光速を求める敵:水銀の狼
「何者だ」
ロバートの声に殺気が含まれているのを、イリヤは感じ取った。
「……私のコードネームは、サタンだ」
水銀を纏った機人は、そう答えた。
「JOKERだな」
「そうだ。お前たちは、Nemesisに所属するロバートとイリヤで、間違いないな?」
「そうだと言ったら?」
瞬間、ロバートは掌を展開させた。ほぼ無音で放たれたレーザーは、サタンが放った水銀の針を見事に消滅させた。
「手荒い歓迎だな」
サタンは両腕を剣のように鋭い形に変えると、凄まじい勢いで突進してきた。その切っ先は極音速すら超え、轟音を撒き散らしながらロバートに迫った。
速度特化型ですら認識できるかどうかの速度の攻撃に、思わずロバートは動きを止めてしまった。
バァンッ!という破裂音。薄暗い廊下に、夥しい量の血液が四散した。
突然の出来事に、イリヤの動きも止まった。
致命的な隙だった。
ザクッ、という音がした。イリヤの首は、水銀の刃によって綺麗に両断されていた。
◆◇◆◇◆
「こちらサタン。二人は仕留めた。とんだ雑魚だった」
水銀に覆われたサタンは、薄暗い廊下に散らばるイリヤの首やロバートの肉片などを見ながら言った。
「了解だ。そろそろ戻ってこい。客人を歓迎する」
サタンは無線を切ると、音もなく廊下から去った。