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 鬱蒼とした木々の間を黙々と進み続けて、今現在まで誰も一言も言葉を発さないこの状況。


 き、気不味い……!


 これ、これは、私がなにか話さなければならないということでしょうか。

 いえ、でも、なにを?そもそも、なにか話題を振れるほど共通点もない。


 というより、なぜマドラル隊長とラファージュ副隊長は黙ったままなんでしょう?

 仲はよろしい、の……よね?

 あら、もしかしてそんなことないのかしら。

 でもでも、親しげにお話してらしたし、お二人ともお互いに気を許しているご様子でしたし……。



「わっ」



 ……と、びっくりしたぁ!

 危うく転ぶところでした。

 うぅ、声まで出して恥ずかしい。


 暗くて見えないだろうけど一応振り返る。


 ……うーん、暗い。

 奥に行くにつれて、どんどん暗くなっていってるのよね、この《北の森》は。今じゃあ、私には足元なんてほとんど見えない。

 そして、やっぱりなにに引っかかったのかもわからないわ。

 まあ、でもたぶん木の根か何かでしょう。そこら中に盛り上がってるみたいだし、足に硬い触感もあったし。


 そう思うことにして、止めてた足を動かそうと前に向き直った途端。



「カナート」


「わっ」



 目の前にマドラル隊長がいらっしゃって、その胸に思い切り顔をぶつけてしまいました。



「あ、す、すみませんっ」



 き、気づかなかった!

 慌てて後ろに下がろうとしたけれど、逆にマドラル隊長が屈んだせいで距離が近くなる。


 暗い中、緑色が光って思わず見惚れてしまう。

 マドラル隊長の髪は燃えるような赤色だけれど、長い睫毛は暗い赤色なのね。

 こんな闇の中だと黒っぽく見えて、余計に緑色が際立つ。

 とても、綺麗。



「大丈夫か」


「へっ!?」


「すまん、気を付けてやれなかった」


「あ、あぁ。いえ、私の不注意ですから! ご迷惑をおかけしてすみませんでした!」



 そう、いつまでもマドラル隊長のお世話になってばかりじゃ駄目でしょう!

 自分でちゃんと気をつけないといけないのに、私ったら無意識にマドラル隊長のお声がけを頼りに歩いてきてたんだわ。



「さっきからなにを叫んでるの?平気?」



 って、また私は進みを遅らせてしまいました!

 少し先を行っていらっしゃるようだからお姿は見えないのだけれど、ラファージュ副隊長のお声だけは聞こえました。



「す、すみません!もう、大丈夫ですから!」



 ラファージュ副隊長にも聞こえるように言えば、「そう?」という返事の後、微かに人が動く気配がした。


 マドラル隊長もだけど、どうしてこう音を立てずに歩けるのかしら。私の音ばかり響いて、完全にその努力を無駄にしてしまってる。

 いえ、努力もなしに自然と気配を消してらっしゃるのかもしれないけれど。



「俺のすぐ後ろを歩け」



 すっと離れた体温にはっとすると、マドラル隊長が向きを変えていらっしゃった。


 ……つまり、マドラル隊長の動きに合わせて障害物を避けろということですね。

 いつまでも世話のかかる私。


 ーーと、あら?


 なんか、胸元の袋が熱い?

 見下ろして見てみてもなんの変化もない、マドラル隊長の羽が入った守袋が下がっているだけ。

 上から触ってみても特になにも感じない。

 気のせい、かしら。



「カナート、遅れるな」


「あ、は、はい!」



 気になる、けど、また後にしよう。

 袋を開けていたら遅れてしまうもの。

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