第十五章、絆6
卸本町の蜃気楼オリジナル文章
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皆このフロアーのベンチに座り、
洋子と圭子は先ほど、春菜が割ったビンを片付けた。
春菜もベンチに座り、俯いて、「ごめんなさい、衝動に駆られたの..」。
年老いた良子が、隣に座り、「春菜は、今日の日付の2009年11月15日から、
40年前にタイムトラベルして、約1ヶ月半、時間旅行をして来たの、
そして同じ日に戻って来た」。
洋子、「見張っていたのだけど、掛け付けるのが遅かった。
何しろあの会社と今まで、何度も喧嘩した我々は、
出入り禁止を命じられたからね。
地下室の物置は、ほんの一瞬で閉じたらしいわね、
春菜が会社を出て来るのを見かけて、慌てて会社に乗り込んで、
地下室の物置を、覗いたけど後の祭りよ!」。
圭子、「そうなると思った!。
春菜が会社から突然消えてから、何度も私達は物置に足を運んだけど、
結局40年間、未来と過去を繋ぐ道は閉ざされた」。
良子、「これで春菜は、私達を知っている事になるの」。
春菜、「知っている事になる?。
じゃあ今まで良子さんは、私の側に居たの?」。
良子、「そうよ!、春菜が赤ん坊の頃から、ずっと側に居たは..」。
春菜は急に泣き出し、「迎えに来るの、もっと早くても良かった!」。
良子、「説明が付かないでしょ!、春菜がこの旅行を済ませなければ、
説明のしようがないの..」。
春菜、「そんな事無い、私を抱いてくれれば、必ず理解出来たはずよ!」。
洋子、「それとね、あんたはあまりに、甘やかされて育てられたから、
試練を与えないと、これから先の人生の強さを、身に着けられないから、
誰も声を掛けなかったの」。
春菜、「ま..まさか、私の実家の土地を、与えたのは良子さん..?。
待って、パパは?、パパは何処?」。
その時、皆んなの表情が沈んだ。
良子、「夫は2年前に、ガンで亡くなったのよ、
最後に春菜によろしくと言い残して..」。
春菜は表情が重くなり、「へ..」と、答えた。
良子、「私は春菜が居なくなってから、あの寮を出て、
賢と一緒に暮らしを再開させたの、
それから夫は、設計士の資格を取得して、
私が強く願った様に、大きな家を建てて、長男長女に恵まれ、
好景気を迎えて、波に乗ったの。
真っ先に貯めた財産を、土地購入に費やし、春菜が今住んでいる土地を購入したの。
市内中の知り合いの不動産に、丁度春菜が生まれた頃、
昭和59年の春先に、『中川と言う夫婦が、赤ん坊を抱いて訪れたら、
真っ先に知らせて欲しい』と、頼んで置いたの。
そうしたら、その年の五月に、街外れの小さな不動産から日曜、『中川と言う若夫婦が、
赤ん坊を抱いて尋ねて来たよ、土地物件を探してる』と、連絡が入ったの、
私は、『引き止めて置いてくれ』と言って、急いでその不動産に出向いたの。
すると若夫婦が、椅子に座って子供をあやしてた。
主人も一緒に来たので、その夫婦に私達の買った土地を、譲る相談をしたの。
私と若夫婦はテーブルを挟んで、ソファーに座り、私にその赤ん坊を抱かせてくれたの」。
春菜、「それが私..」。
良子、「そうよ、まるで他人の子では無い感覚に襲われ、
涙が込み上げたの、主人もその子を抱いてあやしていたの。
私が不意に、『子のこのお名前は?』と聞くと、
その子の母親は、『菜の花が香る頃に生まれた子なので、
春菜と付けました』と、答えたの。
涙が溢れて止まらなかったわ..」。
春菜、「あの遊具、良子さんが買ってくれた物なのね..」。
良子、「それから、その夫婦は私達の土地を譲り受け、
買ってくれたお礼にと、遊具を進呈したのよ..、
下ろした子供の唯一の罪滅ぼしに..」。
春菜、「下ろしてなんか無いよ、育ててくれたじゃない。
少なくとも私を強くさせた」。首を振り、「うんうん、私に試練を与え、
その試練の意味を、教えてくれたのは、お母さんあなただと思う。
きっとお母さんは、小さい頃から私を見ていた。
でも、私に試練が来る事を知っていながら、見守るだけだった。
それは母の最高の愛情で、生きる力を与えて上げたいからだった。
結局伝が有れ、仕事に有り付けても、精神的なものや、
就職してからその後は、自力でこなさなければ、道は切り開く事が出来ないの。
それを教えたかったから、手助けをしなかった」。
すると拍手が沸いた。
洋子、「今死に掛けたけど、これで安心しただろ!、実は一人では無かったと」。
圭子、「要約遅れてる人間が、この時代の若者の辛さが、実感出来たわよ!」。
節子、「未来は相当世知辛くて、物騒だと聞いたけど、今その真っ只中に居るわよ」。
里美、「レーザー光線目に当てるなんて、恐ろしくて怯えたけど、
結局去年、白内障の手術で、レーザー目に食らわされたわよ」。
小幡、「液晶画面の16:9夢のテレビを、先月買ったよ!。
40年前に聞いた時は、実感湧かなかったけど綺麗だよ」。
小野、「テレビが付いていて、写真撮影が出来て、電子メールが出来て、
買い物が出来て、何でも有りのこれ、
今もって電話掛ける位しか、使ってないよ」と、携帯を見せた。
杉浦、「随分オジサンになっちゃったな、面目ない」。
春菜は微笑んで、「そんな事無いよ、言ったでしょ、
何時までも私の、心の友で居て欲しいと」。
すると杉浦の、横に座っていた、60歳前後女性が、「ごめんなさいね、
夫が40年待てなくて、私と結婚してしまったの」。
春菜、「いえ私こそ、杉浦君から素敵な時間を頂いて、感謝しています」。
春菜はその時、何かを思い出した。
そして春菜は、「あ~!、私が幼い頃、父と山に行って星を見ていたら、
隣で望遠鏡覗いてる人が居て、私が、『今日は何だか空が霞んで、
星が見えないよ』って言ったら、その人、『今日は大気が汚れて見辛いね』って、
話掛けて来た人だ!」。
皆なは大笑いで、杉浦、「ばれたか、アハハハハハ!」。
春菜、「あの夜、何処かで聞いたフレーズだと思った」。
杉浦の妻、「今度一緒に、星を見に出かけたら?」。
杉浦、「こんなオジサンで良ければ、喜んで」。
春菜、「私こそ天体観測の、良きパートナーに成れれば、喜んで」と、
杉浦の息子もすでに、成人を向かえて、杉浦夫婦も老後に入っていた。
なので今日から恋愛の域を超えて、本当の意味で、心の繋がりを持った二人であった
この物語はフィクションであり、登場する人物、建物などは実際には存在しません。




