第七章、恋心3
卸本町の蜃気楼オリジナル文章
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会社も終わり、春菜の頼みで、街の洋品店に足を運んだ、良子と春菜。
男性物の下着から、セーターから買い込む春菜。
それを見た良子は当然、「ねぇ、あんたもう杉浦君と、そんな仲なの?」。
無論、良子は同棲の準備を行っていると思った。
春菜、「は?、違います..」。
良子、「あんた、すでに会社では噂が立ってるけど、正直に言いなさいよ」。
春菜、「違うんです。これには深い訳が有るんです」。
良子、「深い愛情が有るのね」。
春菜、「そうです。あの人は深い愛情を持っています。
でも、遣り方が悪い..」。
良子はその言葉に、驚いて、「杉浦君に、犯されたの#」と、激怒した。
春菜、「はぁ~?。何もされていません!」。
良子、「じゃ~何でそんなに、あんたに対する、杉浦君の愛情の掛け方が、悪いのよ#?」。
良子の顔が、虚ろになった。
春菜、「違います!。杉浦君じゃなく、柿本さんの事です」。
良子、「なんで賢が、関係するのよ?」。
春菜、「彼はすでに、ストーカーです。私..、一度経験してるんです。
あの様に毎日しつこく付き纏う人は、必ず良子さんと二人きりで、
話をしたくて、強行突破して来ますから..」。
良子、「はぁ?」。
良子は、訳が解らないまま、春菜と寮へ戻るのだった。
寮の部屋で..。
二人は何時もの様に、寛いでいた。
すると春菜が、「私、一方的に思いを寄せられて、付き纏われた事が有るんです。
『やめて下さい!』って言うと、寄りその男性は燃え上がり、
自分の思いばかり、私に押し付け、好意を寄せます」。
良子は、小指を噛みながら、「でも、賢がそこまでするとは、思えないけど。
間違いなく、賢がこの土地に居るのは、偶然だと思うから..。
私、青森の地元の誰にも言わずに、失踪したのだから..」。
春菜、「神様がリベンジそう、復刻をする様仕向けた..」。
良子はその言葉に、躊躇いを示したが、少し恐怖感を抱いた。
春菜、「良子さん、あの人の事まだ好きです。
でも、彼の思考を変えない限り、彼はまた失敗をします。
その時、良子さんは、昔味わった苦しみよりも、更に地獄を味わう様な事を、
彼から与えられる様な、気がしてならないの..」。
良子は、春菜のその真剣な眼差しに、信憑性を醸し出した。
すると自分のタンスの、一番上の小物入の底をあさり、
刃渡り15cmくらいの、ジャックナイフを取り出した。
良子はナイフを見つめて、「これ、昔はやんちゃで粋がって持ってたけど、
今は護身用に隠して有るの。女の一人暮らしは何かと物騒だから」。
春菜、「いざとなったら、それで彼を脅かすの?」。
良子、「いざとなった時は、あいつの息の根を止めるのよ!。
もう迷わない!。あいつは子供を一人殺してる」。
そう言うと、急に泣き出し、「あの子が居たら私は今、
どれだけ救われたか、あいつには解らないのよ#」。
春菜はその時、生唾を飲み、「でも、殺してしまったら、もう、人生やり直せないから..」。
良子、「本望よ!。私にも、あの子の命を捨てた罪が有る。
その罪だと思って、刑務所に服役すれば、私の罪意識も軽くなる」。
春菜は、急に立ち上がり、良子が持っていたナイフを取り上げて、「それは間違ってる#。
そんな事して、下ろした子供が安らぐと思ったら、大間違いよ#!」と、激怒した。
すると春菜は急に、「あれ?。私なんでこんなに怒れるんだろう?。
まったく無関係な話に..」と、呟いた。
何だか春菜は、急に他人事に思えなくて、堪らなくなった。
別に春菜には、子供を下ろした過去は無いのに、無性に怒りが込み上げた。
そして穏やかになる春菜に、良子が、「どうしたの?」。
春菜、「解らないでも..、何だか良子さんの、身勝手な衝動に駆られてる思いが、
許せなくなって、でも何だかおかしいの、他人事じゃ無い気がして..」。
