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第1宮 白羊宮 第1の試練の後に

「では今から工房にこもるので、そこで待っていてくれ。ああ、絶対に覗くなよ?」

 倒れた獅子の屍を持って、神殿の奥へ行こうとするウルカヌスお兄様。

 輝く鋼で出来た動く椅子の背後にあるいくつもの金属の板が、どういう仕掛けかうねうねと動きながら獅子の巨大な体を持ち上げています。

 絶対に覗くなって、それはもしや極東に伝わるという古き言い伝え……の丸パクリではありませんの?

 別に覗かれたところで、見た人間があまりの眩しさに目を潰されるだけでしょう?

 わたくしには……ああ、そうですわね、いかな強靭な肉体をお持ちのハーキュリーズ様といえども、兄の扱う天の火をまともに見てはただでは済みませんわよね。

 奥へ向かうお兄様と別れ、わたくしはお戻りになったハーキュリーズ様とともに、長卓と長椅子の置いてある応接室へと案内されました。


 あの絶世の美女の姿をしたお人形さんにお茶の用意と体を拭くものを用意してもらい、わたくしはその間に何かできないかと話しかけます。

「あにょ……痛くはありましぇんの……?」

「少々打ち身などありますが、さすがはウルカヌス様ですね、お貸しいただいた鎧のおかげで骨が折れるような事は無かったようです」

「まあ、そうでしたの。それはよかったでしゅわ。でもこの後悪化する場合もありましゅし、打ち身とはいえ甘く見てはいけましぇんわよ」

「そうですね。至らぬわが身とはいえ、何がしか障害が残ってしまえば試練の続行は難しくなるでしょう。……私は貴女様の剣にして盾なのですから、自らの体を決して軽んじる事無く精進せねばなりません」

「……しょこまで、思いつめて欲しい訳では無いのでしゅ。……わたくしはただ……心配だっただけでしゅわ」

 神だからと、人を道具のように思って使っているとでも思われたのでしょうか?

 それは……この方を想うわたくしからしてみれば、あまりに悲しい事でした。

 幼児(このすがた)になってから精神(ココロ)まで戻ってしまったのか、そうではないと悲しく思う心が涙を浮かばせます。

「ユウェンタース殿……」

 様付で呼ばないで欲しいと頼んだのはわたくし。

 神と人という隔絶された間柄ではあるけれども、それでも、少しでもその隔たりをなくしたいと願ったかがゆえに。

 嗚呼、優しい、優しい。嗚呼、此の方は、こんなにもお優しい。

 そんな方に、わたくしは……。

 涙が溢れそうになったその時。


 ぢゅいいいいいいいいいいん

 ごどごどごどん

 きぃぃぃぃぃうぃいいいいいん

 ばりばりばりばりばり

 ちゅどーーーん


「……」

「……あれは」

「あ、お気になさらなくても大丈夫でしゅわ、あれがお兄しゃまの鍛冶の音でしゅから」

「あれは明らかに鍛冶の音とは……兄?」

「あら?言いましぇんでしたか?」

「……」

 さっきまでの空気はどこへ。

 ハーキュリーズ様ったら、どういう訳か茫然とした表情です。

「……という事は、御身は大神の……」

(むしゅめ)でしゅわ」

 もしかして、知らなかったのでしょうか。

 確かにわたくしは、大神の兄弟の中でも一番のマイナー神ですが。

「父は大神ユピテル、母は大神の妻で女性を守護する女神ユノ。他に兄弟が兄2柱、姉1柱おりましゅわ」

 長兄である鍛冶の神ウルカヌスお兄様に、次兄の戦神マルスお兄様、そして出産を司る姉のルキナお姉さま。

 お姉さまはいつもお母様―――母神ユノとご一緒だったり代わりにお仕事をされたりするので、人から見ればどちらもかわりないと言いますか、いてもいないような扱いをされる事も多いと聞きますが、少なくとも兄2人は12神に数えられるくらい高名ですものね。

