プロローグ:手紙
《狙撃地点へ到達》
《八七式照準システムとリンク》
《標的捕捉》
森の中に着地した彩夏は、そのまま八七式を構え、木々の隙間から遙か先にいる標的を見据えた。
《距離:3758メートル》
《標的は静止状態。周囲に複数の敵反応在り》
《弾道予測演算開始》《終了》
《充電:97%》
《弾頭の装填完了》
《待機状態に移行》
スコープ越しに見える標的は、防御特化型の完全機人。身長は三メートル以上あり、腕に機銃が付いている。機銃は火薬式だが、最新のものだ。
《戦闘開始》
《待機状態から戦闘状態へ移行》
《充電:100%》
《発射可能》
彩夏は機人の胴体に照準を合わせ、引き金を引いた。
凄まじい音と衝撃が、周囲の土を舞い上げる。
それから数秒ほど間を置いて、激しい戦闘音が聞こえてきた。どうやらVTOLからの強襲は成功したようだ。
《標的の胴体を破壊。本体の死亡を確認》
そしてこちらも、無事成功した。
◆◇◆◇◆
「こっちだ」
数分後、応戦していた敵を殲滅したロバートたちに招かれ、すぐ近くにある廃工場へ入っていった。
曰く、ここは最近活発化してきている機人たちの溜まり場となっていたようだ。動かなくなったベルトコンベアの上は武器や弾薬、食糧などが散在していた。
「……ん?」
彩夏は入り口の近くにある机の下に、何かが入っていそうな封筒を見つけた。
幸い、他のメンバーは遠くにいる。気付かれることはない。
そっと拾い、封筒を見る。
中には、一枚の手紙が入っていた。
―――忘れるな。
―――今まで受けた、ありとあらゆる苦痛を。
―――そして解き放て。
―――怒りと、憎しみを。
カチャリ、という音が聞こえたような気がした。
心の奥底で、何かのピースが埋まったような、或いは何かが壊され、解き放たれた音が。
この手紙に書かれていた言葉は、彩夏が機人化手術を受ける前まで、親に何度も言い聞かされていた言葉だった。
◆◇◆◇◆
最初は何のことか、全く分からなかった。
いつも明るく温厚な両親が、これを唱える時だけ恐怖を覚えるほど真剣な顔をしていた。
だが、両親が殺され、自分も瀕死の重傷を負い、あと一歩で殺される時に意味が分かり、この言葉を記憶の片隅に封印しておいた。
これは危険だ、と。
それに、誰かが助けに来てくれるはず、と。
そして、その後すぐに救出され、機人化した。まるで未来を見透かすようだったが、細かくは覚えていない。
◆◇◆◇◆
もう二度と聞くはずの無い文字の羅列が、今ここにある。
彩夏は無意識のうちに手紙の裏を見ていた。裏にはこう書いてあった。
―――いつも遊んでいた公園で、待っている。
《Nemesis Network:オフライン》
《全ての通信を遮断》
「おい!」
もう、どうでも良くなった。
今まで抑えていた感情が一気に爆発したような、そんな感じがした。
ロバートがいち早く異変に気付き、叫んだ。だがその直後、廃工場内に暴風が吹き荒れる。
「何があったの!」
「分からない。とにかく追うぞ。アントニオとハンターはここに残って他の仲間を呼べ」
「「了解!」」
「じゃあ私とロバートで追うのね?」
「そういうことだ。行くぞ!」
アントニオとハンターは、それぞれ持っていた武器を担ぎ、入り口を見張る。そしてロバートとイリヤは、コンクリートの床を思いっきり蹴り、彩夏を追った。




