第七章、恋心
卸本町の蜃気楼オリジナル文章
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次の日..
春菜が倉庫であくせく働いていると、
杉浦が来て、「やあ、春菜ちゃん、仕分け作業ご苦労さん」。
春菜は、ダンボールを積んで、「杉浦さん、荷物こんなに有るんだけど、一人で大丈夫?」。
隣にいた小幡が、「年も押し詰まって来ると、こんなもんさ!。
春菜ちゃんの居た時代は、不景気で荷物少ないんだよねきっと」。
春菜、「そうです。ダンボール10個も運ぶ人が出たら、
どこの文房具屋か、社員は驚いて尋ねるくらい、不景気でした」。
杉浦と小幡は、「ヤレヤレ..」と、ため息を付いた。
すると里美が、階段を駆け下りて来て、「ねぇ、大原文房具店の納品、
HBの鉛筆、100ダースって書いて有ったのに、
ボールペン100本届いてたって、電話で文句が来たの。
誰か謝りに行ってくれない、お得意さんなのよ~。
HBの鉛筆、100ダース持って」。
小幡、「あの親父さんかぁ~」。
杉浦、「一分でも、届ける約束の時間遅れると、うるさいからなぁ~」。
そう言って杉浦は、HBの鉛筆の、箱の中を開けて100ダース数え始めた。
春菜は首を傾げて、「確か、納品書が..」と、そう言って、
手に持ってた書類を何枚かめくってみた。
春菜は納品書を見つけた様で、眺めていた。
すると春菜、「この書類には、今日の日付で、午前中までに大原文房具店、
黒いボールペン100本って、書いて有りますよ」と、
倉庫にいた皆に、書類を見せた。
小幡、「親父さん、ボケて来てるかもなぁ~」。
里美、「もう、80歳だからねぇ~」。
杉浦、「確かに、小学校近くの文房具店で、
ボールペン100本も、急に要るとは思い難いが..」。
里美、「先月もそう..。後から息子さんが、誤りの電話が掛かって来たのよ。
『12色入りの色鉛筆箱100個注文、父が間違えて、注文したらしいので訂正して、
絵の具を12色の箱入り、100個注文したい』とね」。
小幡、「俺が行って来るよ、杉浦..」。
杉浦は100ダースの鉛筆を、専用の箱に収めて。
「俺の方が、あの親父さんを、なだめるの得意だから、
俺に任せとけ!って」。
すると急に里美が、春菜が持っていた書類を取って、「あんたも一緒に行って来なさいよ!。
もうこの時代に生きる覚悟でしょ!。
こう言う時の、お客様の対処を、伝授して貰いなさい!」。
春菜は急に振られたので、どもりながら、「あ..は..はい..」。
小幡、「春菜ちゃんに、あの頑固な親父の対応出来るかなぁ?」。
春菜、「謝るのは、派遣社員として働いていた時から、慣れてますから..」。
里美、「一昨日、寮で春菜と食堂で、話しをしてた時だけど。
未来の方が、上司にどやされる事が多いらしいわよ」。
杉浦、「まあ、俺に任せろって」。
そして春菜と杉浦は、他の荷物も積んでトラックで、
大原文具店に向かった。
大原文具店に着くと、店主が店の前で腕を組んでいた。
その前でトラックを止めて、二人が降りてきた。
早速二人は、「申し訳御座いません」と、深々と頭を下げた。
店主は、「先月もそうだ#!。たるんどる#」と、激怒した。
すると杉浦が、「親父さん、街のキャバレーの桜ちゃん、
『親父さんこの頃、店に顔出さないの、寂し..』って、
街のラーメン屋で偶然会った時、言ってたよ!」。
店主、「今はそんな話は、しておらん#!。
なぜ違う商品を納品したか、訳を言え#!」。
杉浦、「あ~、それは、うちの女性社員がこの頃、
中耳炎に掛かって、耳の聞こえが悪くてね、
よく聞き間違えるんだよ、申し訳ない。
今度はちゃんと、注文の品持って来たから。
それと..、キャバレーのパーティー券を、お詫びに添えて置くから」。
店主、「お前、いつも謝る時は、それを持って来るが、
もう、その手には乗らんぞ#!」。
真っ赤な顔して、怒る店主に杉浦は、「要らないの?」。
そう言うと店主は、咳払いをして、「ん..ん~、ま..まぁ~、
これはこれで、貰って置くが、ちゃんとわしが言った商品を、持ってこんか#!」。
杉浦、「でね、新しく入った、キャバレーの女の子の写真だけど..」。
店主、「わしは今、キャバレーの話なんぞ、聞きたくはない#!」。
杉浦、「ラーメン屋で会った時、桜ちゃんから渡された写真だけど。
見たくない程、怒ってるのなら、見せないよ..」。
店主は、跡にも引けなかったが、「見せてみろ#!」と、言い放った。
杉浦は、ポケットから財布を取り出すと、
写真を出して店主に見せた。
すると今まで強張ってた顔が、急に綻び、鼻の下を長くした。
その写真を、何気なく春菜が見ると、厚化粧に長い付けまつげ、
頭はクルクルパーマで茶髪、ピンクのネグリジェを着ていた。
口を押さえて、必死で笑いをこらえる春菜だった。
すると店から、歳は40半ば位の男性が、飛び出して来た。
店主を見るなり男性は、「お..親父ぃ~#!」と、怒鳴った。
それはこの店の、息子だった。
息子、「いい加減にしろよ#!。親父にHBの鉛筆100ダース、
問屋に頼んでくれって言ったのに、ボールペン100本届いて、おかしいと思って、
お袋に聞いてみたら、『親父がさっき電話で問屋に、
ボールペン100個で注文してた』って、言ってたぞ#。
また、問屋に謝の電話しなければ、ならなくなっただろ#!」。
すると息子は、こちらに気づき、「あ..あ~、真に申し訳ない!。
親父が間違って注文してしまって。
あ..あの~、まさか親父が文句の電話、そちらに掛けて来ましたか?」。
その時、春菜と杉浦は何も言えなかった。
そして春菜が、「あの~、先ほど間違った品物、今度は正しく持って来ました」。
そう答えると、息子は、「と、言うことは親父。そちらに文句言ったのですね?。
私はそちらにはまだ、連絡していませんから..」。
大きく頷く、春菜と杉浦だった。
杉浦、「親父さん、パー券返せよ..」。
店主は、情けない顔して、「い..嫌だ..」と、答えたのであった。
この物語はフィクションであり、登場する人物、建物などは実際には存在しません。




