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第十章、消滅

卸本町の蜃気楼オリジナル文章

http://blogs.yahoo.co.jp/kome125/folder/1515222.html

月曜日の昼食を済ませた社内は、



社員達で、春菜を囲んで、未来の話を聞いていた。



小幡は話を聞いて、考え込んでいたが、「そうか、今は考えられないが、



現実に 一般企業の多くは、人を減らさず負えないのか..」。



里美、「信じられないわね、あの共産国の遅れた国が、



経済大国になるなんて」。



小野 哲夫、「高景気は、永遠に続かなかったのか。



確かに政治の主導者は、利権との兼ね合いの歯車が狂う可能性は、



一部政治評論家が、指摘しているけど..」。



石田 清子、「確かにラーメン一杯、平均550円時代の物価で、



5%の消費税に、皆 一般は大学出て、その教育費に掛かるお金と、



生活費を減給された給料で賄ったら、結婚生活悩むわよね~」。



小山 英二、「そんな大手の証券会社が、破綻するなんて、



お先真っ暗だな..」。



西岡 美代子、「でも、この先20年位は給料は、上がり続ける訳でしょ?。



その間に結婚して家建てて、子供育てて..」。



小山、「でも、俺達の子供が苦労するだろ!。



現に春菜ちゃんは、俺達の子供寄りも、若い世代になる訳だから、



春菜ちゃんが大学出ても、派遣でしか会社側が雇わない世の中では、



俺達の子供が心配だよ」。



小幡、「でも、俺達の子供の将来まで、構ってられないだろ!。



今置かれている現状が、忙しくてそれどころでは無いから」。



春菜、「私の話を聞けば、皆さん何とかなるのではと、思いますが..」。



すると皆さん、大きく首を立てに振ったのであった。



その夜、良子と春菜は寮近くの、赤提灯で飲んでいた。



良子、「春菜は、お酒は行ける口なの?」。



春菜は、おちょこをクイっと飲んだ後、「はい..、友達からは行ける口だと言われてました。



でも、凄く久しぶりに呑みました。



精神安定剤や、睡眠薬を服用していると、『お酒は危険』だと、



医師から忠告されていたので..」。



良子、「そうなの、苦しい私生活を送って来たのね..」。



その時、春菜は良子と、以心伝心で来た。



そして、「良子さんのせいでは有りません。



時代の流れで、偶々そうした世の中が、私達の世代に立ち塞がっただけです。



苦しかったのは、私だけではないから..」。



良子は心の中で、生まれ変ったこの、未来の我が子の生い立ちに、自分を悔やんだのであった。



良子、「そうね、いずれにしても、あの父親では苦労は、避けられそうも無いから..」。



春菜はその時、黙って酒を呑んでいた。



すると急に、呟く様に、「結局私は、意思が弱かったのかも知れません。



小さな頃から、与えられる事だけが全てで、



自から自分の道を、切り開こうとしてなかった様な気がします。



世間並みが何時も私の基準で、そこから落ちる事も上がる事も、



拒んで来た様な気がします。



何故なら、世間並みで居た方が、気が楽だったから」。



良子、「どうして、今になってそんな事を思うの?」。



春菜、「この時代に来て、気づいたのです。



この時代の人達は、今の現状に対して、夢や希望を抱き続けています。



私の時代の若い世代は、今置かれている生活水準が、



変わらない事を祈り、生きています。



でも、世の中は更に悪化して、仕事に喘ぎ挙句の果ては、首を切られて路頭に迷い、



自殺者が毎年3万人も出ています。



私もその一人になり掛けたけど、あの海に浮かんだ蜃気楼が、



私を死の選択から救いました。



きっと、精神安定剤の大量服用で、幻覚を見たのだと思うけど..」。



良子、「でも、本当にそれは、卸本町の蜃気楼だったのかしら?。



現にこうして、次元を飛び越えて来たのだから..」。



春菜は微笑んで、「私から言わせれば、ここに居る事が、幻覚だと思っているの。



でも、この幻が覚めない事を、祈るばかりだけど」。



良子、「昔の母から言わせれば、あんたがここに居る事は、



私の幻だと思ってるけどね..」。



二人は笑った。



良子、「昔のあんたのお父さん、いよいよ本気で更生するみたいよ」。



春菜、「柿本さん、私の事可愛いくなったって、言ってなかったですか?」。



良子、「さすがは親子ね、言ってたわよ..」。



春菜、「柿本さんの顔、あんなに強く張り倒して置いて、



怒らなかったから、そうだと思って..」。



良子、「本人も、精進したのよきっと..」。



春菜、「昼間、一人で仕事の合間に、銀行行った帰りに、偶然かどうか分からないけど、



柿本さんが突然車で現れて、『プレゼントだ!』って言って、



赤いリボンが付いた、細長い箱を渡されて、開けて見たら金のハートが付いた、



ネックレスだったの」。



良子は驚いて、「は~、賢が..」。



春菜、「何も言わずに受け取れって、渡して直ぐ走り去ったの。



礼を言う間も無く」。



良子、「あいつ、私にはプレゼントなんて、大してくれた事も無いのに、



娘にはそんな、大層な贈り物するのね#」。



春菜は、ポケットから白い箱に入った、プレゼントを取り出して、



良子に手渡し、「これなの..」と、呟いた。



良子はリボンが付いた、白い箱を開けると、金のリングに、輝く金のハートだった。



春菜、「張り倒した事、謝ろうと思ったのだけど、その間も無く走り去ったから..」。



良子は、リングを眺めて、「あの馬鹿#!、いつもそうなんだけど、



愛してる人に、何かをプレゼントする時、照れくさがるのよ#」。



春菜、「嬉しかったでも..、18金のネックレスなのそれ..。



いくら娘だと確信出来たとは言え、こんな高い物、誕生日でも無いのに、



いきなり渡されるなんて、どうしよう?」。



良子、「貰って置きなさいよ#!、気に入らなかったら、



質屋にでも行って、うっ払いなさい#!」。



春菜、「でも..そんな粗末な事、出来ない..」。



良子、「子供を生む金が無かった奴が、金のネックレスをプレゼントする法が、お粗末よ#!。



しかも、昔下ろした、娘の生まれ変わりによ#」。



春菜、「そ..そうだけど..」。



良子、「それは、私の子供に対しての、罪滅ぼしでしょ#!」。



春菜、「違う、違います。私に対しての愛情表現です」。



良子はその時、自省した。



そして落ち着いて、「ごめん、独りよがりな感情をぶつけて..」。



春菜、「有難うお母さん。前世の母の愛情を今、私は受け止めたから..」。



その時、良子は万感な想いで、泣きながら春菜を抱きしめ、「切ない、切ないの、



私の罪を許してくれる、生まれ変ったあんたが切ないの」と、



春菜の胸の中で泣いていた。



春菜を抱きしめると、途方に暮れる良子だった。



この物語はフィクションであり、登場する人物、建物などは実際には存在しません。

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