表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
全てが終結したこの世界で  作者: 兎鈴
0章 プロローグ
1/16

プロローグ:狙撃手の少女

 廃墟と化したとあるビル。コンクリートで出来た壁には蔦が絡み、苔が覆っている。

 その最上階。一フロアが丸ごと住居となっている部屋の中に、一人の少女が体育座りをしていた。

 背は一六〇センチほどで、白いパーカーに、グレーのズボンを履いていた。靴は軍用のブーツで、側面のポケットには二本のナイフが収まっている。


 私は何をしてるのだろう。

 ……あぁ、休憩してるとこだったな。


 そんなことを思い、口元に微かな笑みを浮かべた。

 立ち上がると、壁に立て掛けてある巨大なライフルを持ちながら少女は外の様子を見た。

 窓の外に広がるのは、至る所が焦げ落ちた道路と廃墟と化したビル群。上空を旋回する、目的を失ってただ墜落するのを待つUAV。そして、敵を求めて彷徨う、元々人間だった、人体の半分以上を改造された殺戮兵器【機人】。


 この光景もそろそろ見飽きた。

 とりあえず手始めに、私を追ってる機人を仕留めよう。


 ガシャ!という音がした。少女は巨大なライフルを、まるで重さを感じさせない手馴れた動作で構える。

 電磁加速式セミオートマチックスナイパーライフル【八七式電磁狙撃銃改】。装弾数は五発。有効射程距離は四キロ。

 スコープを覗く。十字のレティクルが、標的となる機人の頭部と重なる。


《距離:2570メートル》

《標的は南東に秒速三メートル毎秒で飛行中》

《弾道予測演算開始》《終了》

《充電:100%》

《弾頭の装填完了》

《発射可能》


 視界に青白い文字が浮かび上がる。

 少女は金属製の冷たいトリガーに指をかけた。

 そして、躊躇いもなく、トリガーを引いた。

 ドォォォン!!

 凄まじい轟音が辺りに響き渡る。ビルの鉄骨が悲鳴を上げる。強烈な反動があったが、この程度なら全く問題はない。


《標的の頭部を破壊。撃墜に成功》

《任務完了》


 視界に浮かび上がった文字を見て、安堵の溜息をついた少女は、静かにライフルを下ろす。


◆◇◆◇◆


 彼女の名前は、紅咲彩夏(こうさき あやか)

 見た目は人間と全く変わらないが、彼女もれっきとした【機人】である。

 速度特化型(体内に武装を持たず、凄まじい速さでの移動・攻撃に特化した機人)である彼女だが、持っている武器は狙撃砲と、機人の中ではかなり珍しい組み合わせだ。


 二一〇三年現在、地球上は機人によって占領されている。

 第四次世界大戦で生き残った一億人に満たない人間たちは地下へ潜り、一部のお偉方が機人を操り、戦争が終結した現在も生温く果てしない殺し合いを続けさせている。

 彼女とその仲間たちも例外ではない。地下に潜っている人間が次々と指令を送り続け、それを隊員たちが淡々とこなしていく。

 極東軍第二十一師団に属する、対機人特殊暗殺部隊【Nemesis】。隊員は紅咲彩夏を含めて十人。全員が、極東軍の中でもトップクラスの腕前を誇る機人だ。

 仲間たちは、それぞれが別の目的を持って機人化手術を受けた。だが、彼女だけはそこまで重い理由ではなかった。


―――致命傷を負って、仕方なく機人化したんだ。


 違う。本当は、人間も機人も、世界すらも滅ぼすこと。それが目的だった。

 生温い殺し合いに、終止符を打つために。

 こんな世界にした人間に、罪を償わせるために。

 人間として生まれてきた自分を、滅ぼすために。

 だが、それは表に出してはいけない。

 本当の目的は、心の奥底で、静かに燃える殺意と共に沈めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