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Silent rain  作者: 眉クマ
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王子アレクセイ



光りがちかちかと輝いている。

アレクセイは、ふと目を覚ました。

どうしてだろう______体中が痛い。

辺りを見渡すとそれもそのはず、僕は地面で眠っていたからだ。

(地面で眠ったの・・・初めてだ)

地面で眠ると体が痛くなるんだ。

いつもはふかふかの絹のベットで眠っているからそんなこと考えもしなかった。

(けれどもどうして僕は、こんなところで眠っているのだろう)

何故かしらと首を傾げていると後ろから声がかけられた。


「起きたか、坊主」


老人のようなそれでいて獣が吠えるような醜い声が聞こえた。振り向くと獣の皮とマントを被った男が座っていた。

驚いき茫然としているアレクセイに男は、兎を投げた。


「食え」


ばたりと兎が力なくこちらを見つめている____アレクセイは、悲鳴を上げた。

どうやら兎の死因は、首を切られての出血死だろう。

______一体どうやって食べればいいのかしら。

可愛らしいつぶらな瞳がアレクセイを見つめているし、兎を撫でてみるとまだ毛並は暖かく、少し気分が悪くなった。

「どうして、僕は・・・ここにいるの?・・・・あなたは誰?」

朝ご飯は諦め、アレクセイは男に聞いた。ただ、質問しただけなのに男は、何故か苛々としていた。

汚いマントを深く被っていて、表情は分からないがそれだけは伝わってくる。


「俺は、レイン。王妃に頼まれてあんたの護衛をすることになった」


「母上は・・・・?」


問うも男はそれきり話そうとはしなかった。

アレクセイは、震える体をどうしても抑えられなかった。

数人の兵士たち_____掲げられた武器______泣く母上。


(だから、早く逃げようと言ったのに)


母上は、僕よりあの殻の黄金色の王座が大事だった。だから、追手が来る前に一緒に逃げては下さらなかった。


(母上は・・・いつもそうだった)



「アレクセイ、いいですね・・・貴方は王になるのです」


貴方は王になるのです_______それが母の願いでもあり、全ての望みだった。


(僕は、王になんかなれないよ)


蹲ってアレクセイは、涙を流した。


母を失ったのだ。


少年にとって全てだった母を。

そんな少年を横目に、男はふんと鼻で笑った。


「さっさと出発するぞ、追手がくる」


馬に鞍を付けながら、冷たく自分を扱う男が信じられなくてアレクセイは目を見はった。


「なんだ・・・?慰めて欲しいのか。なら、金貨をよこせ」


金貨?______どうして金貨が欲しいのだろう。

首を傾げながら、ポケットを探るが当たり前だが何も出てこない。ポケットには、王家の紋章が入ったペンダントがあるだけだ。

残念だったなと男が言った。

アレクセイは、急に体を引っ張られ無理やり馬の背に乗せられた。


(_____!!)


後から男も馬の背に乗ったが恐ろしいことに男から魚の腸が腐ったような匂いがした。外の者は、皆そのような匂いがするのかしら。心の中で首を傾げるがどの本にも載っていなかったし・・・誰も教えてくれなかった。


「外の世界は狂気に満ちていて危険なのです」


母上は、よくそう言っていたけれども・・・・・アレクセイの胸の中に不安という波が押し寄せてきた。男が馬の脇を蹴り走り出した_____それから、アレクセイは馬の足音と大地を蹴る振動を感じるしか出来ず、馬に必死でしがみ付いていたせいで何も考えることは出来なかった。

小さな村に着くころには、アレクセイは立っていられないぐらい疲れ切ってしまっていた。


「馬を休めるためだ・・・納屋を貸してくれ」


村の長と思われる老人が不審そうに男を見た。男は、不機嫌そうに懐から見事な大きな真珠を取り出すと老人の手に持たせた。


「本物だ。これでいいだろ?」


男がそう言うと老人は、ゆっくりとした足取りで馬小屋へと案内した。

馬小屋は、綺麗に藁が敷かれていた。年老いた馬が一頭いるだけで、他に馬は一頭もいない。


「今日は、ここに泊まる」


ずかずかと男が一緒に馬と小屋に入っていく。

(ここに泊まる?)

始め聞いた時は、空耳かと思ったが男は、馬を縛るとと近くの藁置場でごろりと寝転がった。

(・・・・・足、痛い)

直ぐにでも寝転がってしまいたい。しかし、アレクセイは藁の上などに座ったことがない。もしかすると藁さえも見たことがないのに・・・・品が無いと叱る者はいないが、何故だか気が咎める。

しかし、痛む足には適わなかった。アレクセイは、端の方へと膝を抱えて座った。

(お腹が空いた)

そんなことを考えていると、同じくらいの年の少女が木のお椀に入ったスープを持ってきてくれた。服は煤け、頬が泥で汚れていたが少女はとても可愛らしくアレクセイは、やっと息をついた。

同時に男の恐ろしい程の臭いが自分も同じ匂いがしているのではないかと気になった。

アレクセイが不安げに微笑むと少女は、頬を赤らめアレクセイを見つめ返した。よかった大丈夫みたい。

少女は、スープの他に薄汚れた農民の服を持ってきていた。ぞっとして男を見やると案の定この服を着ろというのだ。

(・・・・・こんな服着たことない)

自分が来ている絹と違って肌触りはまるで今朝眠っていた地面のように固かった。アレクセイは、男に首を振って拒否をしたが、返事の代わりに冷たい笑い声が帰って来た。


「お前の勝手だ。この服が着れないっていうのなら、ここでお前を置いていく」


母上に頼まれたということは、それなりの褒美をとらせたに違いない。あの真珠だって褒美の一部なのだろう・・・・悔しくて、アレクセイは唇を噛んだ。

(なんて、汚い男なのだ)

男は、さっさと寝てしまったがアレクセイはゆっくりとスープを飲みながら様々な考えを巡らせていた。

(この男は、僕の護衛だと言っていた・・・・)

しかし、護衛と言っても正式な騎士ではないだろう。騎士は、家柄も良く知性もなければならない。男は、粗野でとても乱暴だ。きっと、盗賊か何かなのだろう。

この男は、言葉通りアレクセイが従わないのなら無情にもここに置き捨てるぐらいのことは出来るだろう。今は___今は、男の言葉に従うしかない。幼い自分は、何も出来ない。その現実の歯がゆさに目の前が涙で滲むのを感じた。

しかし、どうしてもこの男の前では涙を流すものかと唇を強く噛んで堪えた。


「可愛い、可愛い私の息子・・・アレクセイ。どうか、お前だけは・・・・」


いつも気丈な母の最期の顔を思い出す。

(母上・・・・)

この男に従おう___そして、必ず王になり_____自分に最後の望みをかけた母の無念を晴らさなければならない。

(今は我慢をして・・・この男と一緒にいて、安全な場所についたら逃げ出そう)

誰か味方になってくれる人がいるはずだ。

藁草にそっと寝ころぶ____絹とまではいかないが地面より・・・昨日よりかはもっと良かった。




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