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これは、どう表現すればよいのやら。
「うふふ〜」
「うふふ〜、じゃねぇよ。身体繋ぐのにどんだけ苦労したかわかってんのか?あ?」
「この度は誠にありがとうございましたぁ。痕も残さないでくださって本当、感謝してますぅ」
「んっとに癪にさわるなぁ、おい」
「さっきから、言葉遣いがわ・る・い・ぞっ!」
「は?」
「その反応!あたくし痛い子じゃない!」
「悪りぃな。俺には治せねーわ」
「ひっどーい!」
目の前で繰り広げられる応酬をぽかんとして聞いていたら、側にジルダが寄ってきた。
「アンさん、口開くと残念だろ」
残念……、残念というか、なんというか……。
「ねえ?何か言った?」
ガギャン、と不快な音がした。
にこやかに微笑むアン様が持つフォーク。それに刺さったリンゴーーと割れたお皿。
「何も!何も言ってないっす!!強いて言えばアンさんが美人だってらことぐらいっす!」
「ジルダ?リンゴになりたい?お皿になりたい?」
「ヒッ」
震えはじめたジルダを無視したアン様が、ぱっとこちらに視線を向けられた。
そのキラキラ輝くアイスブルーにじっと見つめられると、ドギマギしてしまって思わず目を彷徨わせてしまう。
とても失礼な行動を取ってる自覚はあります。でも、あまりに綺麗で直視なんてできません。
「あなたどなた?」
あぁ、そういえば自己紹介がまだでした。
頑張って視線を戻して息を吸う。
「私はーー」
「アン、いい加減に何があったか話せ」
あっ。
自己紹介も大切だけど、それよりも、マドラル隊長はずっとアン様のことを心配なさっていた。そちらを聞く方が最優先だわ!私ったらなんて気がきかないのかしーー、
ガスッ
と、音がした。
その前に、何かが鋭く飛んで行ったのを視界の端で捉えていた。
恐る恐る振り返れば、真っ白な壁とそこに深々と刺さったフォークが。
そして、無表情のマドラル隊長。
「……おい」
みは、はい!?」
「早く名乗れ」
「あ、はい!えっと、ルイーズ・ド・カナートと申します。陸軍から配属され、現在マドラル隊長の下で秘書官をやらせていただいております!」
慌てて向き直って言い切れば、アン様が微妙な表情をなさった。
え?なに、かしら。
「……陸軍?ということは、」
「ギル・ド・ロッド」
「うわぁ……」
ロッド少将?あの、なぜそんなにもお嫌そうな表情をなさるのかしら?
「あたくしもう関わらないと決めたの」
「もう遅い」
「いやよぉぉぉ」
両手で顔を覆い泣きはじめてしまったアン様に、どうしていいかわからずおろおろするしかない私。
「アン。カナートが戸惑っている」
「ごめんなさいね、気にしないでちょうだい」
さっと手を外したアン様の瞳は完全に乾いていた……。
「改めて、これから仲良くしましょうね。あたくしのことはアンとお呼びなさいな」
「はい」
めまぐるしく変わる方だけれど、とてもいい人そう。それに、お元気そうでよかった。
マドラル隊長のお声も、どこか安心なさっているような響きが混じっている。
和やかな雰囲気は私が感じた空軍隊そのものだった。
「……それで。誰にやられた」
けれど、マドラル隊長のその言葉に、今までの空気がぴきんと張り詰めた。
「……まず、《北の森》に近づいては駄目よ」
えっ。《北の森》?
それって、今ラファージュ副隊長が行っている場所、よね?近づいてはいけないって……。
「どういうことだ」
「あたくしはねーー、」
「隊長!魔人です!」
アン様のお言葉を遮りバターンッと激しい音を立てて扉があけられた。そしてそこには、肩で息をしたオーギュスタが血相を変えて立っていた。
「魔人にやられたのよ」
静かに続けられたアン様の言葉に、重苦しい沈黙が落ちた。




