銀のナイフ
そこには、目を奪われるほどの美しい銀色のナイフがあった。
真珠のような輝きを放つナイフ____
王妃は、その銀のナイフを恐々と手を近づけた。銀のナイフは、まるで氷のように冷たかった。思わず手を一度引っこめたが意を決してしっかりと小さな美しいナイフを取った。
するとどうだろう、魚の腸の匂いのような酷い腐った匂いが急にぷんと部屋に香った。
_______そして、ふっと声が聞こえてきた。
あの時、落とした・・・・
わたしの銀色のナイフ__________
返して、
返して頂戴。
女の声だった。まるで歌うように、悲しそうに言葉を繰り返す。
王妃は、銀のナイフを握りしめた。
「呪いを解きたいのでしょう。チャンスをあげます」
(あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ_______________)
獣の悲鳴のような声が響く。
「私を助ければ___呪いを解いてあげましょう」
ぴちゃり、ぴちゃりと何かが歩くような音が聞こえた。王妃は、音のする方へ眼を向けるが闇が広がっているだけだった。
暫くして老人の様な、酷く掠れた声が返ってきた。
________いいだろう、条件は?
「_____王子の命を守るのです」
_______王子?
闇が首を傾げた。
「アレクセイ王子___王と王妃の子供です」
淡々と狩人が答えた。
_______子供・・・?・・・王の・・・・
影が、声が急に困惑した音色を持った。
さぁと狩人が闇に手を翳す。
「契約は成された_____魔法使いオーエンの元で」
(待て、オーエン。俺は・・・)
闇が魔法使いの元へ手を伸ばそうとした時、抗えない光が闇を襲い無理やり形を作った。
「あぁ、畜生」
気がつけば懐かしい海岸にいた。禁じられていて近づくことさえも出来なかった懐かしい潮の香り、べたべたと張り付く霧がかかる森とは大違いだ。
崖の上に作られた石造りの城を見上げた______あの王妃は死んだだろうか。
波が満ち引きしている。
雲は、晴れ______空には満月が掛っている。あの時と同じ
(______あの人を助けたあの時と)
_____影が、女が呟く。
「黙れ、忌々しい」
怒鳴ると影が怯えたように啜り泣き始めた。全く、全くもって忌々しい。
悪態をつきながら立ち上がり、辺りを見渡すと流木ではない・・・・誰かが倒れているようだ。
____近づいてみると少年が倒れていた。
そっと屈み顔にかかっていた栗色の癖のある髪を払ってやる。
あぁ、知っているこの顔_______
笑みを浮かべ、腰に刺してある愛着のある短剣に手を伸ばした。
(愛しい、愛しい王子様・・・どうして、どうして)
啜り泣きながら影が、女がなおも呟く。
短剣を眠る少年に構えて____________そして・・・・
(レイン、銀のナイフでなければならない)
無駄なことをするのじゃないよと波がそっと諭した。
(大人しく、魔法使いのいう事をお聞き)
優しく潮風も諭す。
何処からともなく聞こえてきた優しい声は、レインと己を呼んだ。レインは、目を細めて優しい声のする海の向こうを見つめていた。
「わかっている」
渋々と短剣を仕舞いぽつりとレインは頷く。すると、丁度こちらへ走ってくる一頭の馬がいた。
(オーエンの奴)
「森へ行くしかないのか」
忌々しくレインは呟いた。