「これは……恐れ多い事を」

「止めてくだしゃいまし!……今のわたくしは、何の力も無いただの人の子とかわりありましぇんのに」

 ただでさえ、地上で知っている人がどれほどいるか分からないような、そんな埋もれた女神ですのに。


「何の話だい?」

「お兄しゃま!」

「ウルカヌス様」

 お互い慌てていたら、丁度ウルカヌスお兄様がお戻りになられました。

「あの……先ほどまでの大きな音は……」

「ああ、あれね。人間の鍛冶とは違う音がするからびっくりしたかい?」

「ええ……まあ……」

 言葉を濁されるハーキュリーズ様。

「まあ、わたしはこんな状態だからね。鍛冶を……何か作業をするにしても、普通じゃない事でもしない限りは上手くいかないのが当たり前なのだよ」

 椅子の上で両手を広げ、肩をすくめるお兄様。

「この後ろの金属板を手のように操り、高温の天火で鍛えていたんだよ。いやはや、さすがは堕ちたとはいえスフィンクスにまでなりかけただけの事はある。一筋縄ではいかなかったが……」

 そう言って取りだしたのは、黄金に輝く鎧が一式でした。

 「じゃあさっそく、試しで着てみてもらえないかい?」というウルカヌスお兄様の声で、(しもべ)のお人形さんが着替えの準備を手伝おうとします。

 待ってください、わたくしも!

 魂など無いお人形とはいえ、絶世の美女である彼女に手伝われているハーキュリーズ様を見るのは、なんだか無性に嫌だったものですから。

 体の汚れを拭いてから試着に移ります。

 ……役得だなんてこれっぽっちも思ってませんわよ!?

 筋肉に覆われた上半身が目の毒だなんて、そんな罪深いことさっぱり思ってなんかいませんから!

 兜、肩あて、そして腰回りにはふんだんに獅子のたてがみが使われており、胴や足を包むのは同じく獅子の胴の黒皮。

 ところどころ赤い差し色が入っていて、それがまたたてがみの黄金を引き立てているかのようです。

 兜の形は獅子の頭を模しており、一式すべてを装備したハーキュリーズ様自身こそが、まるで1頭の金獅子のよう。

 頑丈な獅子の黒皮におおわれた首元にはいくつもの宝玉が輝き、それらには全て身を守る祝福が込められていました。

「ふわあ」

『どうでしょう?』

 兜をかぶったせいか、少しくぐもった声がしますが。

「うん、上等。似合っているよ」

「かっこいいでしゅわ!」

『そう、ですか?」

 あ、兜をお外しになりますの。まあ、戦中でもないですしね。

 それに、お外しになったお姿も、凛々しくて素敵ですわ!

「それと、これも進呈しよう」

「これは……」

 お兄様が差し出したひと振りの剣に、ハーキュリーズ様は目を丸くされてしまいました。


「合っているというだけあって、 堂に入っていたからね。下手なものを渡すよりは、と思ったんだよ」

 そう言ってなおも差し出したのは、剣という分類ではあってもどちらかといえば棍棒……いえ、金棒に近い形状をしたものでした。

 ……正直、輝いていなければ、鉄釘をランダムに打ち込んだ壊れたバットのようにも見えますが……。

「これも、獅子からお作りに……?」

「そうだよ。力を溜め込む事により、更なる力を発揮できるよう仕込んでおいたから、いざとなったら解放するといい。“力”については先ほど説明したから大丈夫だな?それを持ち、試練に立ち向かっていってほしい。……我が妹の為にも」

「……はい」

 力とはすなわち神の力。

 自覚のあるなしにかかわらず、ハーキュリーズ様の身に父、大神ユピテルの血が流れているのは事実。

 あの化け獅子に勝てたのだって、それゆえだと言っても過言ではないのでしょう。

 お兄様はその“力”が何処よりもたらされたのかを言わぬまま、利用しなさいとおっしゃっているのだ。

 ……それは恐らく彼自身の為であり、そしてわたくしの為にも、なのでしょう。



「あ」

「いかがいたしましたか?」

「あの、えっと」

 アポロ様の待つ銀河鉄馬車に乗り込み出発を待つ間に、ふと、考えなければいけなかった事を忘れていた事に気付きました。

 それにしてもハーキュリーズ様ったら、そこまで丁寧に接しなくても、とか、ちょっとした事にも気づいてくれたのがうれしいだとか。

 ほんのわずかな事で、わたくしは動揺してしまいます。

 いけませんね。……ハーキュリーズ様が戦ってらっしゃる時も、ずっとはらはらしっぱなしでしたし。

 神としての威厳を求めるのなら、これくらいは慣れないといけないのでしょうか。

 それにしても、です。

「あの、その、十二宮の神の試練でしゅが、ちゃんと別に番人がいたはじゅなのでしゅ。なのに、実際にはウルカヌスお兄しゃまが出てきまちたでしょう?どうしてかちらと思いまちて」

