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 花柄のと、青色のと、金のラインが入ったカップに白いカップ。

 あとは、アン様の物だけれど……。


 ううん、なんかどれも使っている形跡が見当たらないわ。


 茶葉を蒸らしている間に見つかるかと思っていたのだけれど。そろそろ注がないと、蒸らしすぎてしまうわ……。



「ルイーズ? そういえばカップーー、あらっ。どうして全部揃ってるの? 凄いわ!」



 がちゃり、と入ってきたのはアン様だった。



「あ、いえ。その、アン様のカップだけ見当たらないんです……」


「あたくし、ここではほとんど飲まないから。他が揃ってるだけで上出来よ」



 ジルダなんて何度も間違えて、と笑いながらおっしゃって、棚の中に手を伸ばした。

 そうして取り出したのはパステルピンクのカップとエメラルドグリーンにブラウンの花模様のカップ。



「……二つ? あ、どなたかお客様が?」


「やだ、なにを言ってるの」



 ころころと笑い声を上げ、アン様はグリーンの方を私に差し出した。



「あなたのよ。家から持ってきたの」


「わ、私の?」


「えぇ。ここにあるカップ、みーんなあたくしが用意したの。イメージにぴったりでしょう?」



 と、いうことは。

 このグリーンのカップは……



「あなたの目。ヘーゼルでしょう」



 きらきらと美しいアイスブルーの瞳がちょこんと覗き込んできた。

 そこにはっきりと映るのは、ただの黄身がかった茶色。



「そんなに、綺麗な色じゃないです」



 あんまり考えたことなかったけれど、こうして見ると、私の色がいかにぱっとしないかが目の当たりにされる。



「まあ、緑は入ってないけれど、ルーンの目がエメラルドグリーンですもの」



 …………ん?


 ま、マドラル隊長?

 どうしてここでマドラル隊長の名前が……。



「あなた、ルーンのこと好きなんでしょう」


「な、は、えぇ!?」


「あ、間違えた。お客様が来ているのはそうよ。もう一つ、カップを用意しないと」



 えっ。

 えっ!?


 な、なにをどう間違えたの!?

 背伸びをしてカップを手に取ったアン様は、にっこりと愛らしく笑いかけてくださった。



「あなたの大好きな、ロッド少将よ」




 ♯




 かつんっ、と踵を鳴らして、両手は塞がってしまっているから、精一杯背筋を伸ばして敬意を示す。



「ルイーズ・ド・カナート、只今無事、帰還いたしました!」



 どうしましょう!

 ロッド少将が、ロッド少将が目の前にいらっしゃる!

 そして、私を見て小さく頷いてくださった!



「やだあ。ギルってば、むっつりよね〜」


「むっつりなんて、どこで覚えてきたのさ、そんな言葉」


「アリスが教えてくれたわ。なぜ?」


「……いや?」


「副隊長の笑顔こえぇ……」


「触らぬ副隊長に祟りなし、よ」



 ひそひそと、なんのお話かしら。

 あ、紅茶。


 冷めないうちにと、ロッド少将の前に置いたあと、マドラル隊長、ラファージュ副隊長と順々に置いていく。



「それで、なんのご用かしら。あぁ、待って予想はできてるのやっぱり言わないでお願いだから帰ってちょうだい」


「お前ら、うちの秘書官をなんて目に合わせてるんだ」


「ああああ、ほら、もう! 怒らないでくださいな!」



 あぁ、久しぶりのロッド少将のお声。

 安心してついていけるような、そんなロッド少将のお人柄をしっかりと表してる、深く低く響く声。素敵。



「冗談は置いといて、だ」



 えっ。

 ロッド少将が冗談……!?


 そんな。

 私の前では一度だっておっしゃってくださったことがないのに!



「この子、どこで衝撃受けてんの」


「副隊長、ルイーズちゃんどころか、隊長までショックを受けてますわ」


「え、なに? 嫉妬?」


「……」



 こほん、というロッド少将の咳払いで、執務室の会話がぴたりと止んだ。

 全員が注目する中、ロッド少将は。



「カナートを守ってくれたこと、感謝する」



 頭を、下げた。


 な、な、なぜ。いえ。わ、私を守る?どういうこと?え?



「守れたことに入るのかしら」


「帰ってきたし入るでしょ」



 やだ。

 この場で動揺しているのは私だけ?



「カナート」


「あっ、は、はい!」



 呼ばれて、慌てて姿勢を正した。

 ロッド少将が同じく身を起こして、こちらをご覧になっていた。



「なにも言わず放り出して悪かった。おれも確証は持てなかったのだ。だが、おれでは守りきれないと、それははっきりと判断したからヴェルミオンに預けた」


「えと……」



 未だ疑問符でいっぱいの私に、ロッド少将が苦笑なさった。



「おれの家はよく『翼』を授かる者が出る血筋でな」



 な、なんの話?『翼』?



「じゃ、じゃあ……」


「まあ、おれの代でその流れは途切れたようだが」



 あ。そ、そうなんですね。



「ただ、『気配』は感じ取れるようでな。カナート、お前の中に精霊絡みの嫌な気配がした」



 ……も、もしかして、《黒の印》のことかしら。

 じゃあ、精霊に『翼』を授かるみなさまは最初から気づいてらっしゃったの?

 そういえば、ラファージュ副隊長もご存知のような口ぶりだったものね。



「報告書など事務官がやればすむことだから、本来は貸し出しなど不要なのだが、移動の建前が必要だったからな」



 つまり、本当の目的は秘書官としての仕事はなく、私の身の安全を考えてくださってのこと……ってこと?


 さて、とロッド少将が息をついた。

 そうして、私に移動を命じたいつかのときと同じ目で私をご覧になった。



「本日にて、空軍隊での業務は終了。再び、陸軍の秘書官として勤務するよう」



 えっ……。

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