第八章、復刻
卸本町の蜃気楼オリジナル文章
http://blogs.yahoo.co.jp/kome125/folder/1515222.html
あくる日、会社の昼休みは、地下倉庫で女性社員達が集まり。
良子を囲んで、昨晩の話で持ち切りだった。
あからさまに、柿本が寮に進入したので、経緯を同僚に話さない訳にも行かず。
良子は事情を皆に話す事になった。
里美、「それで、その春菜が言う、未来で例えるストーカーは、
その筋絡みなのかどうかは、解らない訳ね」。
良子、「でも、地元に居た時は貧乏で、土方で生計立ててたけど、
喧嘩っ早くて、直ぐ辞めては、他の土建会社に勤めてはの、繰り返しだったの。
そいつが、他の土地で事業始められるとしたら、他に宛ては無いはずだから..」。
圭子、「それであんた、幾つの時に青森から出て来たのよ?」。
良子、「19歳の時に、汽車乗り継いでは、各地パートで働いて稼いでは、
汽車を乗り継いで、東京にたどり着いて、小さな広告会社で二年事務こなして、
東京の仕事量と、殺伐とした人間関係に疲れて、この土地で落ち着いたの」。
<作者:汽車と言う表現ですが、実際は電車です。
この当時の人は、汽車と表現する事が多かったのです。>
洋子、「何だか置かれている環境と、生い立ちと時代は違うけど、
春菜の経緯に似てるね」。
理恵、「だから息が合うのよ..」。
里美、「まあ、目撃者はこれだけ居るし、これ以上ひつこく付き纏う様なら、
警察に任せるしか無いからね」。
圭子、「誰でも一つくらい過去に、惚れたはったは有るけどね..」。
春菜、「こう言ってはなんですが、単純な性格だとは思いますが..」。
良子、「そうよ、あれ単細胞なのよ..」。
皆なが笑った。
美佐子、「お金持ちでも、外資系か証券会社の社員なら、まだ救いはあるけどね」。
里美、「良子、その柿本さんは、幾つなのよ?」。
良子、「私と同じ歳」。
圭子、「私達と年齢変わらなくて、この土地に地盤も無いのにいきなり、
不動産立ち上げて、成功してるってそれは怪しいわね、確かに..」。
良子、「いずれにせよ、私から放れて欲しいの」。
その時、皆が頷いた。
夕方になり5時を回ると、会社も終わりのチャイムが鳴った。
帰りの身支度を整え、洋子、良子、圭子、春菜は会社から出た。
するとやはり、車を着けて彼が佇んでいた。
良子が呆れて、「いい加減にしてよ#」。
そう言うと、柿本は、「今日はお前を取り戻しに来た訳じゃない。
確かめたい事が有る」。
良子、「何よ?確かめたい事って#」。
柿本は片方だけ、ズボンのポケットに手を入れて、「良子、俺達の子供そう、
下ろした子供の生年月日を、覚えているか?」。
良子、「なによ、突然ぶっきら棒に#」。
柿本、「思い出せよ!」。
良子、「忘れもしないわよ#。私が18歳の春先3月8日、午前7時42分よ#。
渡されたわよ、医師からカルテをね!」。
その時、春菜の表情が、急に変わった。
春菜、「嘘..、嘘よ..」。そして大声で、「そんなの有り得ない#!」。
良子、「どうしたのよ?」。
春菜は、放心状態で、「私の生まれた月は3月、日は8日、時間は午前7時42分」。
良子は驚いて、「春菜、免許証見せないさい!」。
春菜は放心状態のまま、良子に自分の財布を渡した。
良子は慌てて、財布を開けて、春菜の免許証を確認した。
すると記載されていた生年月日は、昭和59年3月8日。
その時、良子は春菜を強く抱きしめた。
良子は抱きしめた瞬間、まるで自分の母親を抱きしめている様な、
どこか懐かしい感覚を感じた。
そして良子は、「生まれ変わったんだ!」。
万感な思いを胸に、春菜を抱きしめていた。
春菜も良子に抱きしめられると、不思議な感覚に襲われ、胸が熱くなった。
良子は春菜を抱きしめながら、「賢、あんたの顔なんか見たくない、
私の前から消えて#」と、叫んだのであった。
柿本は、「あぁ、お前の前から消えるよ..」。
そう言って、車に乗り込もうとした時だった。
春菜が、「消えないで!」。
柿本の動きが止まった。
春菜、「もう一度、自分を改め直して、そして良子さんを愛して..」。
良子は驚いて、「春菜..」と、呟いた。
春菜、「下ろした娘が、それを願ってる。
あなたは、そんなに悪い人ではない。
ただ昔、貧乏だった頃の自分を、見返して遣りたいだけなの。
これから、社会は高度成長期を迎えて、努力の仕方で学歴が無くても、
景気は上向きになり、物価も上がるけど収入も上がる。
今からでも遅くない、真っ当な人生を歩んで、そして良子さんをそう、
昔の私のお母さんを、心から安らげる家庭を作って」。
柿本、「君はいったい、どう言う経緯でここに居るんだ?」。
良子、「未来から、間違って40年前に遣って来たのよ!」。
柿本、「嘘だろ!。そんな神懸りみたいな、話が有るか?」。
良子は、抱いてる春菜を放して、「解った、あんたと話をするから、
明日の夜、この時間に迎えに来てよ。
三人で落ち着いた場所で、詳しく話しをするは..」。
柿本は頷いて、「あぁ、明日迎えに行くよ」。
そう言って、車に乗って立ち去った。
すでにこの周りには、会社の社員達が全員、佇んでその光景を、見ていたのであった。
この物語はフィクションであり、登場する人物、建物などは実際には存在しません。




