第五章 追憶
卸本町の蜃気楼オリジナル文章
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日曜日、良子と春菜は会社から、東へ1キロの、
未来に建つはずの、春菜の自宅の土地に佇んでいた。
二人はお互い、色違いのタートルネックのセーターを着て、
ジーパン姿で、広大な畑でおしゃべりをしていた。
春菜、「わ~、すご~い!、信じられない」。
良子、「何が?」。
春菜は、両手を広げて、「だってこんなに広大で、素朴な風景が広がってるんだもん」。
良子、「あんたの住んでたここは、ビルだらけなの?」。
春菜、「確かに畑や田んぼは多いけど、こんなに家が無いなんて..」。
良子、「一部宅地化されたのね..」。
海に近い白羽町のこの地区は、昔は畑しか無かった。
春菜、「そう..、私の親は、市の普通の職員だったけど、
家と土地だけは広くて、幼い時は庭に公園みたいに、
遊具が置いてあって、小さなブランコや滑り台、
砂場にベンチに、そう私だけの小さな公園が有ったの」。
良子、「一人娘で、可愛がられたのね。きっと..」。
春菜、「目の前の..」、そう言って遠くを指差し、「あそこかな..?。
片側二車線、中央分離帯を挟んで、両方向合わせて4車線の、国道1号線バイパスが、
通っているの。幼い頃は暴走族が夜な夜な、爆音立てて走り回ってた」。
良子、「こんな畑のど真ん中に、そんな大きな道路を通すのね..、未来は」。
春菜は、遠くを見つめて、「空気も違う」。
そう言って、大きく深呼吸をした。
良子、「環境破壊、排出ガス、未来は空気も相当汚れているのね」。
春菜、「一時前寄りは、トラックの排ガス規制のお陰で、
真っ黒い煙を出して走るトラックは、減ったけど..、
この環境には、辿り着いてない..」。
そして二人は歩き出した。
どれくらい長く、農道を歩いただろうか、松林を抜け砂丘に辿り着いた。
昔は有名だった中田島砂丘。
砂丘の山を、幾つも乗り越えて行く春菜は、「わ~、噂では聞いていたけど、
本当にこんな砂丘が有ったんだ!」。
良子、「あんたの時代はもう無いの?」。
春菜、「一つも有りません。一箇所だけ、
凧場の会場入り口付近に、人工的に作った、小さな砂丘が一つ有るだけで、
砂の下は赤土が巻かれています。
後の入り箇所は、松林を抜けると直ぐ海が見えたから..」。
良子、「どうして?。コンクリートで使うから、砂丘の砂持って行ったから?」。
春菜は、首を傾げて、「さ~?、なんでだろう?」。
実は、中田島砂丘の侵食は、ダムのせいで、
天竜川上流の大きな石が、下流に流れてくる時、転がって削れて、
小さな砂になり、それが海岸で放射状に広がり、砂に風が吹くと山になり、
それが砂丘になります。
ですが上流の、佐久間ダム、秋葉ダム、船明ダムの様なダムが、
石を塞き止めてしまい、年々海に削られて行く事から、
砂丘が無くなって行きました。
要約いくつもの砂丘を乗り越えて、海が見えた。
この物語はフィクションであり、登場する人物、建物などは実際には存在しません。