「そうなのですか?ふうむ」

 一緒になって考えてくださるようで、腕を組んで視線を外されました。

 そんなお姿も実に様になりますのね。

「やはり、御兄弟だからでしょうか?」

「ウルカヌスお兄しゃまとでしゅか?うーん、そうなりましゅと、次辺りでマルス(まりゅしゅ)お兄しゃまが番人を務められりゅのでしょうか?」

「はて、そればかりは実際に行ってみませんといけませんな」

「そうでしゅわね……」

 そこから、話は今回の試練の事について移って行きます。


「しかしあれほどの怪物が出てくるとは。さすが十二宮。恐ろしい試練でした」

「そうでしゅか?それをおっしゃるのなりゃ、さして大きな傷も負わじゅに無事お戻りになりゃれたハーキュリーズしゃまの方こそすごい(しゅごい)と言えるのでは?」

「あれは……正直自分でも、大した怪我もせずに生きて帰ってこれたのが奇跡としか言いようがありません。あれでもっと知恵の回る獣であったのなら、戦況はがらりとかわっていたでしょう」

「しょうでしたの」

 半神であるハーキュリーズ様をして奇跡と言わしめるとは。

 次の試練からは、さらに苛烈となるとお兄様もおっしゃっていましたし……。

「次の試練とは、一体どんなものになるのか」

 偶然にも同じ事を同じ様に考えていたようで、考え込み伏せていた視線を上げると、思った以上に真剣な目と合いました。

「……もしや、不安なのでしゅすか?」

「……いえ、そうですね……。私は、自分ができる事をやるだけです。……結局、それしかできない愚直な男ですから……」

 自嘲気味にそんな事を言うハーキュリーズ様に、わたくしは思わずにっこりとわらいかけておりました。

「そこで『大丈夫』などと安易に安心さしぇる事を言わないのが、ハーキュリーズしゃまのいいところでしゅわ」

「そうでしょうか?」

 けれども、当のご本人は不思議そうに首をかしげてしまわれます。

「不甲斐ないと、そのように思われていないといいのですが」

「そんな事ありましぇんわ!真摯で真面目に取り組んでくだしゃる。しょれだけでもありがたい事でしゅもの!」

「――――――そろそろもういいかい?」

「「あ」」

 お互いちょっと前のめり過ぎたみたいで、気付けばウルカヌスお兄様が横に立ってあきれたお顔をされていた事にも、ぜんっぜん気付きませんでした。


「ひとつ忘れていた事を思い出してね」

 何でしょう?もしや十二宮の番人のお話でしょうか……?と思ったら違いました。

「これを渡しておくよ」

 お兄様がわたくしに寄こしたものは、小さくて半分が細かく分かれた黒い板……ってこれ!!

「衛星携帯じゃありましぇんの!」

 とんだ遠未来技術(オーバーテクノロジー)ですわ!!

「どういうことでしゅの!?」

 目を白黒させているハーキュリーズ様に、今だけは構っていられません!

 わたくしはお兄様に激しく詰め寄ります。

 なんですのその『ご褒美』みたいな編にだらしないニヤけ顔は!!

 そんなんだから奥様にも……!!

