プロローグ:隠れ家
あれから一日ほど経過し、彩夏は極東軍の第七基地付近にあるスラム街のような場所に来ていた。
機人も、ただ戦うために作られたわけではない。
中にはこうして生活できる機人もいる。しかしそれが出来るのは、電子頭脳に記憶を移植できるようになってから手術を受けた機人だけだ。
「おい、こんな場所でうろついてるとばらされるぜ?譲ちゃん」
食糧を売る店の店主が、心配しているのか、それとも別の目的で話しかけてきたのか、とにかく声をかけてきた。
だが、彩夏はそんな声すら耳に入ってこなかった。
しばらく歩くと、ボロボロの小屋がいくつも建っているエリアに到着した。店が立ち並ぶエリアのような喧騒は無く、静寂に包まれていた。
二分ほど歩き、扉に【252】と書かれた小屋の前に立つと、パーカーのポケットから鍵を取り出し、扉を開けて中に入った。
背中に背負っている、迷彩柄の特殊合金製のケースを壁に立て掛け、肩から掛けていた軍用のバッグを部屋の奥に置かれていた机の上に置くと、そのすぐ横にあったベッドで横になった。
◆◇◆◇◆
清水が丘公園から高速道路を音速の速さで走っていった彩夏は、まずNemesisの拠点へ向かった。
ゲートは破壊されており、そのまま中へ入ると、まずは敵の機人の死体が廊下を埋め尽くしていた。だが、生活エリアの方に向かうと、仲間の死体が見つかった。
ある者は胴体を真っ二つに斬り裂かれており、ある者は電磁砲弾で頭を吹っ飛ばされ、またある者はレーザーライフルの掃射で体に無数の穴が空いていた。
拠点に残っていた五人のうち、四人の死亡は確認できた。
【アレックス】、【ステラ】、【ライアン】、【メイ】。だが、【フレイ】の死体だけは、どこを探しても見つからなかった。
とりあえず自室に戻り、彩夏は八七式を迷彩柄のケースに分解して入れた。そしてクローゼットの中からバッグを取り出すと、机の引き出しに仕舞っておいた八七式の弾頭やマガジンを全て入れ、戦闘用食糧や水、日常生活で使っていたタッチパネル式の携帯端末、偽の身分証明証までバッグに詰め込んだ。
最後に、ベッドの下に隠しておいたレーザーハンドガンをパーカーの内側についているポケットの中に入れると、そのまま拠点を後にした。
◆◇◆◇◆
「ここからどうしようかな」
この隠れ家は、第四次世界大戦が終結した後、Nemesisが一時的に解散状態になった時に使っていたものだった。
だが、任務の合間に、仲間には内緒でここを掃除しに来ていたりもしたので、しばらくは生活できる。
ガスや水道、電気も引っ張ってある為、不自由はしない。
「とりあえず、武器商に会いに行くか」
死んだはずの父親が、敵に回っていた。そしてその仲間たちが、周りの仲間を皆殺しにした。
仇を討つ。その為には、大量の武器が必要だ。
そう考えた彩夏だが、ここで忘れていた脇腹の傷が痛みだした。
「その前に、これを治さないとね」
感覚遮断を使えるほど、体内に蓄えられている電力に余裕は無かった。
タンスの中から、救急箱と書かれている木箱を取り出し、その中から大きめのパッドと包帯を取り出した。
パッドを傷口に貼り付け、包帯を巻くと、眠気に襲われてきた。体内の電力の貯蓄が底を尽きている証拠だった。
とりあえず寝て回復しよう。
そう思った彩夏は、ベッドに横になり、深い眠りの世界へ誘われた。




