第十三章、ゴーゴーダンス2
卸本町の蜃気楼オリジナル文章
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そして土曜の夜、社員達はこの当時の流行の格好で、
皆ロングコートを羽織、街外れのゴーゴー喫茶へと遣って来た。
すると入り口で、黒い蝶ネクタイの店員に招かれ、
杉浦が招待券を店員に渡すと、喫茶店の奥に通された。
即座に別の店員、複数が遣って来て、「コートをお預かりいたします」と、
答えると、社員が脱いだコートを腕に欠けて一斉に、「ごゆっくり」と、頭を下げた。
店内は爆音立てて、お客は体を捻り曲げて、汗水垂らして踊っていた。
社員達は奥の、ソファーが長いテーブル席に通されると、
バーテンが飲み物を注文しに遣って来た。
飲み物を聞かれると、女性は海外の流行のジュースを注文し、
男性はビールを注文していた。
春菜が飲み物を聞かれると、少し考えて、「ねぇ、ここカクテル有る?」。
聞かれたバーテンは、「どんなカクテルがお好みですか?」。
白いワンピースで、春菜はソファーで、
足を組み直し、「そうね..、今日はマティーニの気分なの..」と、
答えると、バーテンは、「かしこまりました。
マスターに頼んでみます」と、言ってこの場を去っていった。
すると社員達は、一斉に春菜の方を見て唖然としていた。
会社では化粧気の無い春菜が、
今日はファンデーションをきっちり塗って、
マツゲを上に上げ、真っ赤な口紅を塗り、
綺麗な素足を、見せ付ける様に前方に出して、足を組んでいた。
春菜の前方で踊っていた、男性はその足に釘付けで、
それを見た春菜は微笑んで、また足を組み直すと、
踊っていた男性は、体の動きを止めた。
里美、「あんた、会社ではそんな素振りも見せないけど、
遊び慣れてるわね~」と、感心した。
圭子、「それもそうだけど、マティーニとか言うカクテル、どんな物なの?」。
聞かれる春菜は、組んでいる両足に、両肘を置いて頬杖を付く格好で、
上体を落とし、「甘酸っぱくて、それでいて幻想的な味がして、
今の私の気持ちに似合うの..」。
それを聞いた社員達は、「春菜さん、遊んでるね~」と、口を揃えたのであった。
しばらくすると、頼んだ飲み物が運ばれて来た。
が..。
社員達は一人だけ、おしゃれな飲み物を頼んだ、春菜に注目していた。
マティーニを口に付ける春菜は、まさにいい女に変身していた。
現代で言えば、イケテル女である。
一口飲むと、「う~ん、この味は今も昔も変わらないわ~」と、微笑んだ。
組んだ足を斜横にして、その姿はこの時代のホステス顔負けであった。
それを見て生唾を飲だ社員は、一斉にバーテンを呼び付け、
大野が、「ねぇ、あれと同じ物を飲みたいのだけど」と、春菜を指差した。
そう言うと社員全員、春菜が飲んでいるマティーニを、注文するのであった。
社員一同、酔いも回ってきた頃、軽快なリズムは踊りへと駆り立てられ、
一斉にライトアップされた場所に、駆け寄り踊り出すのであった。
やはりゴーゴーダンスで体をくねり、軽くヘッドバンキングする踊りは、
更にマティーニの酔いが回り、春菜も狂う様に踊っていた。
杉浦が春菜の所に行き、「楽しい?」と、聞くと。
春菜は、激しく体をくねらせながら、「激しい!」と、答えたのであった。
杉浦、「そう、それでいいよ」と、隣で激しくツイストを踊った。
すると急に場内のライトが暗くなる。
サウンドも、スローなテンポの曲に変わった。
そう、チークタイムである。
お相手が居る女性達は皆、男性の腕に抱かれていた。
春菜はいきなり、近くに居た杉浦の胸に飛び込んだ。
杉浦は驚いたが、スローな曲の雰囲気に飲まれ、優しく包み込む様に、
春菜の背中に腕を回した。
春菜は、杉浦の腕の中で、「幸せ..幸せよ、このまま何処かに浚って欲しいくらい」。
杉浦は、熱いその恋の一言に対し、「お母さんが見てるよ..」。
春菜、「お母さんは、お相手が居るは..」そう呟くと、
抱いてる春菜の横で良子は、柿本 賢と踊っていた。
良子も柿本に抱かれながら、柿本が、「来てたのか?」。
良子、「あんたこそ..、どうしてここに居るのよ..」。
柿本、「けりを付けに、関係者と会っていたんだ。
ここは取引先が経営している、店なんだよ!」。
