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第十五章、絆5

卸本町の蜃気楼オリジナル文章

http://blogs.yahoo.co.jp/kome125/folder/1515222.html


食事を終えたこの仲間は、電気屋の前を通り掛かった。



なにやら賑やかで店員は皆、電気屋の店名が入っているハッピを着て、



声を上げてセールをしていた。



洋子が声を上げていた店員に尋ねた。



洋子、「今日は何が安いの?」。



店員、「何でも三割引です。



それとお買い上げのお客様には、くじを引いて貰い、



当たればトランジスタラジオを、進呈いたします」と、頭を下げた。



洋子は小声で、「それはともかく、携帯電話見つからないの?」と、聞くと、



店員は、「さ~?、店主に聞いても、『質屋のおやじさんから、



そんな物を預かった覚えが無い』と、言うんですが..」。



洋子、「この子が、この時代に現れて間も無く、



仕事の合間に春菜連れて、質屋に乗り込もうと行ったら休みで、



それから店が開かないのよ!」。



圭子、「そりゃ~そうでしょ!、今頃ハワイで女の子に囲まれてるわよ!。



携帯売って、優雅な老後の生活を送ってるに、決まってるでしょ!」。



洋子は激怒して、「悔しい#!」。



そして春菜を睨んで、拳を振り上げた。



春菜の頭を防御する良子と圭子、両手で春菜の頭を覆った。



その時、良子と圭子は同時に、「止めなさいよ#!」。



店員が、「ま..まぁ、皆さん穏やかに」と、なだめて、



店員がズボンのポケットから、飴を出して、「詰まらない物ですが、



お一つどうぞ!」と、飴を配った。



その場で飴をなめながら、四人は会社に戻ったのだった。



午後の仕事が始まると、社員は又、仕事に追われていた。



仕事も落ち着き、午後も2時半を回る頃、春菜は自分のデスクで眠くなる。



何となく瞼が下がるので、仕方なく地下室に行き、



少しの合間、昼寝をしようと思い、地下室に向かった。



地下室には誰も居なかったので、丸椅子に座り目を瞑った。



数時間の時が、流れた様に感じた春菜だった。



目を覚ますと、ラジオだけが鳴っていた。



誰も居ない社内と、目新しい機器が目に入った。



そして精神安定剤の袋。



春菜は虚ろな眼差しで、その袋を見詰めて、「睡眠薬と間違えちゃった..」。



持って来た袋の中身を間違えて、持って来てしまったのだった。



春菜は思いに更けた。



そして泣き出し、自分が見た幻覚を悔いるのであった。



だが幻覚の中で、自分を見つめ直した事を思い出し、



強く生き様と、心に決めたのであった。



一人デスクに座り、幻覚に出て来た、彼女達を思い出していた。



楽しかった思い出が頭を過ぎると、恋人が愛しく感じて切なさが増した。



だが睡眠薬や、精神安定剤の大量服用と、飲酒なども絡み、



度々幻覚を見ていた春菜は、心の中で悔いを、ねじ伏せるのであった。



だが何故か涙が止まらない。



上を向き、「強く生きないといけないの..」と、呟いて自分に言い聞かせると、



良子の顔が目に浮かんだ。



前世の母が、現実の様に感じたからだった。



そして時間だけが流れて行った。


午後の5時を回る頃、社員達が帰って来て、今日の仕事の書類を軽く整理して。



春菜もプリンンターから、集計を出して仕事を終えたのであった。



一人歩く卸本町、風は幻覚を見ていた時代よりも暖かく、



それが何故か切なかった。



寂れ掛けのこの町は、あの幻覚の時代の遺跡の様に、



栄えてた時代の歴史上の、古びた建造物の様に、



今はテナント募集の張り紙だけが、色あせていた。



この町を歩くと電気屋だった店は、呉服の問屋だった。



角を曲がり、美味しいオムライスを食べた店は、



中古のパチンコ台を、売っている店だった。



幻覚の思い出は、心の中に一つ一つ刻まれて行くと、



この町の香りだけは、現実の物だった。



幻覚で見た店と、現実の店とを照らし合わせ、切なさが増して行った。



その時急に幻覚の世界へ、もう一度飛び込みたくなった。



強い自分になる事を誓ったが、もう現実には戻れない自分が居た。



春菜は独り言で、「待っていてお母さん、そして杉浦君、



私はもう幻覚の世界でしか、自分が活躍する場が無いの、



さようなら、現世のお母さん、そしてお父さん、



私は自分を生かしてくれる世界に旅立つの」。



そう行って、スカートのポケットから、



間違えて睡眠薬を入れた袋を出して、カプセルを手に取った。



カプセルを握り締めて町を歩く春菜は、この町の中心部に在るビルを目指した。



そこは誰でも気軽に入れる、飲食店が入っているテナントであった。



春菜は1階のロビーに設置して有った、



ジュース自動販売機で、ビンのジュースを買った。



ロビーには誰も居ない、店はもう閉店していた。



カプセルを口に入れ、ビンのジュースを一気に飲み干すと、



床にビンを落とし、割れてとがった、鋭利になった部分を見詰め、



それを拾い上げて、「これで永遠に、幻の世界へ行ける」と、呟いて、



このフロアーの、トイレに行こうとした時だった。



ふと後ろから、誰かが抱きついた。



それはとても懐かしい感覚、そして香り、



春菜は、「お母さん..」と、呟いたのであった。



良子、「幻覚では無いわよ、現実よ..」。



良子は春菜を放して、春菜は振り向いた。



すると年の頃は、60歳位の中年女性が佇んでいた。



春菜は驚いて、「本当なのね!、私は今まで、現実の世界を生きて来たのね!」。



良子、「時間旅行は楽しかった?」。



春菜は万感の想いで、良子に抱き付いたのであった。



すると大勢の人達が、このフロアーに続々と入って来た。



その人達は、春菜がタイムトリップした時の、



会社の社員の40年後の姿だった。



そこには、年を取った洋子と圭子もそして、杉浦の姿もあった。



皆なが一斉に、「お帰り春菜..」と、答えてくれた。



春菜は徐に、自分のポケットから財布を取り出すと、お札を確認した。



それは聖徳太子であった。



そして先ほど飲んだ、睡眠薬を確認すると、間違いなく精神安定剤であった。



春菜、「どう言う事..」と、呟いたのであった。




この物語はフィクションであり、登場する人物、建物などは実際には存在しません。

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