第十二章、明るい日々3
卸本町の蜃気楼オリジナル文章
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デパートを堪能した四人は、帰る頃にはすっかり日も沈んでいた。
そして街角の本屋に立ち寄った四人は、皆好きな雑誌を立ち読みしていたが、
この時代、本を買わないで、立ち読みしている客には、それなりの仕打が有った。
それは本屋の店員から、はたきではたかれる攻撃に遭うのだった。
なので昭和44年組は、軽く雑誌をサラサラと捲り、何となく気に入ると、
雑誌を買うのが習慣だった。
春菜は一人離れて、小説の本棚から手当たり次第に、本を物色していた。
夢中で物色していたので、隣で本を読んでいた人など目に入らず、
体をぶつけてしまった。
春菜は咄嗟に、体をぶつけてしまった人に頭を下げて、「すみません..」と、謝った。
するとその男性は、学生服を着た姿で、「あ~、別にいいんだよ。
それより君は、この本の世界から抜け出して、神秘なる宇宙へと旅立つ勇気は無いか?」。
そう答える男性は、この当時の有名SF作家の本を手にしていた。
しかも彼は、若き頃の春菜の父親だった。
春菜は持っていた本を、床に全部落としてしまい、両手を口に当てて驚いたのであった。
その男性は話続けた、「僕はいつか、アポロの船員になって、
この広い宇宙を冒険して、いつか何処かの星にたどり着いたら、
理想の世界を創るんだ!。
君もどうだい?、僕と一緒に宇宙を迷い、どこかの星で理想郷を、一緒に創らないか?」。
春菜はその時、「む..無理ぃ#!」と、叫んだのであった。
男性はガクっと、左肩を落とした。
すると店員がやって来て、持っていたはたきで、男性は頭部をはたかれたのであった。
本屋を出た44年組みは、買った雑誌を手にしていた。
良子が本屋の軒先から、店内を伺い、「ねぇ、春菜は何処に行ったの?」と、答えると、
大量に本を買い、重そうに袋を抱えた春菜が、店から出て来た。
それを見た44年組は、驚いて言葉が出なかったが、
圭子が、「あんた、どうしたのよ?」。
良子、「いくらこの時代は、娯楽が少ないって言っても、
そんなに一編に買い込んで、読めるの?」。
春菜、「驚きました、私の時代の有名作家の初版本が、こんなに沢山あるなんて..」。
それを聞いた44年組は、納得した。
すると洋子は急に、春菜が抱えていた本を取り上げた。
洋子、「携帯電話を安く裁いた代償に、これを貰って置くわよ#!」。
黙っている訳が無い良子が、
その取り上げた本を、洋子から奪い返し、「いい加減にしなさいよ#!。
寄付金一割貰って置いて、春菜が買った本取り上げて#!。
腹癒せでしょ、自分で買いなさいよ#!」。
圭子、「そうよ洋子、これだけ買ったって、5万円と掛かって無いわよ#!。
春菜に未来で売れる作家を聞いて、自分で買いなさいよ#!」。
良子、「あんたねぇ、未来人がこれだけ見知らぬ作家の、
初版本を買い込んでいる姿を見たのだから、
どの会社が成功するか聞けば、株で大富豪になれるでしょ#!」。
圭子、「そうよ、個人的に会社で春菜に細かく未来を聞いて、
メモを取ってる癖に、春菜にやっかんで、直ぐ宇宙人だと言い放って#!」。
良子、「この強欲でふてぶてしい女が#!。春菜を宇宙人呼ばわりする癖に、
都合のいい時だけ、未来を聞いてるんじゃない#!」。
洋子、「うるさ~い#!、うるさい、うるさい、うるさ~い#!」と、
両手の拳を握り締めて、「あんた達に、私の幼少時代の貧乏暮らしなんか、
解らないわよ#!。
毎日毎日お弁当を、学校に持って行けない日々が続いて、
