第七章、恋心4
卸本町の蜃気楼オリジナル文章
http://blogs.yahoo.co.jp/kome125/folder/1515222.html
そして、その男性は柿本である事は、言うまでもないが..。
春菜と良子が住んでいる、寮の部屋へと、二人に連れられ足を運んだ。
柿本の濡れた衣服を脱がせる春菜は、脱がせた後、
早速買って来た、男性用の下着を着けさせ、衣服も柿本に差し出した。
その時、柿本は何かを感じた。
柿本はセーターを着ながら、何だか他人に衣服を、与えられた様に感じなかった。
まるで自分の母親か、昔一緒に暮らしていた良子に、
服を与えられてる様に、感じてならなかった。
その後、良子と柿本は床に座ると、春菜は席を外そうと立ち上がり、
部屋から出て行こうとしたが、良子が、「ねぇ、あんたもここに居てよ..」と、呟いた。
春菜は足を止めて、良子の横に座る春菜だった。
しばらく黙っていた三人だったが、良子が切り出した。
良子、「今どんな仕事を、営んでるのよ?」。
柿本は、顔を上げて、「やけに、かしこまった言い方するな」。
良子、「もう他人でしょ!」。
その時、柿本は 一つため息を付いた。
柿本、「今はこの土地で、不動産会社を営んでいるんだよ」。
良子、「会社?。そんな資金、地元でも無いのに、どうやって作ったのよ?」。
春菜は、柿本の顔を見て、「尋常では無い所と、繋がっていますね..」。
柿本は春菜に、「ねぇ、君いったい誰なんだ?。
なぜ俺の心が読めるんだ!」。
春菜、「私にも解りません!」。
柿本の顔が覚束ない。
良子、「この子、私の心も伝わるのよ。私もこの子の思っている事が、伝わるの..」。
春菜、「それよりも柿本さん、あなたはもう一度、良子さんとやり直したい訳ですよね?」。
柿本、「だから、ここに来たんだ!」。
春菜、「でも、私が初めて会った時に言った事、聞けてませんね」。
柿本は、胡坐をかき直し俯いて、「だってよぉ、少しくらい俺の話を..、
聞いて欲しくて..」。
春菜は顔が強張り、「あなた、女性が産みたがっている子供を、
強制的に下ろさせた思いが、まったく解ってませんね#」。
柿本は、更に俯いて、「だってあの時は、周りの目も有ったから、
第一 俺はあの時、子供を育てる余裕なんて無かった。
だが今は、俺もこうして財産も出来て、立派にだなぁ」。
その時、春菜は立ち上がって、柿本の所に行き、思いっきり頬を引っ叩いた。
春菜、「立派になれば、良子さんの心の傷が、癒されると思ってるの#?。
いい加減自分の身の振り方、考えなさいよ#。
会社であんな、その筋みたいな車で乗り付けて、
ただあなたは、良子さんだけ欲しくて、周りの目も省みずに、
良子さんの会社での立場も、それに対する同僚の目も気にせずに、
のこのこ遣って来て、取り戻せると思ったら、大間違いよ#」。
柿本は、うなだれて、「きっついなぁ~、大人しい顔して..」と、呟いた。
その時、良子が、「ねぇ、もう終わったの私達。
あんたが今起こした行動は強姦よ、今後付き纏うなら、警察に相談するから」。
そう言うと柿本は、「俺、不器用だからさ..」。
すると春菜、「どこかの、有名俳優じゃあないんだから#、似てるの髪形だけ..」。
良子と柿本は、理解できなかった。
柿本、「俺、反省したよあの時、お前失って初めて、
大事な物は金や、名誉じゃない事に気が付いた。
でも、周りばかり気にして、自分を見失ってた。
その気持ちを、伝えたかっただけさ..」。
良子はその時、激怒して、「遅いわよ何もかも#。
もう下ろした子供は返って来ない。
あんたが養えなくても、私が養えた。
何度もあんたに頼んでも、『下ろしてくれの』の 一点張りで、
私の気持ちなんて、汲んでくれなかった。
それが何よ、今更のこのこ現れて、
デカイ面して、今なら養えるなんて言ったって、
私の気持ちが、治まるとでも思ったの#」。
春菜、「柿本さん、良子さんに甘えたいだけでしょ。
財産は出来ても、孤独なの。
どんなに良い物を手に入れても、支えてくれる誰かが欲しい。
その時、昔愛した女が目の前に現れて、どんな値打ちが有る物寄り、
輝いて見えた。『やり直したい無理にでも、俺の話を聞いて欲しい、
聞いてくれるなら、何とかなる』と、思ったあなたは、強行突破を図った」。
柿本、「君、本当に誰なんだ?。どうして解るんだ?、俺の心の叫びが..」。
春菜、「先ほど、今の財産を投げ打っても、良子さんが欲しいと言ってましたね。
それを実行出来たら、もう一度お話しましょう..」。
そう言うと、柿本は素直に引き下がる様に、
立ち上がって、「君は良子にとっては、本当にすばらしい同僚だよ、
良子をよろしく頼む..」。
そして、この部屋から出て行こうと、ドアを開けると、寮の女性達が驚いて、
廊下を駆けて行く音が聞こえた。
出て行くと、階段を下りて行った柿本。
それを二階の廊下で、見届ける春菜に柿本は、「春菜ちゃん、このセーター有難う。
気に入ったよ」。
そう言って、玄関で靴を履いて、扉を開けて出て行ったのであった。
春菜が部屋に戻ると、良子はしくしく泣いていたのだった。
この物語はフィクションであり、登場する人物、建物などは実際には存在しません。




