第十五章、絆5
卸本町の蜃気楼オリジナル文章
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食事を終えたこの仲間は、電気屋の前を通り掛かった。
なにやら賑やかで店員は皆、電気屋の店名が入っているハッピを着て、
声を上げてセールをしていた。
洋子が声を上げていた店員に尋ねた。
洋子、「今日は何が安いの?」。
店員、「何でも三割引です。
それとお買い上げのお客様には、くじを引いて貰い、
当たればトランジスタラジオを、進呈いたします」と、頭を下げた。
洋子は小声で、「それはともかく、携帯電話見つからないの?」と、聞くと、
店員は、「さ~?、店主に聞いても、『質屋のおやじさんから、
そんな物を預かった覚えが無い』と、言うんですが..」。
洋子、「この子が、この時代に現れて間も無く、
仕事の合間に春菜連れて、質屋に乗り込もうと行ったら休みで、
それから店が開かないのよ!」。
圭子、「そりゃ~そうでしょ!、今頃ハワイで女の子に囲まれてるわよ!。
携帯売って、優雅な老後の生活を送ってるに、決まってるでしょ!」。
洋子は激怒して、「悔しい#!」。
そして春菜を睨んで、拳を振り上げた。
春菜の頭を防御する良子と圭子、両手で春菜の頭を覆った。
その時、良子と圭子は同時に、「止めなさいよ#!」。
店員が、「ま..まぁ、皆さん穏やかに」と、なだめて、
店員がズボンのポケットから、飴を出して、「詰まらない物ですが、
お一つどうぞ!」と、飴を配った。
その場で飴をなめながら、四人は会社に戻ったのだった。
午後の仕事が始まると、社員は又、仕事に追われていた。
仕事も落ち着き、午後も2時半を回る頃、春菜は自分のデスクで眠くなる。
何となく瞼が下がるので、仕方なく地下室に行き、
少しの合間、昼寝をしようと思い、地下室に向かった。
地下室には誰も居なかったので、丸椅子に座り目を瞑った。
数時間の時が、流れた様に感じた春菜だった。
目を覚ますと、ラジオだけが鳴っていた。
誰も居ない社内と、目新しい機器が目に入った。
そして精神安定剤の袋。
春菜は虚ろな眼差しで、その袋を見詰めて、「睡眠薬と間違えちゃった..」。
持って来た袋の中身を間違えて、持って来てしまったのだった。
春菜は思いに更けた。
そして泣き出し、自分が見た幻覚を悔いるのであった。
だが幻覚の中で、自分を見つめ直した事を思い出し、
強く生き様と、心に決めたのであった。
一人デスクに座り、幻覚に出て来た、彼女達を思い出していた。
楽しかった思い出が頭を過ぎると、恋人が愛しく感じて切なさが増した。
だが睡眠薬や、精神安定剤の大量服用と、飲酒なども絡み、
度々幻覚を見ていた春菜は、心の中で悔いを、ねじ伏せるのであった。
だが何故か涙が止まらない。
上を向き、「強く生きないといけないの..」と、呟いて自分に言い聞かせると、
良子の顔が目に浮かんだ。
前世の母が、現実の様に感じたからだった。
そして時間だけが流れて行った。
午後の5時を回る頃、社員達が帰って来て、今日の仕事の書類を軽く整理して。
春菜もプリンンターから、集計を出して仕事を終えたのであった。
一人歩く卸本町、風は幻覚を見ていた時代よりも暖かく、
それが何故か切なかった。
寂れ掛けのこの町は、あの幻覚の時代の遺跡の様に、
栄えてた時代の歴史上の、古びた建造物の様に、
今はテナント募集の張り紙だけが、色あせていた。
この町を歩くと電気屋だった店は、呉服の問屋だった。
角を曲がり、美味しいオムライスを食べた店は、
中古のパチンコ台を、売っている店だった。
幻覚の思い出は、心の中に一つ一つ刻まれて行くと、
この町の香りだけは、現実の物だった。
幻覚で見た店と、現実の店とを照らし合わせ、切なさが増して行った。
その時急に幻覚の世界へ、もう一度飛び込みたくなった。
強い自分になる事を誓ったが、もう現実には戻れない自分が居た。
春菜は独り言で、「待っていてお母さん、そして杉浦君、
私はもう幻覚の世界でしか、自分が活躍する場が無いの、
さようなら、現世のお母さん、そしてお父さん、
私は自分を生かしてくれる世界に旅立つの」。
そう行って、スカートのポケットから、
間違えて睡眠薬を入れた袋を出して、カプセルを手に取った。
カプセルを握り締めて町を歩く春菜は、この町の中心部に在るビルを目指した。
そこは誰でも気軽に入れる、飲食店が入っているテナントであった。
春菜は1階のロビーに設置して有った、
ジュース自動販売機で、ビンのジュースを買った。
ロビーには誰も居ない、店はもう閉店していた。
カプセルを口に入れ、ビンのジュースを一気に飲み干すと、
床にビンを落とし、割れてとがった、鋭利になった部分を見詰め、
それを拾い上げて、「これで永遠に、幻の世界へ行ける」と、呟いて、
このフロアーの、トイレに行こうとした時だった。
ふと後ろから、誰かが抱きついた。
それはとても懐かしい感覚、そして香り、
春菜は、「お母さん..」と、呟いたのであった。
良子、「幻覚では無いわよ、現実よ..」。
良子は春菜を放して、春菜は振り向いた。
すると年の頃は、60歳位の中年女性が佇んでいた。
春菜は驚いて、「本当なのね!、私は今まで、現実の世界を生きて来たのね!」。
良子、「時間旅行は楽しかった?」。
春菜は万感の想いで、良子に抱き付いたのであった。
すると大勢の人達が、このフロアーに続々と入って来た。
その人達は、春菜がタイムトリップした時の、
会社の社員の40年後の姿だった。
そこには、年を取った洋子と圭子もそして、杉浦の姿もあった。
皆なが一斉に、「お帰り春菜..」と、答えてくれた。
春菜は徐に、自分のポケットから財布を取り出すと、お札を確認した。
それは聖徳太子であった。
そして先ほど飲んだ、睡眠薬を確認すると、間違いなく精神安定剤であった。
春菜、「どう言う事..」と、呟いたのであった。
この物語はフィクションであり、登場する人物、建物などは実際には存在しません。