 ……っと、禁則事項でしたわね。危ない所でしたわ。

 ウルカヌスお兄様のお嫁様が美形趣味なのは今更言うまでもありませんので、それについていうのは別に大丈夫なのですけども……真実は時に重く苦しい、そして何より悲しいものですわ。

 ……あ、いけません。

 見事なブーメランでしたわ……。


「あの、何故でしょう?」

「何故って、いざとなった時に連絡取れなかったら困るだろう?短縮1番に父さんの番号登録しておいたから、とりあえず無事だって一度連絡入れておいてあげて」

「……」

 なんでしょう、この、ごく普通のありふれた家庭の家族みたいな会話は。

「他にも短縮番号に家族全員分番号登録しておいたから。みんな心配していたよ。だから出来るだけまめに連絡してやって。特に母さんがさ、すっごく心配していたから。それと、何かあったら必ず、か、な、ら、ず!誰でもいいから家族の誰かに連絡して。絶対1人で抱え込んではいけないよ!そこの大人を頼るのも当たり前だけど、わたしたち家族だって助けになるから。頼りなさい、絶対に。いいね?」

 きっとわたくしも、さきほどまでのハーキュリーズ様のように茫然としていたでしょう。

 口から洩れたのは、かすかなつぶやき。

「……いいの、でしゅか?」

「……家族(あたりまえ)でしょ」



 そうして、ウルカヌスお兄様を残し、馬車は再び出発いたしました。

 わたくしはずっと黒い板を握りしめ、かけるかかけまいか悩んでおります。

「……お話しなさればよろしいのでは?」

 複雑な思いの中、後押しをするように言って下さったハーキュリーズ様。

 その言葉には、深い深い実感が込められていたように感じます。

「いつ会えなくなるかもわからない世の中です。親がいるというのならば、いるうちに甘えておくといい―――私なら」

 それがうれしいから。

 そう、おっしゃったハーキュリーズ様には、かつてお子様がいらっしゃったのでした。

 しかし、それも―――

 思い出して泣きそうになるわたくしに、ハーキュリーズ様は優しく語りかけます。

「私には、家族がおりません。ですが、知らないわけでもありません。親や兄弟は、家族を心配するものです」

 きっぱりと言い切ったハーキュリーズ様に、そういえば、と思い出します。

 そうです、彼にはごく普通に人間な弟君がいたのでした。

 正直、記憶からすこん、と抜けていました。

 その方、今はどうされているのでしょう。

 ハーキュリーズ様とは寿命が違うとはいえ、いまだ亡くなったという話は……いえ、話題にならないだけかもしれませんが。

 そんな事を考えている間も、ハーキュリーズ様のお話は続いています。

 いえそんな、決して聞き流しているわけでは。

 神ならばこれくらい余裕ですのよ!

「誰かの為に何かしたくとも、気付いた時にはその手をすり抜けている、そんな事もあるのです。だから―――今、少しだけでも話してみませんか」

 誰かの為……すり抜けた誰か。

 ……彼が家族を亡くした原因の1つは、確実にわたくしにも関係する事です。

 迷ってはいましたが、後悔と罪悪感(ハーキュリーズ様)に後押しされ、わたくしはそっと1つボタンを押しました。



「もしもし……?父しゃまでしゅか……?」






隕石にまぎれて人工衛星飛んでるんじゃないですかね、この世界(すっとぼけ)

EOTエクストラ・オーバー・テクノロジーもらくらく再現。

なにせ神様ですから。出来ない事はないんですよ。


ちなみに……。

「???」

「どうかしましたか?ハーキュリーズしゃま」

「いえ……なぜだか分りませんが、不思議な感覚が……」

ウルカヌスから貰った鎧

防御力 A++

耐久力 A+

神力  A

敏捷力 A

神器補正A

幸運値 B

保有スキル

力の解放(会心率UP) 闘魂(強敵相手に攻撃力UP) 封じられた魂(ネメアの獅子の魂による攻撃補助(サポート)


ウルカヌスに貰った大剣

攻撃力 A++

耐久力 A

会心率 A

保有スキル

全属性攻撃+(属性解放による攻撃力UP)刀匠(切れ味と攻撃力UPならびに砥ぎ時間短縮) 


……ラージ○ン装備と鬼金棒……。

ちなみに意思そのものではないけれど、○スラーダ搭載済。

幼女神「お兄様!?」

ウル兄「(ご褒美……)」(悶)


そしていよいよ次の宮です。

偶像「次は~金牛宮~金牛宮~♪」




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