そしてこの二人は、落ち着きを見せた。
春菜はそっとナイフを、良子に返して、良子もしまって有った、タンスの小物入れに、
ナイフを収めて、引き出しをそっと閉めた。
座って落ち着く二人は、しばらく黙っていた。
夜も更け、チャルメラのラッパが、聞こえて来る頃、
寮の玄関が開く音が聞こえ、チャルメラのラッパが止まった。
しばらくすると、チャルメラは遠くで鳴り始めた。
布団を敷き始めた二人は、消灯で有る。
電気を消して数分後、春菜が何か物音に気づいた。
布団から上半身だけ起こして、カーテンを見つめた。
そして小声で、横で寝ている良子の体を揺すりながら、「良子さん、良子さん起きて..」。
目を開けて、飛び起きる良子、「な..何?」。
春菜は人差し指を、唇に置いて、「シー」と、息を吐いた。
そして春菜は、そっと部屋を出て廊下に出て行った。
良子はその時、心細くなったか、
部屋のドアから、廊下をそっと伺い、「は..春菜、ちょっと何処行くのよ..」。
良子は体が震えて、止まらなかった。
すると春菜は、廊下の掃除器具が、置かれている所からバケツを取って、
廊下の洗面所でバケツに水を汲み、薄明かりがカーテンから漏れている箇所に、
そのバケツを両手で構えていた。
春菜は小声で、「良子さん、私が開けてと言ったら、鍵を解いて窓を一気に開けて」。
支持されるがまま、良子は窓の鍵に指を置いた。
春菜は、カーテンから聞こえる、微かな音を聞いていた。
そして、「良子さん今よ!。窓を開けて!」。
即座に窓の鍵を解いて、窓を一気に開けた。
すると、梯子を掛けて、1階と2階の中間付近で、
男性が上を向いて、驚いた表情でこちらを伺っていた。
すると春菜は、一気に汲んで来たバケツの水を、梯子の先端から掛けた。
男性は一気に顔に、水が掛かり堪らなくなって、
梯子から手を放し” ウヲォ~ ”と言って、下に落ちた瞬間、
”ドスン ”。その後に梯子が路上に落ちる音で、” ガン、カラン ”と、
夜も静まり返ったこの周辺に、擬音が走ると『何事か?』と、
寮の女性達は、一斉に部屋の電気を点けて、カーテンを引き、窓を開けて外を見た。
仰向けで路上に倒れている男性は、上半身だけ体を越し、路上に座り込んで、
頭を振って、意識を回復させた。
この時代の、夜中の気温はマイナスに近い温度。
そこに水を掛けられたので、堪らなかった。
しばらくすると、その男性の周りは、寮の女性達に囲まれていた。
皆腕を組んで..。
パジャマ姿で、皆カーデガンを羽織、皆頭には大きなカーラーを、複数巻いていた。
ゆっくりと良子と春菜は玄関を開けて、
外に出て、建物の部屋の窓側の方に歩いて行った。
男性の前で囲んでいる、女性群を掻き分け、そっと男性に近づく、良子と春菜であった。
すると春菜は、男性の前でしゃがみ、「警察呼ぶけど、いい?」。
男性に問いかけると、男性は開き直って、「好きにしろよ#!」と、ふて腐れた。
春菜、「好きにして良いのね!。では、あなたとこちらも、お話がしたいのですが、
ただ、こちらもあなたと同様、一方的なお話をしますが、
それが聞けない様でしたら、警察に突き出します」。
男性、「あぁ、構わないよ..」。
春菜、「警察に突き出すと、この土地で商売が出来無くなりますが、
それでも良いとおっしゃるの?」。
男性、「あぁ、もっと大事なものが有るんだ、それを取り戻せるなら、
また1からやり直す覚悟だよ」。
それを聞いた春菜は、「それなら、お話出来そうですね..」と、自分の手を差し伸べた。
男性は驚いて、「どう言う風の吹き回しだ?」と、
問いかけられる春菜は、「風邪引かない内に、着替えましょ!」。
その言葉に、男性は自分の手を差し出すと、春菜は男性の手を持ち、
手を引っ張って立ち上がらせた。
そして三人は、寮に向かった。
寮の女性達は、ただその光景を、見届けるだけに過ぎなかった。
この物語はフィクションであり、登場する人物、建物などは実際には存在しません。




