意に触れるのは危険だと判断せざるを得ない。

 となると、どうやって誘い出すか、だが……。

「……」

 足元の小石を1つ拾い上げ、無造作に放り込む。

 ちゃぽん、と音がして沼面に波紋が広がる。

 ……まるで、ごく当たり前の水面のように。

 そしてそれは、鎮まる事はなかったのだ。


 描かれる輪は幾重にも重なり、やがて沼面が隆起してゆく。

「来たな」

 わざわざこちらから毒に浸りに行くまでもない。

 向こうが来てくれるというのならば、自分にとって戦いやすい位置を保ち続けるのみ。

 ハーキュリーズは沼からやや後方に下がり、剣を抜く。

 神によって創られし、異形のモノから成る剣を。

「「「「「「「「「っしゃあああああああああ!!」」」」」」」」」

「来いっ!!」

 現れたのは、つるりとした鱗におおわれた蛇の頭。

 それが9つ。

 眠りを覚ました不法侵入者めがけて取り囲むように鎌首をもたげ、いっせいに大口を開き威嚇を仕掛けた。


「っく、このっ!?」

 ざしゅ、ばしゅっ!!

 戦闘が始まってわずかに。

 ハーキュリーズは、バックス神の言葉を嫌でも思い出す事になる。

 ヒュドラの首1つ1つは、あっけないほど簡単に刎ね跳んだ。

 棘のついた棍棒のような形状をしていても、ごく当たり前のように斬れる剣にも驚きだが、それ以上に驚いたのは、あまりに軽い手ごたえで。

 そのあっけなさは、熟達した剣の達人であるハーキュリーズであってさえ不可解と思わせ、一瞬思わず動きが止まってしまったほど。

 だが次の瞬間には、もう傷口から新たな肉がもりもりと盛り上がり、またたく間に首の形を生していくのだ。

 さらに言えば、斬り飛ばした首から再生されるのは何も元の首とは限らない。

 そう、彼がヒュドラの首を落とす度、そこから新たに生えてくる首の数は2本。

 再生を止めようとしたとて、他の首が邪魔をして来る為そちらを迎撃せざるを得ず、ハーキュリーズはたった1匹を相手取っているのにもかかわらず、まるで数十人の一般兵を相手に無双をしているかのような状況に陥っていた。

 確かに首の1つ2つ相手にしたところで、刎ねるに問題はない。

 何せ腕を、剣を振るえば飛んでいく、その程度のものだ。

 だが、いくら力の差が歴然であったとしても、時間という魔物が彼の体力を奪う。

 1つを相手に腕をふるっている間に脇から、後ろから、斜めから横から、そしてまた前からと次々に牙が襲うのだから。

 休む間もなく剣を振るわされ(・・・・・)、あっという間に毒の牙をかわし続けるしか(・・)出来なくなっていたハーキュリーズに、焦りが生まれる。

 せめて、せめてほんの少しだけでも後に下がる事が出来たら。

 しかしそんな願いもむなしく、やはり後方からまた首が襲うのだった。


 手際?そんな問題ではない。ならば、一体どれほどの速さで首をすべて切り落とし封印の容器(ヒョウタン)に入れればいいというのだ。

 そうだ、その問題もあった。

 容器に入れるには奴を弱らせた上で、呼ぶ名に返事をさせねばならない。

 しかし見たところヒュドラの勢いは衰える様子がない。

 あれだけ多くの首を落とし、多くの血潮を流したというのに、だ。

 奴が不死である限り、延々と増え続ける首を相手にしなければならないのか。

 それこそ……自分が力尽き果てるまで。

「っく、何か、何か手だてがないと……このままではっ」

 英雄とも呼ばれる男がぞっとする未来を幻視した、その時だった。


「弱気になるのはまだ早いぜッ、英雄さんよォ!!」

 場にそぐわぬ明るい声が、沼上にせり出した崖の上から聞こえてきたのは。


 逆光に照らされ、その人物の表情はうかがえない。

 だが、少なくとも男であるのは間違いがないようだ。

 そして折れかけ弱った心が見せた幻影でないのなら、仁王立ちするその体が十分鍛え上げられたものであるのも何となく見てとれる。

「進める足を止めない限り、勝利は必ず訪れる!オジ貴……待たせたな!」

 オジ、キ?

