第二章、 決心4
卸本町の蜃気楼オリジナル文章
http://blogs.yahoo.co.jp/kome125/folder/1515222.html
食べ終えた4人は、雑談をしていた。
そして..。
細面の女性が、「あなたの名前、正式に聞いてなかったわね」。
春菜、「中川 春菜です。春先の春に、菜の花の菜です。25才です。
直ぐ近くの、あ..いえ、北の方の水窪から出て来ました」。
背の高い女性、「春菜..」と、答えて思いに更けた。
メガネを掛けた女性が、「それで、ここで見るもの全てが、珍しいのね。
私の名前は、大倉 洋子。恋人募集中の25歳です。
生まれも育ちも浜松で、元浜町の自宅に住んでいます」。
続いて、細面の女性が、「名前は、渡瀬 圭子。私の生まれは東京の世田谷で、
小学校6年生の時に、親の仕事の都合で、浜松の助信町に、引っ越して来ました。
最初は寂しくて、東京に帰りたいと、いつも親に泣きついていたけど、
すっかり地元のお祭りに馴染んで、今はお祭り好きな、25才の私も恋人募集中です」。
春菜はその時、自分の地元だけにクスクス笑った。
実は春菜は、ここの近くの、白羽町に自宅が在る。
それを見た、感の良い圭子が、「ねえ..、あなた本当に実家は、水窪の山の中なの?」。
春菜は、本当の事を言ってしまうと、怖がられるので咄嗟に、「は..はい、
バス乗り継いで、浜松まで遣ってきました。凄く遠かったけど...」。
何だか納得行かない、様子の圭子だったが、取り合えず頷いた。
すると背の高い女性が、「何だか、さっきからあいまいな経緯ね。
自宅が水窪で、東京で働いていて、自販機からコーラ引き抜いて、
喜んでいるなんて。もしかして本当に、宇宙から遣ってきたのでは無いの?
まあそれは置いといて、大槻 良子、25歳。
3年前に東京から、ここ浜松に流れて来たの。
田舎は青森で、訳遭ってね..」。
すると春菜の顔が、切なくなって行った。
それを見た良子は、何となくその言えない訳が、伝わった様に感じたのだった。
雑談も一段落、精算をしようと、割り勘でお金を出し合っていた、
先輩三人に対し春菜は、「私、お近づきの示しに今日、皆さんおごりますから..」。
そう言って、お金を出そうとしたら、先輩達は手を振り、「いいわよ」。
あっさり断られ、良子が、「あんた、田舎から出てきたばかりで、お金あまり無いのでしょ」。
圭子、「今日は、私達がおごるから..」。
洋子、「あんた、誰かと違って、まじめそうだから、会社慣れて来て給料出たら、
おごって貰うかから、ここ一ヶ月、直子が失踪してから、仕事が増えて困っていたのよ」。
圭子、「会社の軸になって貰いたいから、頼むわね..」。
春菜は目が潤んだ、今まで就職して、こんな厚い歓迎は、された事が無かったからだった。
春菜は、「有難うございます。お役に立てられる様、がんばります」と、深々頭を下げた。
それを見た先輩三人は、微笑んだのであった。
時間も過ぎて、お昼休みも僅かになり、店を出た四人は会社に戻って行った。
春菜のスカートのポケットには300万。
もう片方のポケットには、ビンのドリンク。
この子の価値観は、今どうなっているのだろうか?。
コーラの蓋の部分だけが、スカートのポケットから、
露出しているのを見た洋子が、「あんた、何だかナウイじゃない!」。
春菜、「な..ナウイ?」。
圭子が、「ジーパンならねぇ~」と、言って笑った。
良子が、「飲まないの?」。
そう問いかけると、「あ..あのぉ~、ビン抜きたかっただけなので..」。
春菜は、引き抜き式自販機から、ドリンクを抜き取りたいだけで、
別にドリンクを、飲みたい訳でも無かった。
圭子、「本当に変わった子ね..」。
呆れたのであった。
会社に帰ると、まだ僅かながら、昼休み時間が残る社内では、
やはり社員同士、雑談に華が咲いていた。
春菜と良子は、自分のデスクに着くと、
春菜はポケットの中のドリンクを出して、デスクに置いた。
圭子と洋子が、二人のデスクの前に遣って来た。
すると洋子が、「ねぇこの間、失踪したヨコシマ直子の私物の中に、何が有ったのよ?」。
圭子、「あんた本当に欲の皮、突っ張てるんだから..」。
洋子、「だって、会社では相当お騒がせで、死のうが生きて様が、
その代償として、貰ったっていいじゃない#、勝手に居なくなったんだから、
荷物もそのままで。大方借金まみれで、一緒に失踪した田口君そそのかして、
今頃、大阪か東京辺りのキャバレーで、働いているんじゃないの#?」。
実は、良子は会社が所有している寮で、1ヶ月前に失踪した、
小島 直子と言う、会社では相当派手に、遣らかしている女性と同居していた。
男好きで、男性社員からの借金も有り、女性社員からは、相当嫌われている存在であった。
ヨコシマ直子とはあだ名で、小島とヨコシマを掛けて、そう呼ばれていた。
それとこの当時、歌にも有る様に、『横浜の港の女は、派手好き』の、印象もあり、
横浜とヨコシマも掛かって、そう呼ばれていた。
良子、「そうは言っても、人の物だから、死亡確認でも何でも、
所在確認されるか、来年戻って来ない様なら、
何らかの処分を考えるから..」。
圭子、「幾らどうしようも無い女でも、そのくらいの情けは、掛けて上げてもいいでしょう」。
洋子、「そうね..もう1ヶ月半もすれば、今年も終わるから..」。
そんな話をしていると、一人の女性社員が来て、「ねぇ、カラーテレビ買った人居る?」。
洋子、「カラーテレビ?。今年の12月から放送する、専用のテレビ受像機?」。
女性社員、「そうよ!」。
洋子は首を振った。
良子が、「それ、かなり高い値段でしょ?、買えやしないわよ、私達の安月給では..」。
すると春菜は、またクスクス笑い出した。
春菜は、自分が居た時代でも、会社ではデジタル放送対応テレビに、
するかしないかで、物議を交わしていたからだった。
その姿を見ていた洋子が、春菜に、「なぁ~に、笑ってるのよぉ~」と、
笑いながら、春菜の肩を押した。
座りながら肩を押された事で、体が斜めになり、ポケットの現生が飛び出そうになったので、
必死に抑えて体制を戻したら、反動で逆のポケットから、財布がポロリと床に落ちた。
それを、圭子が拾った。
運が悪い事に、財布のジッパーを、閉め忘れていた春菜の財布は、
中の物が全部出てしまった。
クレジットカードや、サービス券、免許証も床に散らばってしまった。
それをかき集めて、拾った洋子は、免許証を開いた。
洋子、「中川 春菜。昭和59年 3月8日生まれ..」。
皆さん呆然としていた。
洋子、「どう言う事なの?」。
春菜、涙ながら、「訳を話します」。
この物語はフィクションであり、登場する人物、建物などは実際には存在しません。