朝も昼も夜も、水だけで過ごした日々が解るもんか#!」。
良子、「だからって、春菜を都合よく利用していい訳が無いでしょ#!」。
洋子、「この子が癪に障るのよ#!。
素直で育ちが良さそうで、簡単に学歴付けさせてくれた親が居て、
子供の頃から食うに困らなくて、飽きてお惣菜が好物なんて、言っているこの子が、
悔しくて堪らないのよ#!」。
春菜は急に泣き出し、「ごめんなさい、私もこの時代に来て、
初めて気づいた事、それは皆幼少期は、苦労して来たと言う事だった。
皆この時代の人々は、学歴を付けたくても、
年配の方々は高校にすら、通えるお金が無いから、仕方なく手に職を付けて、
ハングリーで、今の自分を作り上げた事。
昨日部長が、仕事の合間に喫茶店で、コーヒー奢ってくれた時、
私の生い立ちを、聞いてくれたの。
聞いた上で部長が、『春菜は確かに、時代の流れの中で、
なに不自由無く暮らして来たらしいが、
学歴は有って当たり前の時代が来て、不景気になる。
すると今度は、才能や天性や感性的そして、経験者の優遇、
伝と権利の要素を社会は求める。
それは事細かに言えば、器量や容姿などでも、甲乙が出る世の中になる。
今まで世界で生んで来た、科学や文化そして芸術と、それに対する理論を覆す、
何かが欲しい社会になると、学歴では到底追い付けない、
新たな常識を超えた、発想が要求される。
でも学校で習って来た理論の中で、新たな発想をしても、
直ぐそれは、在り来たりになって行った。
その結果、春菜が言う未来はインフレの逆、
デフレと言う今まで日本が、体験した事が無かった社会を、
作り出してしまったんだな』と、言ってました。
私は確かに幼少期、与えられ甘えて来た事を、この時代に来て初めて知りました。
ごめんなさい洋子さん、こんな私で..」。
良子は更に激怒して、「だからってねぇ!、
この子をあんたの、操り人形にさせるのは卑怯でしょ#!」。
圭子、「そうよあんたこそ、世界征服を狙ってるのでしょ#!」。
洋子、「そう言うあんたは、どうなのよ?。
杉浦君と春菜にベッタリくっついて、
見張って春菜の体を、杉浦君に奪われない様に、してるあんたはどうなのよ#!」。
良子、「それとこれとは、話が違うでしょ#!。
私は自分と同じ過ちを、犯して欲しく無いだけよ#!」。
喧嘩する二人に誰かが佇んだ。
「や~あなた達、さっきから大声で喧嘩している様ですが、
未来がどうとかこうとか..。
小さいですね~、小さ過ぎる。
宇宙はもっと神秘的で、ブラックホールに落ちれば、
遠い遠い未来にまで、行けるかも知れません。
その時には、今まで悩んで来た事なんか、バカバカしくなる位、
壮大で輝く人々が住んでいる、地球以上に大きな星に、
辿り着くかもかも知れませんよ!」。
泣いている春菜の顔を見詰め、「さあ涙を拭いて、
過去を振り返ってはいけません、明日を見るのです。
一日一日そんな幸せが、来る事を信じて生きれば、楽しく暮らせますよ、アハハハハハ」。
笑いながら立ち去って行った。
そして夜空を見上げて、あの歌を口ずさんで去って行った。
良子、「変わってるわね~、あの学生服の子..」。
圭子、「ちょっと自分の世界に、入り込み過ぎてるけど、
良い事言って帰って行ったわね」。
洋子、「おかしいわよあの子..。頭がどうかしてるわよ..」。
春菜はしくしく泣きながら、「私の実の父です..」。
44年組は同時に、「えぇ~~...」と、驚いて言葉を失くしたのであった。
相変わらず未来から来られた方が、戸惑う毎日が続いていたのだった。
この物語はフィクションであり、登場する人物、建物などは実際には存在しません。