 溌剌とした声から察するに、どうやら若いらしいその男は、叫んだとみるや崖上からバッと飛び降り、すちゃっと危なげなく着地する。

 すう、と深呼吸するかのような姿勢をとったかと思えば、ばばっと腕を体前で交差させ何やら恰好をつけたかと思うと唐突に名乗りを上げた。

「俺はハーキュリーズ伯父の甥が1人……(えーっと、名前なんだったっけ。まあいいや)命運に従い、助太刀に参上!……なんてな!さぁてよう、ヒュドラちゃん、遊ぼうぜ!」

 突然の闖入者に対して、ハーキュリーズもヒュドラでさえも、思わず手を止めて見守ってしまった。

「甥?まさか、弟の子の……?」

「そうだぜオジ貴、さあ、いつまでもこうしてくっちゃべってないで、とっとと終わらすぞ!」

 確かにいた。弟に子が。

 名はなんといったか。確かに記憶にはあるのだが。

 しかし妻子が殺されて以来ずいぶんと長い間、両親も含め、彼らとは連絡を絶っていたはず……。

 試練の事など知らせてはいないし、知りようもないだろう。

 それに例え知らせを聞いたとて、何か出来るほどの力もないはず。

 ありふれたごく普通の人間である彼らに、神の試練など到底受けられようはずがないのだから。


「俺の得物はこれだァ!来ォい、フ○ルシオン!!」

 戸惑うハーキュリーズをよそに、生命力あふれる若き青年は右腕を高く突き上げた。

 いつの間にやら持っていたのは、金属で出来た細長い棒のようなもの。

 いや、あれは何か、筒のようなものであろうか。

 気がつけばいつの間にか、背負い袋のようなものまでしょっている。

 時おり噴き上げるように炎を上げるそれをヒュドラに向かって突き出し、どこか野性味あふれる姿となった青年は宣言をする。

「燃え上がれッ、魂が灼きつくほどにッ!!」

 もはや数えるのもバカバカしいほどに増えたヒュドラの首が応えるよう一斉に咆哮をあげ、その様はさながら英雄譚の、戦開を告げる合図のようであった。


「何という無謀な真似を!」

 うおおと吠えながら、まるで無策のまま突っ込んでいった青年を追いかけ、襲い来るヒュドラの牙から守ってやる。

 棒剣の腹で押え込み、斬り捨てながらそう怒鳴れば、相手は相手で凄みのある顔で笑った。

「躊躇なんてしてる暇あるか!戦ってのはよう、敵の軍が大きければ大きいほど燃えるってもんじゃねえのか!?」

「……ッ」

 今まで、剣闘士として生きて来た。

 だがそれは生きる為であり、ひいては亡き妻子の敵を探す為であった。

 職として魅せる戦いをした事はあっても、戦いそのものは常にまじめに取り組んだつもりで、遊びの余地などあろうはずもない。

 だが彼の言うとおり、楽しむ気持ちを知らない訳ではなかった。

 彼の言う戦とはまた少し違うのであろうが、強い好敵手に出会った時、技巧をこらし攻める相手の裏をかいた時、そこに充足感が無かったとは言わない。

 だから思わず黙ってしまったのだ。

「いいかい伯父貴、とにかく片っ端から斬り落とせ!そうしたら俺が片っ端から焼き固めてやる!」

「何、だと!?」

 では、その唐突に現れた手の炎は。

 なぜ火なのかと思っていた疑問は解消された。されたのだが。

「しかし、本当にそんな事で……!?」

「木だってよォ、手入れすんのに枝を落とした後、生えないよう処理するだろう?それと同じさ!」