良子、「今の仕事に、けりを付けるのね!」。
柿本、「あ~、一からやり直すつもりでな。
今まで築いた財産全部、売り払った」。
良子、「そう..」と、呟く良子に柿本は、「何故今、俺の話を素直に信じた?」。
良子、「あんたが私を、抱いてる腕から伝わるのよ。
営みの時に私を抱いてるあんたは、ただ男の欲求を満たしたいだけの抱き方と、
本当に私を愛して、抱いてる時の感覚が違うから..」。
柿本、「強姦しに行った俺を、許してくれるのか?」。
良子、「バカ自らあんたの胸に、私は顔を着けてるのに、今更聞く必要が有るの?」。
柿本、「確かめたかっただけだ、俺は用心深い男だから..」。
良子、「気が小さいだけでしょ#!」。
柿本、「もう一度言うよ、若かった時、俺がお前に言った事」。
良子、「もう二度も言わないで、大人は言葉で表現する前に、
態度で示すものよ..」。
そう呟くと、二人は見詰め合った。
そしてお互い目を瞑り、熱いキスをしていたのであった。
キスを終えた二人は、隣で熱い二人を見ると、
春菜と杉浦も、熱いキスの最中だった。
キスを終えた二人は見詰め合い、何気なく振り向くと、
柿本と良子が見ていた。
柿本、「お幸せに..」。
杉浦、「有難うお父さん..」。
良子、「幸せにして貰いなさい」。
春菜、「うん、そうするつもり」。
この四人は、両者幸せを手に入れ、両者同士の蟠りも解き放って行った。
するとドカドカと音を立てて、スーツ姿の中年男性が遣って来て、
急に拳銃を構えた。
女性の悲鳴が、場内を包んだ。
すると踊り場に居た客は、散らばった。
スーツの姿の男性は、両手で拳銃を持って震えながら、「柿本、お前は出来過ぎた!」。
柿本はこの踊り場で、一人にされ佇んでいた。
柿本、「何が出来過ぎたんだ?」。
スーツの姿の男性、「お前は優秀だった。
俺達の組を伸し上げ、財も築いた。
堅気にして置くのは惜しかった。
しかしなぁ~、手を広げ過ぎた俺達に、
やっかんだ他のデカイ組織が、俺達を潰しに来た。
その組織は、条件を付けて来た」。
柿本、「条件とはなんだ?」。
スーツの姿の男性、「お前達の組織を潰さない代わりに、
お前達を伸し上げた、柿本をヤレとなぁ~」。
その瞬間、スーツの姿の男性は引金を引いた。
春菜は反射的に、「危ない!」と、言って柿本を押し倒した。
それと同時に杉浦が、春菜に覆い被さる様に飛んだ。
春菜と杉浦の間を、拳銃の弾がすり抜けたが、運悪く春菜の右腕を弾はかすめた。
場内は修羅場と化し、一斉に客は逃げていった。
スーツの姿の男性は、一発撃って逃げていった。
三人覆い被さる様に、倒れていた杉浦から立ち上がり、春菜の腕を見た。
春菜も上体を起こすと、春菜の下に居た柿本も上体を起こした。
咄嗟に駆け寄る良子は、春菜に駆け寄りしゃがんで、
春菜の両肩を両手で持って、「あんた怪我は!」。
杉浦と柿本も、踊り場で座りながら春菜を見た。
春菜も座っていたが、右腕の半袖のワンピースの裾から、血が滲み出て来た。
すると杉浦は、着ていたセーターを脱ぎ、中に着ていたシャツの袖を引き裂き、
春菜が着ていた、半袖のワンピースの裾を捲り、「かすり傷だ!、傷は浅いよ」と、
包帯代わりに巻き付けた。
それを見た柿本は、「君なら春菜のお相手には持って来いだ!。
君が春菜を庇った所、見届けたよ」と、感心していた。
感心してなかったのは、良子だった。
良子はしゃがみながら、いきなり柿本を張り倒した。
何度も何度も往復びんたを繰り返し、それを見ていた杉浦が、
座りながら良子の体を持って、柿本から引き離した。
座り込む良子は豪泣きで、「あんた#!、生まれ変わったこの子を、
また殺すつもり#、この人でなし#!」と、叫んだ。
やるせない柿本だった。
杉浦は春菜を抱き上げ、抱き上げながら春菜にキスをし微笑んだ。
春菜も微笑んで杉浦が、「ちょっと待っていてね、救急車呼ぶから」と、
春菜を、先ほど座っていたソファーに置いて、
入り口付近に設置されていた、公衆電話の所に歩いて行った。
柿本は踊り場で、三角座りをしながら俯き、良子は踊り場で座りながら、
両手で顔を覆い、しくしく泣いていたのだった。
この物語はフィクションであり、登場する人物、建物などは実際には存在しません。




