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 よかった。

 ラファージュ副隊長に怪我はないみたい。



「小鹿ちゃんまでいるの?なんで?」


「説明は後だ。とにかく、ここを出るぞ」



 マドラル隊長の堅い声に、ジルダが私の方へと寄ってきた。



「さっきは押しちまってごめん」


「いえいえいえ!軽くでしたし、理由もわかってますから、大丈夫ですよ」



 ジルダはほっとした顔をしながら、普通に二人分の荷物を持ち上げようとしてて、それにも慌てる。

 帰りぐらい、自分で自分の世話はしないとーー、



「んー。まだちょっと出られないかなぁ」



 えっ。



「とりあえず、泉までついてきてくれない?」


「……なにがある」


「いやぁ、ちょっとね」



 そう言って、ちらりと私をご覧になった。

 相変わらず、感情のよめない表情。

 一体、なにを考えてらっしゃるのかしら?


 ふいに、にこりと微笑みかけられた。



「小鹿ちゃんも一緒にね」


「それは駄目だ」



 私が反応するよりも早く、間髪入れずにマドラル隊長が仰った。

 ……って、あら?なんだか、



「カナートと共にアンに報告しに行け」



 無表情な目でジルダを見たマドラル隊長の言葉に驚いたのは私だけじゃなかった。



「隊長と副隊長はどうするんスか?」


「何かあるんだろう、調べてくる」


「いや、いくら隊長が強くたって、副隊長が『負け知らず』だって、危険っスよ!戻りましょうよ!」



 ラファージュ副隊長って負け知らずなの?

 え、それ本当?

 だとしたら、ものすごい人なんじゃ……。



「ねえ。アン、帰ってきてたの?」



 のんびりとした口調のラファージュ副隊長の声が割って入った。

 それに、マドラル隊長は少し迷うような表情をなさったあと、ゆっくりと口を開いて。



「……アンが、魔人に襲われた」


「…………は?」



 瞬間、ラファージュ副隊長が『本当の表情』を覗かせた。


 美しいお顔。消えた微笑み。

 見とれるよりも怖さが先に立つような、そんなラファージュ副隊長から、なぜか目が離せない。



「アイツの代わりに探しに来た」


「無事!?」


「アリスが治した」


「……そっか」




 簡潔な会話。そこには私の知り得ない信頼関係が見えた気がした。



「心配していた」


「……っ」



 ラファージュ副隊長はアン様の無事を心の底から安堵なさっているようなのに、なぜか迷ってらっしゃる。

 あんなにも必死なご様子だったのに。

 マドラル隊長もそんなラファージュ副隊長を訝しげに眺めてらっしゃった。



「……」


「リオ、」


「でも、駄目だ」



 今度は、ラファージュ副隊長が有無を言わせない口調で私を真っ直ぐに見つめた。

 って、え?

 私?



「ジルダだけ、戻って俺の無事を伝えてよ」



 あくまでも、私とマドラル隊長を奥へと案内なさりたいよう。

 どうしてなのかしら?

 マドラル隊長やジルダにも分からないことを、私なんかが想像つくわけないのだけれど。


 ……嫌な予感しかしないのはこの《森》のせい?それとも、ご様子のおかしいラファージュ副隊長のせい?



「……わかった」



 低く、重いマドラル隊長の言葉。

 それにラファージュ副隊長は少し傷ついたような顔をなさった。

 本当に、なにがおこっているのかしら?



「隊長!」


「カナートの荷物をよこせ」



 ジルダの抗議の声を無視して、奪うようにその手から私の荷物を取り上げた。

 って、ぼーっと見てる場合じゃないから!



「あ。じ、自分で持ちます!」


「ルイーズ!?」



 ごめんなさい、ジルダ。

 でも、だって、私にはなにもわからないし、ラファージュ副隊長は大事なアン様を天秤にかけても来て欲しいと仰ってるし、それに……。



「……あの、マドラル隊長?大丈夫ですか?」



 やっぱり。

 近寄ってよりわかったお顔の色の悪さ。

 表情こそ変わらないものの、いつものマドラル隊長ではない。

 小声でかけた言葉に、マドラル隊長は一瞬驚いたご様子で私を見つめた。


 けれど、私に返事はなさらずにジルダへと視線を投げた。



「命令だ。アンに必ず報告しろ」


「…………了解しました」



 不服そうな声に思わず振り返るとジルダと目があう。



「……気をつけろよ」


「はい。ありがとうございました」



 ……たくさん助けてもらったのに、一緒に止められなくてごめんなさい。

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