 もしも同じ事が出来るのなら、これ以上ない効果的な対処法といえるだろう。

 何せ首さえ増えなければ、刈るのはそう大した手間ではないのだから。

「ヤツは不老不死、しかし落とした首は生きてはいない……つまりはそういうことか!」

 足元に無数に散らばる首は皆、もの言わぬ物体と化している。

 ということは不死の呪いが掛かっているのは胴体()のみという事になり、無限に増え続ける首は枝葉、か。

 なるほど、上手い喩えを言う。

 ハーキュリーズは知らず、にやりと笑みを浮かべていた。

「ならばまず、試してみるしかあるまいな!」

「おうよ!嘘かまことか戯言か、ヤツの身をもって証明してやるぜッ!!」

 隣にいる人物が、本当に成長した甥子かどうかは分からない。

 だが、それでも共に闘うという事に妙に心地の良い高揚を感じながら、ハーキュリーズは青年と共に駆けだした。


「おおりゃあああああ!!」

「むんっ」

 終わりが見えれば、自然と力の入れようも変わる。

 幸いにも青年の炎作戦はうまく当たり、ヒュドラの首は落とされる端から傷口を焼き固められ、その数を減らしていった。

 剣の属性を火に変えたハーキュリーズ自身の活躍もあり、首の数はようやく元の九ツに戻ろうとしていた。

「さあ伯父貴、残りは一気に行くぜ!」

「おう!」

 大剣を持ち上げ走り出す。

 ヒュドラの首が喰らい付かんと迫るその上を―――飛び越えた。

 その強靭な脚力で、大剣を構えたまま高く高く跳びあがる。

「まずは、1つ」

 振り下ろし、それはさしたる抵抗もなく首をすぱりと骨ごと切り離す。

「2つ目」

 横に旋回させる。

 ちょうど迫っていた首を、真横から斬り裂く形になった。

 ぼう、とハーキュリーズをかすめるように炎が駆けてゆく。

 どういう操作をすれば炎が飛ぶのか、青年のたいまつから飛び出した炎が後を追って首の斬り痕を焼いていく。

 それを見ながら、落ちる。

 落ちながらも腕を振るい、

「3つ目」

 すぱっ。

 斬ったとほぼ同時に、地上に降りる。

 振り返りざまに「4つ!」

 無理な体勢からか、(ザン)、というやや鈍い音。

 恐れず踏み込み、再びの跳躍。

 交差するように炎が飛んでくる。

 恐ろしく正確な炎の輝跡(きせき)は、ハーキュリーズの体に熱の余韻だけ残してヒュドラの斬り口にぶち当たっては爆炎を上げていく。

「5つ」

 背筋を使い上体を反らし、反動でさらに上昇する。

 直前までいた場所を切り裂くヒュドラの牙を見送り、その首を落とした。

 再び落ちながら、今度は真正面から顔面に叩きつけるように剣を振るう。

「6つ!」

 地上に落ちた時にはすでに次の首が迫っていて、交差するように駆け抜けざま一閃、二閃。

「7つ、8つ」

 残りは、1つ。

 最後に残った首は周囲を見回し、残ったのが自分だけだと理解したらしい。

「シャアアアアアアアッ!!」

 天をつんざく咆哮に、こちらも負けじと吠える。

「これで、仕舞いだッ」

 相手が動き出すよりも、ひと呼吸ほど早く駆ける。

「いっけえええええ!!!」

 青年の燃え滾る魂の声を背に、対峙するヒュドラの頭を、脳天から、かち割った……!!


