第六章、再会 2
卸本町の蜃気楼オリジナル文章
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四人は寮の部屋に居た。
俯く良子は、訳を話し始めた。
良子、「私、二十歳の頃まで、故郷の青森で、彼と同棲していたの..」。
洋子は何気なく、窓の外を見つめながら、
落ちてゆく枯葉を見つめ、「あまり、良い別れ方を、
してない様ね..」と、呟くのであった。
圭子、「別れた勢いで、この土地に流れて来たんだ..」。
良子、「そうよ、あの時は、うまく行くと信じてた、でも..」。
その時、春菜の様子がおかしくなる。
急に涙が頬を伝った。
春菜、「伝わる、痛い程伝わって来る。良子さんの気持ちが..」。
良子は俯きながら、何気なくそんな春菜の様子を少し伺い、「何故だろう?、
この子と以心伝心出来るのは..」。
そう呟くと、良子も春菜と同様に、涙が頬を伝った。
圭子、「ねぇ..、前にも伝わるって言ってたけど、
言葉が聞こえて来るの?」。
良子、「違う、この子が考えてる事が、私にも感じるの、
独自にお互い、考える事が同じでは無く、側に居ると何故か感じるの」。
洋子は春菜に、「ねぇ、そうなの?」。
春菜は急に声を出して、泣き出し涙を拭い、「私にも分からないけど、
伝わるの、切ないの、寂しいの、怖いの、今何故か感情がそうなるの..」。
良子も涙を拭い、「私の気持ちが、すべて伝わるのこの子に..」。
その光景を見た、圭子と洋子は放心状態だった。
どもりながら、洋子が、「あ..あの~..その~..、春菜も..つ..辛い時の気持ちがね..、
良子にもね..、伝わる訳なの?」。
圭子、「そうでなければ、仕事の遣り取り、あんなにテキパキ、春菜がここに来て、
二日も経たない内に、出来る訳ないでしょ!」。
洋子、「それで、彼も良子の行方追って、ここに来た可能性も、ある訳なのかな?」
良子、「偶然だと思う。彼の方が私を、一方的に遠ざけたから..」。
圭子、「捨てられたのか..。なら彼もあの時、振り向かず、
そのまま立ち去れば、いいのに。良子を迷わすだけじゃない#」。
洋子、「私も少し、後ろ振り向いたけど、未練がましい顔だったよ」。
春菜、「あの人、何か感じる..。言い様が無い、どこか懐かしい感じがする」。
圭子、「温もりも、以心伝心出来るのね..」。
洋子、「忘れなよ、昔の話よ、もう終わった事だから」。
そして、次の日の月曜日。
会社からの帰り、良子と春菜は、日用品を買う為に、
街まで市営のバスに乗り、街で降りて、
街からの帰りは、徒歩で寮まで帰宅する事にした。
この時代の山下町は、大勢の人々が街から歩いて、通勤している人は多く、
皆笑みが絶えなかった。
この二人も、同じ様に仲良く歩いていると、急に背後から、「良子..」と、
呼び止められた。
振り向く二人は、先ほどまでの笑みが消えた。
そこには、昨日の男性が立っていた。
白いタートルネックのセーターに、灰色のズボンを履いていた。
沈黙が流れ、男性が切り出す、「ま..まさか、同じ土地に居たなんて、
思いもしなかったから、あの時は驚いて、何も言えなかった。
昨日気になって、お前を着けたら、あの寮に入って行くのを見て、
朝、寮で張っていたら、あの会社に勤めている事が分かったんだ」。
その時、良子は何も言わず、春菜の手を引いて立ち去った。
一緒に歩きながら、後ろで男性は、「待ってくれ!、あの時の俺は、
喧嘩ばかりしていて、まともな仕事に有りつけなかった。
金も無く、産ませる金も、子供を養える財力も無かった。
だが..、今なら俺は、事業を立ち上げて成功しいてる。
お前を食わせて行ける」。
良子は振り向きもせず、「今更なによ#!、私はあの時から、
別にあんたに、食わせて貰おうなんて、これっぽっち思ってやしなかったわよ#」。
男性、「なあ、俺の話を聞いてくれよ!。
子供を下ろさせたのは俺が悪い謝る」。
良子は急に立ち止まり、振り向いて、「何よ#!人でなし、
下ろした金だって、私が出したのよ#!」。
男性、「あの時は俺も幼かった!。
金も無くお前に甘えっぱなしで、それに近所の目も有った」。
良子、「世間が何よ#!、私だって昼間は近くの八百屋で働いて、
早朝は市場で働き、生計を立てて貯金もしてた。
あんたの一言で、子供を産めた」。
そう言ってそそくさ、その場を立ち去ろうとした時、
男性が、「待ってくれ」と、良子の手を、その男性が掴んだその瞬間、
春菜がいきなり、男性の頬を張り倒した。
男性は驚いて、張り倒された方の頬を手で覆った。
春菜、「無理に寄りを戻そうなんて、甘ったれてるにも程が有る#!。
自分の要求だけ通そうなんて、都合が良過ぎ。
良子さんが欲しければ、もっと誠実な態度で臨んでくれる?。
時間を掛けて、良子さんの心の傷を癒しながら、あなたと過ごした時間を、
もう一度、思い返して少しずつ、距離を測ってくれる?。
その距離は、心の距離よ..。あなたが何もかも、取り戻せない遠い所へ..、
良子さんの思いを、置いて来てしまったのだから..」。
そう言うとその男性は、急に態度が変わり、「悪かった、もう一度出直してくる」と、
言い残して、立ち去って行った。
その時、良子は春菜の背中で泣いていた。
この物語はフィクションであり、登場する人物、建物などは実際には存在しません。




