第十四章、日々
卸本町の蜃気楼オリジナル文章
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あの日から数週間が経ち、会社は冬休み前の暮は大忙しで、
あくせく社員達は、仕事に追われていた。
春菜は電話番に回されていたが、
ダイヤル式電話を使った事の無いので、
どうもダイヤルを上手く回せなかった。
回す度に、フン、フン、と、指の力を精一杯入れては、
ダイヤルの指止めまで、回すのが困難だった。
書類を持ちながら、
その姿を立って見ていた里美が、「あんた、箸より重い物持った事無いでしょ!」。
春菜、「いつも倉庫で、重いダンボール持っています#」と、膨れた。
最後まで回せず、途中でダイヤルを放してしまうので、繋がらない事が多かった。
すると明子が遣って来て、「私と変わりなさい!」と、
春菜を退かして、ダイヤルを回しながら、「こうやってグ!っと、
指に力を入れて回すのよ!」と、手本を見せながら、取引先に電話を掛けた。
春菜、「それがいまいち出来ないの..」と、首を傾げた。
隣のデスクの洋子が、「あんたの時代は、どうなってるの?」。
春菜、「メモリーダイヤルです」。
洋子、「メモリーダイヤル?」。
明子が電話を終えて、「この子の時代は、一度掛けた所は記憶されて、
毎回ダイヤルを回さなくても、ボタン一つで同じ所に回線繋がるのでしょ!」。
向かい側のデスクの大野が、書類を持ちながら、「記憶されるのか!、
さすが未来の電話だね!」。
里美、「携帯電話が世の中に出回ってる時代よ!、
そのくらい当たり前だの何とかやらよ!」。
春菜、「取引先はパソコンに記憶されてるから、データをネット上でアクセスするのです。
取引先に電話は、あまり使わないのです」。
聞いていた部長は、「そう言う事をするから、我々の仕事が将来、危ぶまれるんだよ#」。
大野、「なるほどね!、一長一短だね..」。
部長、「春菜みたいなまじめな子も、路頭に迷うのは、何でも機械化するからだろ!」。
春菜、「それだけでは無いのですが..」。
部長は、お茶をすすりながら、「すでにその時代は、俺も退職しているが、
良かろう安かろうが、何でも良い訳では無い、
必ず巡り巡って、国民に皺寄せが来るんだ!」。
春菜、「はい、その通りだったと思います」。
聞いていた周りは、同時に口を揃えて、「なるほどね~」と、呆れたのであった。
そして昼休みになり、例のごとく三人集と春菜は、
昼食を取りに会社の外に出て歩いていると、一台のカブが遣って来た。
それは柿本だった。
それを見た良子は、腰に手を当てて、「のこのこ凝りもせずに、またやって来たわね#!」。
ヘルメットを被った柿本は、「お前若い頃、俺と知り合って間もない時に、同じ事言ったぞ!」。
良子、「そう言う事じゃ無いわよ#!、自分の娘を粗末に扱うあんたは、
地獄に落ちても私は、悔いは無いわよ#!。
『娘はこれから俺が守る』様な事をほざいて置きながら、娘の彼まで殺し掛けて置いて、
のこのこ人の前に現れて#!、このろくでなし#。
あんたが今まで一番、傷を負って無いでしょ#!。
私も春菜も杉浦君も、あんたの犠牲になって#!、どう言うつもりよ#」。
春菜、「だから当分会いに来ないでって、言ったでしょ#!、
どやされた暁には、往復びんたの乱れ打ちが、待ち構えてるんだからも~#..」。
圭子、「春菜、乱れ打ち見たの?」。
春菜、「先週の夜、寮にそれこそのこのこやって来たの、
今度は玄関から入って来たのだけど、寮の外で大変だったんだからぁ~#」。
柿本、「昔から良子の往復びんたは、慣れてるんだよ、アハハハハハ」と、
右手を後頭部に当てながら、笑っていた。
洋子、「これくらいじゃないと、良子の彼は務まらないかもね..」。
すると柿本の横に、トラックが止まった。
杉浦だった。
杉浦は窓を開けて、「あ~、誰かと思えば、柿本さん。
警察のお咎めは、無かったのですか?」。
柿本は見上げて、「俺は晴れて潔白と断定されてたんだ。
お咎め無しという事で、今後もし何らかの組織関与に対しては、
参考人として扱うと言う事で、処理された訳さ!」。
良子、「うるさい#!、この人でなしぃ~#。
当分牢獄の臭い飯、食らって居れば良かったのに#」。
春菜、「だからねパパ、半年は会わない様にしないと、
顔見る度にママは私の腕に、銃の弾飛んで来た怒りは納まらないの」。
杉浦、「それで、仕事は続けているのですか?」。
柿本、「そうなんだその話だけど、一からやり直すつもりで、
安アパートに移り住んだんだ。
土方からやり直して、金貯めて 一級建設士を取得するんだ」。
良子、「どうせ直ぐ喧嘩して、土方の梯子するのが落ちよ#」。
柿本、「そんな事は無いぜ!、現に不動産家業はこの土地で、
土方まじめにこなして、築いた家業だ。
決して裏家業から入った訳では無いぜ!」。
春菜、「本当よ、嘘は付いてはいない」。
良子、「その事は信じるはよ..」。
柿本、「それにたっぷり娘から、未来の情報仕入れたから、
春菜、今度は特別待遇の良い、給料もたっぷり貰える、
銀行に勤められる様に優遇するから、待ってろよ!」。
良子、「ちょっと、春菜にいつ聞いたのよ#、
そんな話は春菜から、聞いてないわよ#」。
春菜、「私がちょくちょく、仕事の合間に外出ると、
パパがやって来て、少しの合間に未来の出来を事聞いて来るの。
いつも仕事は道路工事や、突貫工事で夜間勤務だから、
昼間は暇で根掘り葉掘り、未来の話を聞いて、『お母さんには内緒だぞ!』ってね」。
良子、「ちょっとあんたぁ#、何処までふざければ気が済むのよぉ#。
今度は娘をストーカーして、
こそこそ娘に会って、今度は何を企んでいるのよ#?」。
柿本、「別にいいだろ!、成功の種を貰ってだな、
真っ当な人生を歩む糧にするなら、娘を幸せに出来るだろ!」。
良子、「じゃあ、何で私に『内緒にしろ!』って、春菜に口止めするのよ#!」。
柿本、「俺と春菜だけで、会っている事が分かると、おまえうるさいだろ!」。
良子、「当たり前でしょ#!、私はあんたが春菜に、近づいていいって言って無い#」。
春菜、「もう..止めて!、切が無いからもぉ~#。
パパもう帰って!、これ以上長引くと、お昼食べられなくなるから!」。
柿本、「あいよ!」と、バイクを足で後退させた。
その瞬間、良子は手に持っていた財布を投げ付けた。
その財布が、柿本のヘルメットに当たった。
良子、「二度と来るな#!」。
柿本、「ヘイヘイ、女番長で名高い、泣く子も黙る大槻姉さん..」。
するとギアーを入れて、アクセル全快にして逃げて行った。
良子は投げた財布を拾い、追いかけた。
春菜、「無理だからもぉ~#!」。
圭子、「放って置きなさいよ、付き合っていたら昼ご飯所か、日が暮れるわよ」。
そう言って、良子を置いて食堂に向かう三人だった。
その光景を見た杉浦は、トラックの運転席で、「ヤレヤレ」と、呆れたのであった。
この物語はフィクションであり、登場する人物、建物などは実際には存在しません。