「……やった!」

「おわった、な」

 しかし、終わってなどいなかったのだ。

 途中からは半ば無我夢中で振るっていた剣ではあったが、何か大切なことを忘れていたと思いだしたのはその直後。

 直撃したはずの剣撃。それによって出来た、胴まで続く深い裂け目。

 そこから新たに、肉が盛り上がってきていたのだ。

「なっ!?」

「おおっと、楽しすぎて本体が不死って忘れてたぜ。どうする?俺の(・・)炎でも、このままじゃ殺せねえ。……いっそ埋めるか?」

 火を吹きだすたいまつもどきを、まるで荷物でも持つかのように肩に乗せ、気楽に言ってのける青年に、ハーキュリーズはちょっと待てと言いたい気分になった。

 共闘は楽しくなかった訳ではないが、色々と問いただしたい事が多すぎる。

 それに何より、このまま埋められてしまっては困るのだ。

「不死の部分はこの容器に封じろとの仰せだ。だが、問題があってな」

「問題ィ?」

「こいつは名を呼んで返事をしたものを吸い込む、のだそうだ」

「どこが問題なんだ?」

 ヒョウタンを指示してみるが、青年は本当に分からないようでキョトンとした表情のまま首をかしげている。

 その表情は本当に若く、まるで10代の青年であるかのようにさえ見えた。

 とうに失った輝かしい過去に僅かに思いを馳せ、羨ましい気持ちさえ湧いてくるが、今の問題はそこではないと振り切って続ける。

「あれに、名を呼ばれて返事が出来るような知性があると思うか?」

「無いだろうな」

「そうだ。試練の神もそのセンは無いとおっしゃっていた。だから、何か手だてを考えんと……」

 バッコス神は、正攻法でなくとも良いとは言っていた。

 だから逆にいえば、何がしかの手だては必要なのだろう。

 傷が深いのか、ヒュドラの動きは鈍い。

 今の内にどうにかしてしまいたいところだが……。

「案外、呼んだら返事するんじゃないのか?」

「そんなバカな」

 呆れた声が出てしまったが、相手は意に介さず人のヒョウタンを奪い取りふたを開け、それをヒュドラに向けたまま大声で呼び始めた。

「おいヒュドラ!もうおしまいか?こっちの2人はまだまだ元気だぞ!どうした、かかってこい!」

「待て、今挑発しても」

「……きしゃああああっ……ぁぁ???」

 しゅるしゅるしゅる……す、ぽんっ。

 無駄だと、それどころか襲われるんじゃないかと危惧して止めようとしたその手は無駄になった。

 青年の“呼び声”に、ヒュドラは“反応”した。

 つまり名を呼ばれ、返事をした、と。

 相手が分かっていようが分かっていまいが、条件は満たされたのだ。

 ヒュドラはハーキュリーズの持つ植物を模した容器に吸い込まれ、封印は成されてしまったのだから。

 あっけない幕引きに、ハーキュリーズはどこか理不尽なものを感じなくもない気がした。

 

「いやあ、上手く行って良かったな!」

「ああ……そうだな」

 ともかく、これで試練をまた1つ果たす事が出来た。

 後は神殿へ戻るだけだろう。

 帰りはおそらく、このままここで待っていれば、またアポロ神が迎えに来るはずだ。

 だから、問うのならばきっと今のうちなのだろう。

 ハーキュリーズは、ヒュドラを封印した容器を見つめながら青年に問う。

「助力かたじけなく思う。あのまま1人で闘っていたのなら、遠からず倒れていただろう。ところで……“貴方”はいったい何者なんだ?いや、どなたさま(・・・・・)であらせられるのか」

 青年はその凛々しい顔立ちを奇妙に歪め、にやーっと笑った。





このゲスト、隠す気が(あまり)無い。

ついでに言えばこの神様、火炎放射機だけじゃなくってどこぞの有名なカクテルやらフルーツやらを樽ごと持ち込んでる気がするのだが。



ついでに。

専門を“俺の”って言われちゃった火属性の神’sは泣いていいと思うんだ。

鍛冶(場)泥棒(本家)「火とかどうでもいいんで、俺にも嫁ください」

長兄「はよ、爆死はよ」(死んだ魚の目)


おまけ。

戦闘神「へえ、人間の造った壁を壊すのか?ずいぶんと楽しそうなお祭りじゃねえか!俺も混ぜろよ!」

進撃巨人「(困惑)」

(なおこの戦闘神さまは、厨2ネーム『城壁の破壊者』の称号をお持ちのようです)



次回、進化タイムッ!!




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