第六章、再会 3
卸本町の蜃気楼オリジナル文章
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良子と春菜は寮の部屋で、お互い俯いていた。
何気なく、良子は呟いた。
「有難う嬉しかった」。
春菜は、「いいの、ただ良子さんの、本当に言いたい事気持ち、
そのままあの人に、伝えただけだから」。
その時、強風が吹き荒れ、窓がガタガタ音を立てていた。
良子、「許せないの、あの人の事..」。
春菜、「そう、それでいい、そんなに簡単に、
許してはいけない事、して来たんだから。
今でもあの人の事、愛していても..」。
良子はまた泣き出し、「無理してでもあの子を産めば..、
こんなに悔いる事無かったのに..」。
春菜、「でもあの人、心底悪い人では無いと思う..」。
良子は、鼻をすすりながら、「そうよ、喧嘩っ早くて、
街で番張っていたけど、愛情あって優しかった。
子分も慕ってたの。強い者には立ち向かって、弱い者は守ってた」。
春菜、「でも、成りとか見栄とか、気にするタイプね..」。
良子、「そう..、その通りよ」。
そんな二人の夜は、更けていった。
そして、次の日の会社の帰り。
男性、「だから、送って行くから車に乗れって!」。
会社の前に、黒塗りの大きな車を、横付けしていた昨日の男性。
良子、「ちょっと#!いい加減にしてよ!。
そんな車で来られたら、会社で噂が立つでしょ!」。
春菜が、その車の所に行き、窓から顔を出している男性に、
「ねぇ#!、昨日私が言った事、何も理解していないでしょ#」。
男性は、態度が小さくなり、「だって、良子の心を測るには、
取りあえず、会わないと始まらないだろ..」。
春菜は呆れて、「もぉ~#」と、叫んだのであった。
それを見た良子は、「いい加減にしないと、警察呼ぶわよ#」。
男性、「俺は今ここで、何も悪い事はしてないだろ!」。
洋子、「悪い事していなくても、警察がその成り見れば、
この場で脅かしてる様にしか、見えないでしょ!」。
確かに、黒塗りの大型の国産車で、ダブルのスーツを着て、
角刈りでサングラスを掛けている姿は、まさにその筋であった。
良子、「とにかく、今後あんたとは、口きかないから..」。
そう言って、小走りに裏のバスの駐車場に、消えて行った四人だった。
次の日の昼休み、四人は近くの売店が複数入っている、
テナントビルの 一階のベンチ座り、話をしていた。
圭子、「あの人名前は?」。
良子、「柿本 賢」。
洋子は、あんまんを頬張りながら、「話は変わるけど、
あんたの時代は、あんまん有るの?」。
春菜は、せんべいをパリパリ食べながら、「有りますよ!。
あんまんも、肉まんも、カレーまんも、ピザまんも、黒豚まんも」。
圭子、「洋子良かったわね、種類も豊富よ!」。
洋子、「ならいい!、さっきの話続けて..」。
圭子、「せんべい有るよね?」。
春菜、「有ります。この時代と味も形も、変わりません!」。
圭子、「さっきからあんた、旨そうにせんべい、バリバリ言わせて、
食べてるから、すでに未来は無いかと思った」。
春菜、「その柿本さん、きっと良子さんを、ストーカーしますよ今後」。
三人は同時に、「ストーカー?」。
洋子、「スカートならいつも履いてるけど、ストーカーは聞き慣れないね..」。
圭子は、三角形の紙パックの牛乳を、
小さな細い、ストローで飲みながら、「で..そのストーカーとは何?」。
春菜、「誰かを、四六時中見張る人の事です」。
洋子、「デカじゃないのに?」。
春菜、「そうです。好きな人の後を着けて、行動を把握して、
いたずら電話を掛けたり、酷くなるとそっと尋ねて来たり、
最悪自分の思いがその人に、受け入れられなければ、その人を殺したりします。
