第十一章、レクリエーション4
卸本町の蜃気楼オリジナル文章
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午後から始まった、ボウリング大会が終わる頃には、夕日も沈み掛けていた。
社員達はボウリング場を跡にして、徒歩で街まで歩いて、
美味しいカレーを食べさせてくれると言う、お店に行く様であった。
春菜は杉浦に寄り添い、一緒に歩いていた。
各々お気に入りの異性と、歩く姿が見受けられた。
ふと春菜は、男性の整髪料の香りを感じて呟いた。
春菜、「オジサンの臭いって、昔は若者の臭いだったんだ!」。
隣で 一緒に歩いていた杉浦が、「春菜ちゃんの時代の若者は、頭に何を付けてるの?」。
春菜、「え~と、付けて無い人の方がが多いけど、
ワックスで形付けてる男性が多いかな?」。
杉浦、「未来の人は変わってるね。
頭にあんな臭い物付けるの?」。
杉浦は床に塗るワックスや、車に塗るワックスを想像した。
春菜、「微香性ですよ..」。
隣で見張るように、ぴったり二人にくっ着いて、
歩いていた良子が、「ワックスって、整髪料の事を未来では、ワックスって言うんでしょ?」。
杉浦、「あ~!、ヘアクリームとかポマードとか、
その類でワックスと言う整髪料が有るんだね!」。
良子、「未来は、表す対象物に用いる言葉が、ちぐはぐなのよ」。
春菜、「あとムースと言う、整髪料も有ります」。
杉浦、「ムース?、それはどんな物なの?」。
春菜、「泡です..」。
杉浦、「頭に泡を塗るの?」。
春菜、「はい、艶出しムースとか、ハードに固まるムースとか、
さらさらヘアーになるムースとか..」。
杉浦、「言葉だけでは無くて、用いる物の用途も、ちぐはぐだね」と、笑った。
良子、「未来は人間関係も、ちぐはぐみたいよ」。
春菜、「そうなんです。複雑です」と、俯いた。
目的の店に着いた社員達は、好きな人達とテーブルを共にしていた。
カレー屋とは言ってもこの当時は、今の様にインド人が経営している、
エスニック風では無く、ヨーロッパ調の店構えで、
高級レストランを思わせる、格式高い店構えだった。
テーブルには真っ白な、クロスが敷いて有り、
正装をした店員が、テーブルの脇で立っていた。
やはり辺りを見回す春菜は、「何だか、カレーを食べさせてくれる店にしては、
食前酒にワインを勧められそうだけど..」。
するとタクシードの男性店員が、ゴールドの大きなメニューを複数抱えて、
各テーブルに配っていた。
春菜、「何だか、大げさ過ぎる様な気がするけど..」。
隣の席の良子、「この時代の洋食店は、これが常識的な扱いなのよ..」。
春菜、「日本から見て、洋食を食べさせてくれる店は、大方このスタイルなのね..」。
メニューを開くと、カレーは三種類しか無かった。
ポークカレー、ビーフカレー、お子様カレー。
その他は、ビーフステーキ、ポークステーキ、ハンバーグなどの肉類で有った。
春菜はそれを見て、「ここは、何風のお店なの?」。
実はこの時代、まだまだ世界各国の専門店は少なく、
日本人の高級な洋食と言えば、肉類で有り、カレーも高級料理の一つだった。
すると社員達は、皆同じ物を注文した。
それは決まって、ビーフカレーだった。
この当時ビーフは、最高に高い食材の 一つだった。
しばらくすると、やはりメイドの格好をした、
ウェイトレスが注文の品物を、トレイに乗せてやって来た。
それをテーブルに置いた。
ゴールドのソースポットに、ゴールドのお皿にライスが盛られ、
その脇にはセロリが 一つ乗っていた。
それを見た春菜は、「うわぁ~、ギガレベルで大げさぁ~」と、答えたのであった。
意味が解らなかった周りは、春菜の言った事を、無視して食べ始めた。
春菜もソースポットからルーを、ライスに少し掛けて、スプーンを持って、
一口食べたその瞬間、「テラうまぁ~、かなりヤバ~イ、感動ぉ~」と、答えると、
社員達は一斉に、春菜の方に顔を向けた。
すると別のテーブルに、座っていた小野が、「テラ美味いって、電波周波数で用いられる、
キロ、メガ、ギガ、テラのテラの事?」。
するとやはり、社員達はその表現に笑いが込み上げ、一斉に笑い出した。
良子、「本当にあんたの時代は、
物の表現に対する値の使い方が、間違っているわね~」と、呆れ返った。
隣のテーブルに座っていた里美が、「春菜、これがKYね」。
春菜は自省して、「すみません..」と、首を竦めて小さくなってしまった。
里美の隣に座っていた小幡が、「でも、気持ちはよ~く伝るよ、アハハハハハハ!」。
洋子、「この子、宇宙人だけど、自分の今の心境を、
伝えるのが上手いのよ、だから憎めないのよ、携帯電話安く裁いてしまったのは悔しいけど」。
圭子、「未来人でも宇宙人でもそうだけど、
クールで下心が有りそうに感じるけど、春菜は素直だから憎めないのよ」。
杉浦、「これがテレパシーって奴だよきっと!」。
すると社員達は、笑いながら同じテーブルの社員達と、春菜の思想を語り合った。
春菜は自分が放った一言が、こんなにも社員に影響を及ぼすとは、
思いもしなかったので、首を竦めたまま何も言わずに、
坦々とカレーを食べたていたのであった。
この物語はフィクションであり、登場する人物、建物などは実際には存在しません。




