第九章、休日3
卸本町の蜃気楼オリジナル文章
http://blogs.yahoo.co.jp/kome125/folder/1515222.html
良子は、一人で街を歩いていた。
様に思えたが、一人では無かった..。
良子は歩きながら、後ろを振り向き、「ちょっと、着け回すの止めてくれない#」。
柿本、「別に、行く方向が同じだけさ!」。
良子は、呆れながら、「もう!このストーカー#」。
柿本、「ストーカーって何だよ?」。
良子、「そうやって、着け回す人を未来では、ストーカーって言うのよ#」。
柿本、「狭い街中、偶然って事もあるだろ!」。
良子、「あんた、昔からそうだけど、言い訳が乏しいのよ」。
柿本、「どこ行くんだよ?」。
良子、「まったく、甘えた子供みたいに、私の勝手でしょ#」。
しばらく歩いていると、やはり柿本も、距離を置いて歩いて来た。
物陰に隠れた良子は、柿本を伺った。
柿本は路上でキョロキョロと、探していた。
丁度物陰に隠れた、良子の前を通りすがると良子が、「あんた、今度は本当に、
春菜に呪われるわよ、背中に張り付いて、『恨んでやる!』って!」。
柿本は驚いて、立ち止まって良子に振り向いて、「別にいいよ、
恨もうが呪おうが、構わないぜ!」。
良子は、柿本の目を見詰めて、「あんた、あの子が可愛いのね!」。
柿本、「だってよ~、俺の娘と確信出来たんだ、他人じゃない思いが..、
あの子に打たれた事で、何だか俺の愛情だと思い始めて、可愛くなって来てだな..」。
人差し指で、こめかみをかいていた。
良子、「へ~、今更自分が親の様に思えて来たの。
ふざけないでよ、この人でなし#」。
そう言って、そそくさ柿本を残して、歩き出した。
柿本はまた、後を追い、「今日春菜ちゃんは、どうしたんだよ?」と、尋ねると、
良子は、歩きながら振り向きもせず、「デートよ#」。
柿本、「お..俺達の事、本当に春菜ちゃんは恨んでるのか?」。
良子、「恨んでたなら、どうなのよ?」。
柿本、「別に、なんのお詫びも出来ないけど、深く謝りたい..」。
良子は、後ろを振り向いて、「安心しなさいよ!。
あの子の未来の両親は、普通の市の職員だけど、
一人っ子で、大きな庭に小さな遊具置いて、
何不自由無く、育てられたらしいわよ」。
柿本、「大学卒業するまでは、順風満帆か..」。
そして二人は、そのまま、歩き続けていた。
すると自然に、寄り添う様に二人は歩き、郊外に出た。
良子、「今日、車はどうしたの?」。
柿本は、両手をズボンのポケット突っ込み、「マンションの駐車場に置いて来た」。
良子は、強風に煽られ、コートの裾を立てて持った。
良子、「何故私を追うの?。今なら他に、あんたを慕ってくれる、女が居るはずでしょ!」。
柿本、「......」。
良子、「もう解ったわよ、あんたが立派になった姿は、
褒めて上げるから、付き纏わないでよぉ~」。
嫌気が差す良子に、柿本は、「お前が今の俺を認めるなんて、思って無かったよ。
逆にもっと嫌うと思った。俺の今の姿を見て、殺されるとも思ったよ..」。
良子、「十分嫌ってるけど、解らないの?」。
柿本、「でも春菜ちゃんは、『消えるな!』と、言っていたから..」。
良子、「......」。
柿本、「なんだかんだ言っても、娘なんだよあの子は。
生まれ変わっても、宿した親を慕ってる。
そうで無ければ、俺にあんなに怒りはしないさ!」。
良子、「あの子は、あんたに近づけさせたくないの」。
柿本、何気なく良子の横顔を見詰めて、顔を戻した。
良子、「私もあの子が可愛いの、今度またあの子に不幸が訪れたら、
そう..、私の責任であの子を不幸にさせたら、40年後の未来の母親に、
なんて謝ればいいの?」。
柿本、「どうして、そんな信じられない、神懸りが起きたんだ!」。
良子、「神よ、私達にきっちり責任と、生まれ変わったあの子に、
どう対応するかで、私たちの今後の運命が決まるのかも」。
柿本は後ろに両手を回し指を組んで、頭に着けて。
柿本、「そうかもな、俺達がここで出会ったのも、そう言う事なのかもな..」。
どれだけ歩いただろうか、風景は住宅地に変わり、日も沈み掛けていた。
するとスケート場の前を通りすがる二人。
柿本が不意に良子に、「なぁ、お前と初めて出会った時、スケート場だったな..」。
良子、「分かった入るわよ、私あんたから逃れる為に訳も無く、
歩いてたけど、あんた疲れて今日は、諦めるかと思ったけど根負けしたわ。
歩き疲れたから、ここで休んで行くわよ」。
柿本、「あ..あ~」。
するとチケット売り場で、柿本が大人二枚の入場券を買って、場内に入った。
スケートリンクには行かず、中の喫茶店で落ち着く二人は、ウェートレスに、
ホットコーヒーを注文した。
二人はここで、昔を思い出していた。
必ずスケートに疲れると、こうして喫茶店でコーヒーを飲んでいた。
柿本、「なぁ..、お前綺麗になったな、昔のヤンチャだった、あの姿とは大違いだ!」。
良子は、コーヒーを飲みながら、「そう..」。
言われた事を気にも止めずに、軽くあしらう様に答えた。
柿本は、本当にそう思ったのだが。
柿本、「クールにもなったな..」。
良子はその時、外を見詰め何も答えなかった。
柿本、「春菜ちゃん、ボーイフレンド出来たのか..」。
良子は、言葉少なげに、「年頃よ..」。
柿本は、コーヒーを一口飲んで、「お前が消えてから、路頭に迷ったよ。
今、ここで言い訳しても、真実味は無いだろうが、毎日狂う様に酒浸りだった」。
良子、「そう思った。あんた私に甘えてたから、居なくなったら、
喧嘩して務所に入るか、殺されてるかと思った」。
柿本、「俺は馬鹿だから、後悔してから自分の愚かさを知るんだ」。
良子、「取り返しの付かない事をする馬鹿とは、もう金輪際付き合いたくないの..」。
柿本、「良子..」。
しばらく二人に、沈黙の時が流れた。
柿本、「これが最後の頼みだ。やり直したいお前と、出来る事なら、
何度でも土下座するつもりだ、頼む..」。
そう言って頭を下げた。
良子は何も言わず、そっと席を立った。
柿本は、そっと頭を上げて、やるせない面持ちでいた。
良子はレジに立つと、座っている柿本に向かって、「賢、あんた滑らないの?。
せっかくここに来たんだから、滑らずに帰るつもりなの?」。
柿本は驚いて、サッと席を立ち、良子のもとへと歩いていった。
良子は店員に、二人分のコーヒーの代金を払い、
そそくさ場内の、スケートシューズの貸し出し場まで、足を運んだ。
そして二人は、リンクサイドのベンチに座り、スケートシューズを履いていた。
柿本、「俺の事、久しぶりに、賢と呼んでくれたな、嬉しかった..」。
良子、「甘えるんじゃない!。春菜があんたに告げた事、きっちり守るまでは、
私はあんたに、身も心も許さないから。
それでさっき私を落とそうと、回りくどくゴチャゴチャ言っていたけど、最初から本心を言えば、
時間掛けなくても済んだのよ、馬鹿..」。
柿本、「......」。
この物語はフィクションであり、登場する人物、建物などは実際には存在しません。