つまり独り善がりな、自分の思いを、受け止めてくれないと、
その追いかけている存在を、消そうとする卑劣な行為です」。
圭子は、震えながら、「そ..それはあくまでも、春菜が居た時代の進んだ社会の、
犯罪行為であって、この時代にそんな、極悪非道な事件は、聞いた事がないわよ」。
洋子も震えながら、「そ..そうよ!、いくらなんでも、そこまで行く前に、
警察に頼ればね~良子..」。
良子、「そんな事したら、殺される前に、私が殺してやる#!。
もうすでに、妊娠した私の子を、間接的にだけど殺してるのだから..、復讐してやるわよ#!」。
すると、このフロアーに 一人の男性が遣って来た。
その男性は、この四人の前に立つと、四人は悲鳴を上げた。
男性はサングラスを外し、「なぁ、この子と二人だけで、話がしたいのだが..」。
良子は咄嗟に、春菜の手を持ち、「手荒なまねしないでよ#!、警察呼ぶわよ#!」。
焦りながら、必死に男性に訴えた。
それは柿本だったのは、言うまでもないが。
柿本、「手荒なまねはしないさ、約束する」。
良子、「私に聞分けが無ければ、この子を利用するの#」。
春菜、「良いですよ!、少しの時間なら..、お話しましょうか?」。
冷静に答える春菜に、三人は同時に、「春菜ぁ~」と、呟いたのであった。
良子はその時、「条件が有る!。私も遠くからこの子を見張るから、
手を出したら、即座にあんたを警察に突き出すから、いい#!」。
柿本、「あ~、好きにしろよ!」。
そうして、このフロアーの二階の、喫茶店に足を運ぶ、春菜と柿本。
その後に着いて行く、良子であった。
喫茶店に来店する三人は、柿本と春菜は、
テーブルを挟んで向かい合わせに、椅子を引いて座った。
良子は、喫茶店の窓際の角のテーブルに着いた。
ウェートレスが、水をテーブルに運んで来ると、
春菜が、「ホットコーヒー」と、答えると、柿本が、「同じでいい」。
ウェートレスは、頭を下げて立ち去った。
しばらく黙っていた二人は、コーヒーが運ばれ、春菜はテーブルに置かれていた、
角砂糖を一つ入れて、スプーンでかき混ぜた。
柿本は、そのままカップを持って飲んだ。
そして、コーヒーを受け皿に置いた柿本が、「なぁ君、場に慣れてるだろ!」。
春菜もコーヒーを 一口飲んで、「それは『修羅場に慣れてる』って、事ですか?」。
柿本、「そうだ!」。
春菜はコーヒーを飲みながら、「だから何ですか?」と、クールに答える春菜に、
柿本は、ため息を付いた。
春菜はチラっと、柿本の表情を伺い、視線を逸らして、「あなたは今、
財も肥やした、名誉も手に入れた。
そんな時、昔捨てざる負えなかった、愛した女性が目の前に現れた。
申し分ない自分のチャンスが巡って来たと、思っていますね。
何より昔の女に、それを見せたい、『俺は昔、お前一人、養えない情けない男だった。
でも今の俺を見ろ!。こんなにも立派になってる。どうだ!』とね..」。
柿本は、表情を濁して、「なぁ、君は誰なんだ?。どうして俺の心の底を探れるんだ!」。
春菜は、急に激怒した。
「そんなに良子さんが欲しいなら、地位も名誉も捨てる覚悟で、臨む事ね#。
あなたは今、自分の私利私欲で、良子さんを欲しがってるだけじゃない#。
結局あなたは、ただ成り上が振りを、自慢したいだけに過ぎないの。
昔愛して、甘えてた女にね..」。
そう言って、椅子を引いて、この場を立ち去った、春菜であった。
愕然とした面持ちで、頭を抱える柿本の前に、誰かが佇んだ。
柿本は、頭を上げて、「良子..」と、答えると。
良子は何も言わず、立ち去ったのであった。
この物語はフィクションであり、登場する人物、建物などは実際には存在しません。




