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「ちょっと副隊長!口説くのはいいッスけど、誰かれ構わずとかやめてくださいよ!」
「あー。見慣れない子鹿ちゃんが混じってたからついね。なに?ジルダの彼女?」
「違いますよ!陸軍から来た秘書官ッスよ!
「秘書官〜?」
あぁ、そうか。
今もラファージュ副隊長は柔らかな笑顔を浮かべている。けれど、なんだかなにも感じていないような、無表情のような笑顔、そんな表情をなさっている感じがする。
だから、違和感だったのね。
……なぜこんなにもいろいろな感情が混ざっているのかしら?
「……さあ、なぜでしょう?」
えっ?
思わず、目を瞬かせる。だって、私が考えていることがわかったみたいな口振り……。
目の前には、相変わらず微笑むラファージュ副隊長がいらっしゃる。
でも、その目は私を鋭く射抜いていた。
「副隊長、ルイーズちゃんの心を読むのはやめてくださいな」
心を、読む……?
私を抱きしめるオーギュスタが不服そうに言って、さらに私に抱きついてくる。
「やだなー、誤解だよ。その子、感情ダダ漏れなんだよ?精霊が読む前に俺がわかるって」
精霊が、読む?どういうことなの?
「で、子鹿ちゃんは秘書官なの?陸軍の?」
子鹿ちゃん……って、なぜでしょう?
「あ、は、はい!この度陸軍よりこちらの空軍隊仮秘書官として働かせて頂きます」
考えごとはやめよう。今は仕事中よ、ルイーズ。
「うん、そっか。じゃあ秘書ちゃん、どうか宜しくね。こいつを」
そう、後ろのマドラル隊長を指し示す。
「どういう意味だ」
無表情ながらも、声音が少し低く変わったマドラル隊長。
でも、ラファージュ副隊長はまるで気にしていない。にこやかな表情で後ろに振り返ると、隊長のデスクの書類の山から、ある一枚の紙を引っ張り出した。
「これ、ここの隊長が書いたやつ。ほんと酷い」
隊長本人を目の前にこの発言。
大丈夫なのかしら……。
「おい、リオ。お前ーー」
「ほら見て見て」
さっきから無視してしまっているけど……。
隊長と副隊長、立場的にこんな態度でいいわけがないわよね?
と、ぬっと目の前に出された紙面。
「軍事演習、報告書……?」
「そう。それで、その下の内容」
これは、マドラル隊長が書かれたものよね?
言われるままに、下の内容の方へ視線を滑らせていきーー。
「えっ。……あ!す、すみません!」
思わず声を漏らしてしまい、慌てて頭を下げて謝罪する。
……ど、どうしましょう。
ロッド少将が仰ったいた意味がようやくわかりました。
想像以上、でした。
「あ、大丈夫だよ。君の気持ちは充分よくわかるから。どうか見捨てないでやってね」
顔を上げれば、心底哀れんでいるような表情をなさっているラファージュ副隊長。
その表情は、なぜ本物に見えるのでしょう。
そして、それは誰に向けての表情でしょうか?私に向けてでしょうか?
「うん。ヴェルミオンも哀れだけど、君にも同情するよ」
やっぱり、思っていることが全てわかられてしまっているんだわ。
一体、どうして?
「答えてあげてもいいけど、一個だけ、約束を俺にくれない?ヴェルミオンのこと、諦めないでやってね?」
甘く、ともすれば愛の告白のような口調で、交渉のような脅しを口になさる。
凄く、複雑な気分です。
いえ、ロッド少将の手前、今更やめるだなんてことはありませんよ?仕事ですしね?
ただ、こんなに悲さーー、ええっと、酷い?じゃなくて、想定外……はなんか違うから、そうね、えっと……。
「っ、く、あははは!」
ギョッとして見やれば、お腹を抱えて笑うラファージュ副隊長と、その横で目をまん丸にして彼を凝視するジルダがいた。
「は、はは。……あー、笑った。君もかなり面白い思考してるね。ありがとう」
君も?ありがとう?
「……副隊長が笑うのなんて、すげー久しぶり」
ジルダが、そのままの表情でぽつりと呟く。
「なんで。俺、いつも笑ってるでしょ?」
「や、本気で笑ってるのが、って意味ッス」
「まるで俺が無感情男みたいじゃないか」
「そっすね」
「お前さあ……。いいけど」
……ここは、やっぱり私たち陸軍隊とは違うのだわ。場所が違うのだから当たり前だけど。
上下関係がない、と言ったらおかしいかもしれないけれど、こんなにも親しく接し合う軍隊もあるのね。
「俺の精霊は、人の考えてることを読んで伝えてくれるんだ。まあ、普段は伝えないように言ってあるんだけどね」
精霊……。
本当に不思議な力を持っているのね。
だから、私の考えていることがラファージュ副隊長には分かってしまうのね。
「ただ、君の場合は精霊がいなくてもわかるからさあ。どう?陸軍隊とは違うけど、空軍隊は気に入りそう?」
……私、そんなに感情漏れているのかしら?
こちらの不手際で、投稿する物を間違えてしまいました!
混乱させてしまって申し訳ありませんでした(*´Д`*)
読んでくださりありがとうございました!